第17話 二階堂研究室

 『京都大学理学系研究科霊長類研究所 コンゴ友愛祈念ボノボの森 キャンパス』という立派な看板が掲げられた建物に入った。

 受付で、穂香ほのか(大)が、三井ハイケミカルの身分証を提示しつつ、二階堂研究室への訪問申請をする。

 

「二階堂先生、妹さんの進路相談伺いの凪沙野穂香なぎさのほのかさんがいらっしゃいました。同行者は妹さん1名となります」

 そう二階堂先輩に連絡をしてくれた受付のおじさんにお礼をしつつ、わたし達は研究所内に入った。


 エレベーターを3階で降り、わたし達は二階堂研究室に続く廊下を歩く。

 

「イモウトよ、少し緊張しているかい?」

前を向いたまま、穂香ほのか(大)がわたしに尋ねてきた。


「もちろん、少しはね」

穂香ほのか(大)の背中に向けてわたしは答えたけれども、緊張しているのは、たぶん穂香ほのか(大)だ。


 わたしの記憶が正しければ、穂香ほのか(大)は、おそらくは二階堂先輩にほぼ現役トキメキ中。一方、脳内年齢で既に今の先輩の年齢を越え、彼氏なし歴も二十代も卒業済のわたしの方は、ずうっと枯れた心持ちである。


 コンコンっとドアをノックをした穂香ほのか(大)は、

「二階堂先輩、失礼します」

と、研究室に入っていった。


 ☆

 

 軽く挨拶をした後に、打ち合わせ用机でわたし達と向かい合った二階堂先輩は、穂香ほのか(大)とわたしとを交互に眺めた後に、

「本日は妹さんのことで相談があるということだったけれども」

と、穂香ほのか(大)を促した。


「はい、私の隣に座っているのは、私のイモウトのようなものなのですが。私は末っ子で妹はいないのです」


「ほう」

 二階堂先輩に視線で続きを促されるままに、穂香ほのか(大)は、少し詰まりつつも、穂香ほのか(大)目線でわたしとの出会いを話しはじめた。

 すなわち、マンションの自室の寝室に凪沙野なぎさのジャージで座っていたわたしが、所持していた黒色の身分証を差し出した馴れ初めのことを。

 

 穂香ほのか(大)が三井ハイケミカルのIDカードを差し出すのに合わせ、わたしは四葉蛋白質工業のIDを先輩に差し出した。2つのIDカードの名義は共に凪沙野穂香なぎさのほのか、会社住所も同一。わたしの脳内年齢を穂香ほのか(大)が知る決定打となったIDだ。

 

 両者を見比べた二階堂先輩は、

「三井ハイケミカルが四葉グループに入る、という近未来か」

 とつぶやいた。


 穂香ほのか(大)に代わり、わたしが三井ハイケミカルが四葉蛋白質工業に吸収合併されてからの話を簡単にする。海外の商流は、変わらず物産に任されているので三井グループの影響下にあること、合併後に広報担当となったわたしは週に一度は大手町の物産ビルに通っててることなど。そして、この身体になる前のわたしが(穂香ほのか(大)の前で作った設定通りに)26歳であったことを話した。

 

「先輩にご指導いいだいて、せっかく研究職も目指せる立場にいたのに、残念ながら力足らずでした」

 と、少しわざとらしいかなと思いつつもテヘペロポーズを作って、わたしは話を区切った。


 いくつか確認の質問をした後に、先輩は、

 「今の話により客観的なあかしが欲しいな・・・そうだな、2人の身体測定などをさせてもらおうか」

 とわたし達を促した。

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