第15話 みんな頼むから出ていってくれ!


 新居での暮らしにも慣れてきたころ、突然の来訪者があった。


「邪魔するわよー」


「お邪魔します」


 そう言ってずけずけと踏み入ってきたのはカレンとミリカだった。


「なんでお前らが……。というかなんで入れた!?使用人はなにしてんだ」


「あんたの昔の仲間だって言ったら入れたわよ」


「我ながらガバガバセキュリティだな……俺の家」


 あとで使用人にはちゃんと言い聞かせておこう。怪しいやつは入れるなと。


 カレンとミリカを見つけたへローラが訊いた。


「あの……そちらの方々は……?」


 俺が答えるより前に馬鹿どもが自己紹介を始めた。


「ああ、アウルスの昔の仲間のカレンよ。よろしく。こいつのことは私が世話をしてやってたんだからね」


「私はミリカです。アウルスさんは私が育てたと言っても過言ではありません」


「まあ!それは素敵!うちの旦那様がお世話になったんですね!それじゃあお二人にはたくさんおもてなしをしないと!」


 へローラは虚偽の自己紹介を簡単に信じた。箱入りお嬢様だからな……。そんなんだから攫われるんだ。詐欺には気を付けないと。


「おい!お前たち!へローラに嘘を教えるな!」


 馬鹿どもに蹴りを入れる。


「まあ!嘘だったんですか!?」


 へローラはころころと表情を変えて驚く。そういうところも可愛い。


 まあこいつらの自己紹介なんかはどうでもいい。問題なのは、何故こいつらが突然俺を訪ねてきたかということだ。


 俺の人生は順調になりかけたところでいつもこいつらに邪魔される。今回もこいつらが現れたということは……嫌な予感しかしない。


「で、なんで俺のところにきたんだ?」


「あんたがどこぞのお嬢様と結婚してお金持ちになったって聞いたからね……私たちもどうにか養ってもらおうと思って……」


 カレンが当然のように「養ってもらおうと」などと口にするから、俺は頭にきた。


「まったく……お前らは自分の力で生きていこうという気が全くないのか!?」


「そりゃあいろいろ仕事してみたりして頑張ったわよ私たちなりに!でももう限界なの!アウルスがいない暮らしには耐えられない!お願いだから戻ってきて!」


「お前らがあてにしてるのは俺の金だけだろうが!」


 俺たちが言い争っていると、へローラが落ち着いた雰囲気で紅茶を入れながら言った。


「まあまあ、そう邪険にしなくても、しばらく泊っていってもらえばいいじゃないですか」


「ホント!?さすがへローラさん、アウルスと違って優しいわね!」


「ボーナム!カレンさんとミリカさんをお部屋まで案内してさしあげて」


 へローラが手を鳴らして執事長を呼ぶと、またどこからともなく現れた。


「かしこまりました」


 ボーナムが馬鹿ふたりを連れて部屋を出ていくと、へローラが俺のところに寄ってきた。


「なんのつもりだ?」


「だってお客さんなんて初めてなんですもの、それにアウルスさまの昔のお話も聞きたいですし……」


 へローラの笑顔に俺はいつもほだされてしまう。


 まあいいか……。数日滞在させてやって、その後でいくらか手切れ金をやって追い出せば、さすがにもうやってこないだろう。


 のちに俺はこのときの考えを甘いと後悔せざるを得ない。



          ◆



 午後になったころ、再びの来訪者。


 今度はエルフ姉妹のエラとエルだった。もう俺は驚かない。


「……入れよ」


「ええ!?意外とすんなり入れてくれるんだな……」


「午前にも同じようなことがあったからな……」


「そ、そうなんだ……」


 もう俺はうんざりしていたが、ええいままよ!の精神で、正直言ってやけくそだった。


「どうせお前らも仕事がなくて、それで俺が羽振りがいいっていう噂をどっかで聞きつけたかなんかで、押しかけてきたんだろう?」


「ま、まあそういうことに……なる、かな?」


 もう反論して抵抗する気力もなかった。


 こいつらもまあ根は悪いやつらじゃない。


 適当にもてなしてやって、エルフの村までの路銀と、適量の手切れ金をはたいてやれば、おとなしく帰るだろう。


 そして、のちに俺はこのときの考えを甘いと後悔せざるを得ない。



          ◆



 それから、一体何日が経過したと思う?


「なぁ、何日が経過したと思う?」


 リビングのソファに腰かけて、おのおのダラダラとくつろいでいる面々に向かって、俺は呟いた。


「なぁ!聞いてんのかよ!」


 大声を出して、どんと足踏みする。いや地団駄を踏んでやった。


 そうしないとこいつらは俺の話など聞きやしない。完全に軽んじられている。つけあがっている。


 誰の家だと思っているのか……?


「そぉんなに大声出さなくても聞こえてるわよ」


 カレンがこっちに一瞥さえくれずに答えやがった。くそ、コ〇ス。


 みんなこの家の優秀な使用人のせいで完全に堕落しきっている。へローラはニコニコとずっと笑っているが笑いごとではない。


 この家は人をダメにする。いや、もともとこいつらはダメなやつらだけど。


「みんな頼むからいいかげん出ていってくれ!」


 俺はこんなやりとりをもう何度も繰り返しているが、こいつらは聞く耳をもたない。


 まるでさっき初めて聞いたかのようにミリカが目を丸くする。


「え?ここって、出ていかなきゃいけないんですか?」


 くそ、腹立つ。コ〇ス。


「あたりまえだ!ここは俺の家だぞ!」


 無理に出ていかそうとしても、屋敷が広すぎて簡単に逃げ隠れされてしまう。


 そして部屋はいくらでも余っているから勝手にそこを使われてしまう。


 あげくには使用人は優しいからなんだかんだでこいつらの世話をしてしまう。


「で、でもーアウルスさんってお金もちなんですよね?じゃあ減るもんじゃないんだしいいじゃないですかー」


「いや、減るもんだから。お金は使えば減るんだから。というかへローラのお金だからね!?これ、いわば国庫からひっぱってきてるようなもんだよ?お前らの生活費!」


「いやー働かずに税金で食う飯ってうめぇわぁ」


 カレンがろくでもないことを言いだした。うわぁ……。


「エラ!エル!お前らもだぞこの居候エルフ姉妹め!」


「いやー旦那様が優しいからついつい甘えてしまってなぁ……」


「まあいいじゃないですか、アウルスさん。へローラさんという綺麗な奥さんに加えて、美女四人にも囲まれて……。両手に花、いやもはやハーレムですよ!よかったですねー」


「いや!ぜんっぜんハーレム感ないけどね!?お前ら俺になんにもしてくれないし!?こんなハーレムあってたまるか!」


 それからこんな感じのやりとりが延々つづいた。


 そしてこんな日々が永遠にも思えるくらい続いた。



          ◆



 ちなみにロランとグレッドの男連中がどうなったかは知らない。あーたしかグレッドは窃盗で捕まってるんだっけか……。まああいつらまでやってこなかったのがせめてもの救いだな……。



――続く。

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