第17話 ハーレム王も楽じゃない……!

 

「くはぁー疲れたぜぇ……実際のハーレムってのも……楽じゃねぇなぁ……」


 俺は屋敷の大きなガラス張りの壁から、庭を見下ろしてひとりごちた。


 ベッドには全裸の側室たちが寝ている。


「なぁにを言ってるんだ旦那様。昨日はあんなに楽しんだじゃないか……」


 エラが後ろから首に手を回してきて、言った。


「楽しいのと楽なのは別なんだよなぁ……前呑んでたエルフ酒があればいいんだけどなぁ……」


「ん?エルフ酒ならここでも造れるぞ……?」


 エラが何を当たり前のことを……という風に言った。


「……へ?造れるの!?どうやって……!?」


 それならそうと早く言ってほしかった……。俺の体力を返せ!


「そ、それが……ちょっと言いにくい作り方なんだよ……。もしかしたらこれを知ると、エルフ酒なんか飲みたくないとか言い出すかも知れない……」


「うぇ……そんなにヤバい製造方法なのか……?もうすでに飲んだことあるから一緒のような気もするけどな……。まあいい、話してくれよ」


 俺が促すと、エラが気まずそうに切り出した。


「うぁー……えぇーっと……。まず、お湯を沸かすんだ」


「うん、お湯を沸かすんだな。ふんふん……それでそれで……?」


「十分な温度になったら、そこにエルフを入れる」


「……ん?」


 聞き間違いか……?なんか物騒な内容が聞こえた気がするんだけど……?まさかエルフの生き血とか生首とか使うのか?


 俺がいぶかしげな表情をつくると、すぐにエラは慌てて、


「いや違う違う、そうじゃない!たぶん想像しているのとはちがうぞ!」


「あ、ああ……そうなのか……?なんだかグロテスクな想像をしてしまったぞ……。まあちがうんならいいけど……。で、それからどうするんだ……?」


「あとはじっくり浸かってエルフの煮汁をとる」


「ほーん」


「あれ……?旦那様、意外と嫌そうな顔をしないんだな……?」


「え、だって……エルフの煮汁っていっても、デブおっさんエルフの煮汁とかじゃなくて、お前とかエルとかのだろ……?」


 ちなみにデブのおっさんエルフと言ったが、エルフはみなやせ形で、男性でもとてもきれいな見た目をしている種族なので、そんなヤツはまずこの世に存在しない。


「え、まあ……そうだが……」


「だったら平気だ。というかむしろぜひ飲みたい。いますぐ作ってくれ……」


 俺がそういうと、エラは白い目で俺を軽蔑した。うう……その目線もたまらん。


「……旦那様……ヘンタイなんだな……」


「なに!?心外だな……。男ってものは、エラみたいなかわいいエルフの煮汁なら、誰だって飲みたいものなんだよ……!!!」


 俺が熱くなって、言うと、エラは顔を真っ赤にして、顔をそむけた。


「な……!そ、そういうものなのか……男性ってやつは……!?」


「そういうものなんです……」


 結局、そのあとエルフ酒を造ってもらった。エラがやたら照れるのでその製造過程は見せてもらえなかったが……まあよしとしよう。



          ◆



 昼飯の時間、俺たちはみんなで食卓を囲んでいた。


 以前とはちがって、家族が増えたので、使用人には別の部屋で食べてもらっている。


 食卓を囲んでいるのは俺、へローラ、カレン、ミリカ、エラ、エル、レグの七人だ。


「いやーしかし、こんなに贅沢でだらけた暮らしを続けていてもいいものなのかな……」


 エラがおかしなことを言いだした。


「いやお前らが望んでここにやってきたんだろ?」


「でもあんまり幸せが続くと、どうしても不安になってしまうものだよ……」


「ふーん、そういうものか……?」


 俺は楽観的な性格だからそういうのはあまり気にしない。


「まあいいや……俺は飯食ったらまた温泉にでも入ろうかと思うんだが……だれかいっしょに来るか?」


 俺が問うと、場が静まり返ってしまった。どうした?


