第12話 二人でも十分!!!

 

 連日の飲み食いで、さすがに金も底を尽きた。今日からはまた機械的にクエストをこなす日々だ。とはいえ俺とレグ二人だけでは、たいした稼ぎにもならないだろうけど。


「ねえアウルス、ホントに二人だけでいくの?」


 レグが心配して尋ねる。


「ああ、もう変なパーティメンバーを掴まされるのはこりごりだからな。世の中にはソロで難関クエストをこなす猛者もいるって話だぜ?俺たち二人で頑張れば、なんとかなるだろう」


 もちろん俺はそんな猛者というほどではない、だが俺たち二人が食っていける最低限くらいは、なんとかなるだろう。


「じゃあこのクエストを受けようか」



 □盗賊団の壊滅

 最近、街の近くの森に居ついた盗賊団を追い払ってください。

 もし壊滅に成功すれば報酬をはずみます!



「ほら、報酬をはずみますだってさ!これならいい稼ぎになる」


「ちょっとまって、それホントに二人でできるかな?」


「ああ、俺に考えがある。安心してくれ」


 盗賊団が何人いるのかは知らないが、人間相手なら獣人のレグが有利だ。俺のスキルでなんとか一対一にもちこめば……二人での攻略も無理じゃない。



          ◆



 俺たちは近隣の森へ潜み、盗賊団の帰りを待った。盗賊団は基本夜に行動し、明け方帰ってくる。


「あ、きたよ!」


 レグの獣人特有の鼻のよさや目のよさを生かして偵察してもらう。さっそく見つけたみたいだ。


「どこだ?」


「ほら、あそこ」


 レグが指さした方を見ると、何人かの無骨な男が、森の奥に向かって歩いているのが見えた。


「よし、後をつけてアジトの場所を探ろう」


 男たちを追っていくと、洞窟があった。なにやら盗んできたものや攫ってきた人をその中に運び入れているようだ。


「ひどい奴らだ……」


 盗賊団による物資の搬入作業がひと段落すると、男たちはぞろぞろと洞窟内に入っていった。あとには何人かの見張りが残された。


「よし、レグ。聞き耳を使え!」


「わかった」


 レグはぴょんぴょんと木の合間を飛んで、洞窟の上によじ登った。洞窟の上から地面に耳をつけて、中の情報を得る作戦だ。


「なにかわかったか?」


「グレッドがしくじった……とか言ってる」


「なに!?グレッドの奴……この盗賊団の一味だったか……」


「他には?」


「なにか会議をしているみたいだ……」


 会議をしているなら今のうちだな……。それに夢中になっている間に、見張りを倒し、中に侵入しよう。


「まって!攫ってきた女を誰から楽しむかで揉めてるみたいだ……」


 最低な奴らだ……。俺も性格がいいほうではないが……。盗賊ってのはとことんゲス野郎だな……。


「とにかく早く倒そう。女の人たちが襲われる前に……」


「そうだな」


 俺はまた指先に魔力を込める。集中力のいる作業だ。


 ――シュインシュインシュインジュカインアインツヴァイシャインマスカット。


「はああああああ!!!!くらえ!呪縛の炎!!!」


 裁きの炎と呪縛の炎。これが俺の得意とする攻撃魔法だ。裁きの炎は攻撃用だが、呪縛の炎は名前の通り、捕獲するためのものだ。


 俺の指先から放たれた炎が、見張りの男に向かって飛んでいく。炎といってもこの炎は本物の炎ではない。魔力が炎状に変化しているだけのもの。だからその威力は魔力量に依存する。致命的にならない程度に手加減すれば、相手を傷つけることなく無力化することも可能だ。


 男の顔が炎に覆われる。こうなったらもう言葉を発することはできない。炎の中に閉じ込められ、息をしようとすると喉が焼け付くように痛むのだ。


 もう一人の見張りがそれに気づき、声を上げようとした瞬間だった――レグが飛び降りてきて、その顔面にドロップキックをお見舞いした。


「よし、これで見張りは片付いたな」


「中に入ろう……」



          ◆



 中に入ると洞窟はかなり奥まで続いていることがわかった。長い廊下を進んでいく。途中で盗んだものが置いてある倉庫も見かけた。人を監禁しているのはさらに奥だろう……。


 どんどん進んでいくと明かりが漏れている部屋があった。中からは大勢の男たちのゲスな笑い声が聞こえる。


「げっへっへへへ、今回はかなりの上玉が手に入りやしたからねぇ。親分もお喜びになるでしょう……。あれはどっかのお嬢様かなんかに違いありませんぜ……」


 俺はレグに目線で合図する。


 ――3、2、1で突入!


