第18話 貴様らの性根を叩き直す!

 

 ハーレムの暮らしにも慣れてきたころ、俺は突然思いたった。


「やっぱり、このままじゃダメな気がする……」


 全裸のまま真剣な顔つきでそう言い放った俺を、カレンが怪訝な顔で見つめてくる。


「なにがダメだってのよ……?立派な屋敷に、美少女に囲まれて、これ以上なにが不満なわけ?」


「いや、不満なのは、俺についてじゃない。お前らの態度だ……」


「はぁ……?まーだ私たちになんか文句があるっての……?」


「お前たちは申し訳なく思わないのか……?へローラの金で毎日ダラダラ暮らすことに……」


 本来俺も相当の怠け者でクズだという自覚があるが、さすがにそろそろなにかしないと落ち着かない。


 それだというのにこいつらときたら……、


「いや、ぜんぜん」


 異口同音にそう言うもんだから、ほとほと呆れる。


 とうのへローラも、


「わたくしはそれで構わないともう何度も言ってますが……?」


 これだから、コイツらがどこまでもつけあがる。


 まともな感性を持っているのはどうやら俺だけのようだ……。


「いーや、ダメだ。俺はこれ以上この屋敷にはいられない。冒険者に復帰して、今度こそ自立した生活をおくるぞ!少なくとも、もうへローラの世話にはならない!」


 カレン、ミリカ、エラ、エルはそれを聞いて、心底嫌そうな目で俺を見つめてくる。


 レグだけが「パパ、偉い!」と俺を褒めてくれた。


「まあ、アウルス様がそうしたいと言うなら……わたくしは止めませんけれど……」


 へローラもなんとか納得してくれたみたいだ。


「よし、じゃあみんな、支度をしてくれ。今日中にこの屋敷を出るぞ!」


「えー……私たちも行くの……?」


「当たり前だ!」


「ちょっと勘弁してよー……私たちが冒険者としてはポンコツで使えないこと、アウルスが一番よくわかってるでしょう……?また無能!とか言って追い出されるのは勘弁よ……?」


「大丈夫だ……俺に策がある。もう以前のようにはいかないさ……」



          ◆



 俺たちはとりあえずの荷物を纏めて、家から出た。


 そして俺たちがやって来たのは――神殿だ。


「……で、こんなとこきて何するのよ……?」


 真っ先に口を開いたのはカレンだ。かつていっしょにパーティを組んでいた時と同じ、赤い戦士の鎧を身に纏っている。


「お前には今から転職をしてもらう」


「……!?は!?私、戦士しか嫌よ!」


 ……むかっ!俺は憤慨した。


「いや、スライム程度にビビり散らかすような戦士なんて人権ねぇから……」


 俺は残念戦士に、残念な顔を向ける。


「やっぱり、そうやって理由をつけてまた私を追い出そうって魂胆なんでしょ!」


「いや違うって、話を聞け。そうならないために、俺がいろいろと考えてやったんだから!」


 たしかに、以前の俺なら追い出していただろう。だが俺は一度こいつらと離れたおかげで、いろいろと見えたものがあったのだ。


 それに、一度肌を重ねてしまえば、やっぱり離れるのは惜しいものだ。


「以前に、カジノでカレンが大勝ちしたことがあっただろ……?」


「ああ、ラスノテのカジノでね……よく覚えてるわね……」(4話参照)


「あれを思い出したんだ……ちょっと、このサイコロを振ってみてくれ……」


 俺はそう言って、袋から三つの六面ダイスを取り出すと、カレンに手渡した。


「……これでいい?」


 ――コロコロコロ。


 何度かの回転を繰り返し、ダイスが止まった。


 なんとその出目は、六のぞろ目。


「これは……びっくりですねぇ……」


 ミリカがそれを感心した表情で覗き込む。


「……やっぱりな……」


 俺は自分の仮説が正しかったことを確認して、満悦だ。


「どういうこと……?」


 あの時カジノにいなかったエラが、状況がわからずに訊いてくる。


「いいか……?つまり、こういうことだ、カレンは……めっちゃくちゃ運がいいんだ!それも尋常じゃないほどに……」


 俺がそう言うと、カレン自身も信じられないというようすで、再びサイコロを振りだした。


 だがなんど振っても、ぞろ目。ぞろ目、ぞろ目。


「ほんとだ……すごいです……」


 エルが驚嘆の声を漏らす。


「それで……あんたはこの私を、どうするつもり……?」


 カレンが本題を切り出す。


「そうだな……お前の新しい職業は……『ギャンブラー』だ!」


 ギャンブラー――それは不人気職の一つで、運ですべての攻撃が左右されるジョブだった。


 なぜ不人気かというと、運が良ければ高威力のスキルが決まるが、それにはもちろんリスクがつきまとうので――一歩間違うと自分が自分のスキルで死にかねないのだ。


「い、いやよ!そんな危険な賭け!」


「いいから、いいから、ちょっとだけ!先っちょだけでいいから!」


「先っちょってなによ!転職に先もなにもないでしょ!?」


 まあ渋るとは思ってたが……困ったなぁ……。


「安心しろ、骨は拾ってやる」


「安心できるかー!!」


「くそ……こうなったら……もし転職しないんだったら、俺はまた容赦なくお前を追い出すぞ!?ハーレムがどうとかこの際一切関係ねぇ!俺が追い出すと言ったらホントに追い出すってことは、お前も体験済みだからよぉく知ってるよなぁ……?」


 俺はゲスな笑いで畳みかける。脅しなんて卑怯な真似、少々気が引けるが……まあ相手がカレンだからどうでもいいか……。


「……っく……アウルスのばか……!」


 おお……カレンの口から女戦士としては最後の「っく……」が出ました!


 といこうとでもう戦士に未練はないな……!ようしさっそく神官さんのところに行って転職の儀式をしてもらおう!



          ◆



 カレンの転職を終えた俺たちは、試し撃ちができる、広い草原に来ていた。


「ようし、じゃあカレン。試しになにかスキルを使ってみてくれ」


 いやいや転職させられたことに拗ねてるのか、げんなりしたようすのカレン。


 俺が小声で「追ほ……」と言いかけると、しぶしぶ攻撃の体勢をとり始めた。


「もう……仕方ないわね……いくわよ……!」


 ――シュインシュインシュイン!


 カレンが放ったのは「ラッキーストライク」というスキルだ。ちなみにMaro〇n 5の同名の楽曲とはなんの関係もない。


 使用者の運によって何回かの威力判定が行われ、それに応じて火力が決まる。もちろん、出目が悪く数値がマイナスになれば、使用者自身に炎が襲い掛かる――危険な技だ。


「ラッキーストライク!!!」


 数秒のラグ――判定が入るため通常のスキルよりも隙が多い――の後、カレンの手から火花がバシバシと生まれ始める。


 そしてそれが大きな光線となり、草原一帯を焼き尽くした……。


「え……ちょ……これ威力高すぎんか……」


「しゃ……シャレになんないわよね……」


 みんなの目から生気が消える。


 目の前には赤く燃える火の海。


「だ、大丈夫ですわ……お父様になんとか地元の領主と話をつけてもらえば……数万の金貨で許してもらえるかと……おほほほほほほ」


 そういうへローラの目は笑っていない。


「なーんかデジャヴ感じるな……」


 エラが遠い昔を思い出すような目で言った。



――続く。

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