「……あ、いや……今日はアウルスさんひとりで行ってきてくださいよ」


 慌てた様子でミリカが言う。なんか怪しいぞ。


「そ、そうよ……私たちは昨日入ったからもう当分はいいわよ……ねえ?」


 カレンがそれに続く。


「う、うん。そうだそうだ」


 エラも同意する。


「なんかお前ら全員ちょっと変だぞ……?俺になにか隠し事してるな……?」


「い、いえ……隠し事なんかしてませんわ……そんなことするはずないですもの……だってアウルス様は私たちの大事な旦那様なんですから……」


「ま、まあへローラが言うなら信じるよ……じゃあ」


 俺がそう言って部屋を出ようとすると、カレンが抗議の声で呼び止めた。


「ちょっと!へローラさんの言うことなら信じるってなによ!私たちじゃ信用できないっての!?」


「あたりまえだ!お前はいままでの自分の行いを覚えてないのか!?このポンコツ頭め!」


「ひっどぉーい」


 そこでみんなから笑いが起こった。


 とまあそんな感じで昼食は無事に終わり、俺は一人で温泉に向かった。


 なのでそのあと彼女らがどんな会話をしていたのか、俺には知る由もなかった。



◆ここからこの話の終わりまで別視点で進みます。



 アウルスたちの屋敷に怪しげな影があった。


「ここが奴の屋敷か……」


 その人物を怪しく思った近所の住人が、声をかけた。


「あんた、そこの屋敷になんか用かね……?」


「いや……ここの屋敷の主と昔親交があってな……」


 男は懐かしむように言った。


「そうか……ならあんたもたいそうな金持ちなんだろうなぁ……」


「どういうことだ……?ここの主は金持ちなのか……?」


「なにをおっしゃる!それはこの屋敷をみても明らかだろう」


「まあ確かに……」


 だが男の記憶では、その人物はそれほど金持ちではなかったはずだ……。


「今、この屋敷の主は何をしているんだ?」


「なんでも、えらい貴族の方と結婚をして、ハーレムを作っているとかなんとか……」


「なんだって!?ハーレム!?そいつは聞き捨てならねぇ……」


 男はそう言うとどこかへ走り去ってしまった……。



          ◆




 アウルスが部屋を出たあと、女性陣たちは会話を続けていた。


「これでだれが立場が上かわかったでしょう……?みなさん。アウルス様はこのわたくし、へローラのいうことならなんでも信じますわ!だって第一婦人ですもの!それに王女ですもの!この屋敷だってわたくしのもの!みなさんを養っているのもこの私!さあ跪きなさい!側室のみなさん!」


 へローラがまくしたてて、戦の火ぶたを切った。


 だが当然跪く者はいない。それどころかカレンが言い返した。


「あんたが養ってるんじゃなくて、あんたの父親が・・・・・・・……でしょうが」


「まあ!なんて憎たらしい!アウルス様の昔の女じゃなかったらすぐにでも追い出しますのに……!」


 へローラがいつもと違う権幕で言った。


「あんたこそ、アウルスの前では猫被っちゃって!いやらしい女だこと!」


「なんですって……!」


 二人がにらみ合いを続けていると、次はエラが口を挟んだ。


「こほん……ちょっといいか……?お二人は旦那様と何回寝た……?」


 唐突な質問に、面食らいつつも、二人は正直に答えをもらした。


「私はいままでに15回ほどですけど……?」


「私は昨日の1回だけ……うぅ……」


 するとそれを聞いてエラはにやりと笑って、胸を突っ張り勝ち誇った。


「はっはっは……私は村にいた時からの付き合いだからな……!それはもう数え切れないほど肌を重ねてる!だから旦那様にとっては私が一番に決まっている!勝ったな!がはは!」


 ぐうの音もでない主張に、へローラもカレンも顔をゆがめた。


「はえー……エルフって淫〇なんですねぇ……」


「……っく……淫〇エルフめ……」


 だがしっかり刺すところは刺すのがこの二人の怖いところだ。


「……っな!誰が淫〇エルフだ!」


 いままで黙って会話を聞いていた無口なエルも、そこでやっと口を開いた。


「ちょっとまってください!エラがそういうなら、私だって負けてませんよ!エラと私はいっつもいっしょにいたんですから!回数だっておんなじはずです!それに、私の方が発育がいいのでおっぱいもおおきいです。旦那様は私のほうが好きに決まってます!」


「な……!それをいうなら私のほうが細くて魅力的な体型をしている!引き締まったいいお尻を褒めてもくれたことだってあるんだぞ!それに、エルは知らないだろうけど、エルがいないあいだとかにもいろいろしたんだからな!残念だったな……!」


 エルフたちが姉妹喧嘩を始めて、へローラとカレンもまた喧嘩を始めてしまった。


 それをミリカとレグは呆れた表情で見ていた……。


「はぁ……」


「ミリカは興味ないのか……?誰が一番か……」


「私はいいんです……どうせアウルスさんの一番にはなれないってわかってますから……。だって五年もいっしょに旅をしてなんにもなかったんですよ……。はじめっからわかってるんです……。それでも、ここに来た」


 どこか寂し気なようすのミリカを、レグは肩をたたいてなぐさめた。


「あ、ありがとうございます……私にはレグちゃんが一番ですよ……」


 とまあ、このような一幕があったことなど、アウルスは知る由もないのだった……。



――続く。

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