第29話 お迎えの手配

 土曜日の朝。

 伝えられていた通り、朝9時に二階堂先輩からのコールがあった。


「お伝えしていた通り、本日は、僕の家に来てもらうということで良いかな?」

「はい、わたし達はまったく構いません」

 と、穂香ほのか(大)が答えた。


(うわぁ、いきなり、先輩のお宅訪問のターン、なんて)


「助かる。いくら保護者同伴とはいえ、僕の研究室に異性の未成年者を何度も迎え入れたのでは、外聞に問題が生じかねないからな」 


 確かに、らしい制服姿で見た目13歳のわたしは、研究室志望者とは思われがたいだろう。保護者役の穂香ほのか(大)の方も、大学生に毛が生えた程度の年齢だ。

 

 わたしがそう納得していると、二階堂先輩は、

「僕の家には、側付きの者が数人いて、君たちと同性の側付きもいるから、構えなくてもいいから」

 と続けた。


(住み込みの側仕えが何人か、って、どこぞの貴族様ですか?)


 まぁ、ありうる話だけれども。わたし達が所属していた二宮研究室では、二階堂先輩のご実家がお金持ちであることは有名なのだった。


 なんでも、先輩は、機能化学分野で実質世界二位の売上規模を誇るニホン化学グループを経営する二階堂家の本家筋ということだった。研究室にいらした時の先輩ご本人は、いつも地味なシャツにジーンズ姿で、研究に没頭しているだけで、お金持ち感はゼロだったのだけれども。ただ、ゼミの飲み会の後に、先輩の部屋に行ったのだという榊原さかきばら先輩いわく、「二階堂さんの部屋な、4人家族でも広々と住めそうな感じだった」とのこと。

 親戚が空き部屋にしていていたので、無償で貸してもらっているという山手線内は千駄木駅そばのマンションの最上階の4LDK。「賃貸相場は、月に100万円くらいかな」と、榊原さかきばら先輩の彼女だった絆杏はんなさんが分析していた。


(それにしても、同性の側付きって・・・)


 頭の中に、美人秘書やメイドさんの姿が思い浮かぶ。

 おそらくは通いなのだと思うのだけれども。先輩のお部屋でベッドメイキングをしているメイドさんが、先輩といけない関係になるさまを思い浮かべてしまったり・・・と、わたしの三十路脳に妄想を浮かべていると、穂香ほのか(大)と話をしていた先輩は、


「今から迎えの車に向かわせるので、君たちは、そちらに乗ってきてください。君たちのお宅は、こちらで良かったよね」

 

 通話ディスプレイに、マンションの住所と「パークマンション水元公園 ザ フォレスト708号室」という、わたし達の部屋の正式名がそのままずばり表示された。


(まぁ、研究室には連絡簿があったしね)


 わたしは電話番号しか登録した覚えはないが、当時の二階堂先輩は研究室付の有給助手だった。学生名簿を共有されていたのかもしれない。


「はい、その通りです」

「では、今から車を向かわせよう。運転手は仁田本という名前だ。霊長類研究所の駐車場で待機させているので、いつでも向かうことと可能なのだけれど、何分後くらいがいいかな?」


 今度は、通話ディスプレイに、

 グレイヘアーで執事っぽい雰囲気の男性の顔写真と

「運転担当 仁田本勉にたもとつとむ 53歳」という肩書が表示される。

その横には、使用する車両の車種名と写真が表示されている。


(先輩、根回し良すぎです)

 同じように思っているはずだと思うのだけれども、穂香ほのか(大)は、さらりと、

「20分くらい後でお願いいたします」

と答えた

 二階堂先輩は「了解した。そのように手配する」とおっしゃり、通話を終えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る