「うおおおおおおお!!!!呪縛の炎!呪縛の炎!呪縛の炎!呪縛の炎!呪縛の炎!呪縛の炎!呪縛の炎オオおおおおおおおおおお!!!!!」


 ――シュインシュインシュインバキドコボカヌカポホゥ。


 俺は呪縛の炎を極限に薄めたものを手前の奴から順に飛ばしていく。こうすることで少ない魔力で、一瞬ずつだが、男たちの動きを止められる。


 部屋には15人ほどいただろうか……。呪縛の炎によってひるんだ男たちを、レグが順番に顔面パンチでのしていく。


 あっという間に盗賊団は残り一人になった。


「おおおおお……おまえたちはなにものだ!?」


「なぁに……通りすがりの冒険者パーティさ。二人だけだけどな」



          ◆



 洞窟を一番奥までいくと、牢屋があった。中には無残に殺された死体や、犯された後の女性もいた……。だが今日運ばれてきたばかりと思われる比較的綺麗な服の集団がいた。


「助けにきてくださったんですね!?」


 その中の誰かが俺に気づいて叫んだ。他のものもみるみる顔に生気を取り戻していく。


「もう大丈夫だ」


 俺はカギを開け、みんなでぞろぞろ洞窟を出た。


「助けてくださりありがとうございます。あの……失礼ですがお名前は?」


 助けた中でも一番綺麗で、金持ちそうなお嬢さんが、代表面して言った。


 金髪の縦ロールに黄色のドレス。いかにも盗賊に狙われそうな風貌だ。


「俺はアウルス。こっちはレグ。なあにクエストのついでに助けただけだ」


「まあ!アウルスさんにレグさんですね!素敵なお名前……。後日わたくしからお礼を差し上げますわ……」


 女はいささかけったいな喋り口調だった。どこぞのお嬢さんというのは本当のようだ。


「いやいや、礼なんていいよ。クエストの報酬で十分さ」


 こういうときは一度遠慮するものだから俺はそう言った。


「いえ、お礼をしないわけにはいきません。あなたが助けにきてくれなかったら……私は純潔を奪われ、無残に殺されていたかもしれない……」


「ま、そういうことなら受け取りますよ」


 俺は女に泊ってる宿と部屋番号を教えた。


「それじゃあ帰るか」



          ◆



 クエストの報酬はかなりの額だった。大勢の人を救ったことでさらなる追加報酬が発生したのだ。これだけあれば俺とレグ二人でなら当分遊んで暮らせる。


「いやーいい仕事だったなぁ」


 あれから一晩経っても晴れやかな気分だった。なんだ、パーティメンバーなんかいなくても、俺とレグだけで十分やっていけるじゃないか。飯の心配や仲間の心配をしないでいいことがこんなに幸せだとは思わなかった。


 俺たちがのんびりした朝の時間をすごしていると、宿のオーナーが部屋をノックした。


「表に、迎えの方が来てらっしゃいますけど……」


「ん?迎え?」


 俺とレグは手ぶらで宿の前に飛び出した。


「昨日お救いいただいたお嬢様の使いの者です」


 大げさな馬車を引き連れた、初老の男が言った。執事服を着ているあたり、あのお嬢さんの家の使用人だろう。


「いやお礼とは聞いてたが……。迎えの馬車まで用意してもらえるなんて思ってもなかったよ。ずいぶん豪華なお礼じゃないか」


 俺はちょっと大げさすぎやしないか?と思って心中穏やかじゃなかった。なにか裏があるのではと思わざるを得ないのだ……経験上。


「さあさあ、お礼はまだまだ始まったばかりですから。どうぞお乗りくださいませアウルスさま。お嬢様がお待ちです」


 俺たちは執事に言われるまま馬車に乗り込んだ。


 馬車の中はなんだか身分不相応といったかんじで、俺には居心地のいいものではなかった。レグは初めての体験に興奮しているようす。


 馬車はどんどん街を進んでいき、やがて大きな門の前で停車した。


 門と庭がこれだけ大きいと、肝心の建物がどれだけの大きさになるか想像もつかない。なんてったてここからじゃ建物の影すら見えやしない。どんだけ大きな敷地なんだ?もはや庭ではなくて森だろうこれは……。


「あのー……もしかしてお嬢様って……」


 俺は苦笑いをして執事に問いかける。


「ああ、まだご存じなかったのですか……。そうです、お察しの通りですよ」


 どうやら俺はとんでもない人物を救ってしまったようだ……。



――続く。

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