第10話 何もしないなら出ていけ
一週間ほどパローマで遊びまくった俺たちだったが、それもそろそろ終わりだ。金も無くなってきたし、これ以上さぼると冒険者としての勘が鈍る。
「ようし!このパーティでの初めての冒険に出るぞ!荷物をまとめろ!」
「はい!」
俺たちはクエストを選ぶために、宿を出てギルドに来た。
「どんなクエストにします?」
掲示板を眺めながら、エルが言う。
「そうだな……まずは簡単なクエストがいいよな。だれでもできそうなやつ」
前のパーティではそのだれでもできそうなやつですら、苦戦したものだ……。お荷物を連れて、俺だけが頑張るという感じで……。今回はそうならないことを願いたい。
「なら、このクエストはどうだ?」
エラがひとつのクエストを指差した。
□スライム50匹の討伐
最近草原で大量発生しているスライムを倒してください。
目標は50ですが、できればもっと倒してもらっても構いません。追加報酬もあります。
「おお、これならいいんじゃないか?」
俺たちはさっそくそのクエストを受けた。
◆
俺たちは草原に来ていた。遮る木などがないので風が強い。見渡す限りの平面には、草が緑に生い茂っている。しかしその一部が青くなっているのが遠目にもわかる。スライムの大群だ。
「いやー!すごい数のスライムだな!いくら弱めのモンスターだからといって、これはけっこう時間がかかりそうだ」
こういうとき、ミリカがいればな……といまさらながら思う。ミリカの攻撃魔法は命中率こそゴミだが、威力は抜群なので、こういう大群掃除にはもってこいなのだ。だがまあそれ以外に使い道がないから、どのみちパーティのお荷物なのだが。
「そういえば、エラは攻撃魔法が得意なんだよな?」
俺はエラに確認した。ひとくちに得意と言ってもいろいろある。エラの実力がどの程度のものなのか、ぜひ見せてもらいたかった。
「ああそうだ。みてろ!」
そういうとエラは指先に魔力を集中させた。
――シュインシュインシュイン。
「しねえええええええええええ!!!薄汚いスライムどもめ!エルフの高潔なる力の前に塵と化せ!!!ホーリーシャインアロー!!!!!」
エラは豹変して唱えた。
――ズバババババババッババババッハバッハバッヘッヘゴッホッホ!!!!!!!
無数に照射された光の束が、いっせいにスライムの大群に襲い掛かる。光の一本一本が、スライムの身体を貫き、地面に突き刺さる――突き刺さる――突き刺さる。
「ん?これ、まずくないか?」
光に抉られた地面は、姿を変え、あの美しかった草原が、今では荒野と化していた。スライムたちがいた場所には、でかいクレーターができている。
「いやいやちょっとまずいって……エラさん?あなたアホなの?」
「あちゃーまたやっちゃいましたか……」
エルがやれやれといったかんじで嘆息する。
「またって……え?」
「いやーついつい力を出し過ぎてしまったぽよ。エルフは魔力が強いから手加減が難しいんだぽよ」
エラがしらじらしく言った。目線をそらし、気まずそうに頭をかいている。口元が歪み、顔は赤らんでいる。あとなんか変な語尾になってるぞ!ぜんぜん誤魔化せてないし……。
「え、それマジで言ってんの?オーバーキルにもほどがあるぞ……」
――ゴゴゴゴゴゴゴーレムゴゴゴゴゴゴゴゴギガガガガゴゴ!!!!
突然、不気味な地鳴りと共に、地面が割れだした。クレーターからこちらへ、一直線に地割れが伸びてくる。
エラの魔法の威力が強すぎて、地面が耐えられなかったのだ!
「みんな!逃げろ!」
遅かった。俺たちは奈落の底へ落とされた。
――かと思われたがそこそこ落ちたところで着地した。
しかしその衝撃は人間の足には耐え難いもので、俺の足はぽっきり折れてしまった。
「いででででで。死ぬ!!!!!」激痛が走る。
他のメンバーはというと、レグは獣人由来の身体能力で受け身をとって無事だったようだ。エラとエルも人間より頑丈なエルフの身体のおかげで、なんともないようだ。
「アウルスさん!!!」「アウルス!」「旦那様!」
3人が俺に駆け寄ってくる。元はと言えばエラのせいで起こったことだが……心配してもらえるのは素直にうれしい。前のパーティの奴らならこうはいかなかっただろう。
「いま回復します!」
エルが俺の足に手をかざす。
「そういえばエルは回復が得意だったんだよな……?」
「黙って!集中してます」
――シュインシュインシュイン。
足があたたかいなにかで包まれる。血行がよくなるのが感じられ、足に感覚が戻ってくる。痛みはすっかり消え去り、なにもかもが正常だ。
「おお!すごい回復能力だ!ありがとう!」
エラが力加減を忘れた悲しきポンコツモンスターだったから、エルのほうもなにか欠陥があるんじゃないかと心配したが……杞憂だったようだ。なんだ、ちゃんと回復できるじゃないか。初めてちゃんとした仲間ができた気がする。ロランは俺のこと回復しなかったからな……。
「ん?なんかかゆいな……」
嫌な予感がする……。エルの顔を見ると、額には汗が一滴。まさか……。
俺はズボンを脱いで、自分の足を確認した。
――もじゃもじゃもじゃあもももんじゃもんじゃらじゃもじゃぶじゃぶもももももすもももももも!!!
なんと俺の足は毛だらけだった。それももう通常の範囲での毛だらけではない。俺がいくら毛深くても、いくら剃ることを怠っても、こうはならないだろう。人間の常識を超えた範囲で、毛むくじゃらの足がそこにあった。
「な……なんじゅあこりゃあああああああああああああああ!!!!!?????」
俺は発狂した。
「い、いやー……私の回復魔法、育毛効果もあるんですよねぇ……。滋養強壮というか……なんというか……」
エルがばつが悪そうに弁解する。
「お前たち……実は無能だな……!?」
俺はそこでようやく、何故この姉妹があそこまで俺についてきたがったかを悟った。こいつらには行くあてがないから、俺にもらわれたがったのだ。
そりゃそうだ、力が強すぎて地球を破壊してしまいかねない攻撃魔法使いと、回復効果が高すぎるのかなんなのか人を毛むくじゃらの魔物に変えてしまう回復魔法使い――そんな迷惑な存在を、だれも欲しがるわけがないのだから。
こいつらは俺を巧みに誘惑し、身体を重ねたという既成事実を盾にして、無能な自分たちを養わせようとしたのだ。怒りがこみあげてきた。
「お前たち……二度と魔法を使うな……迷惑だから……」
「「さ……サーイエッサー……」」
◆
俺たちは宿に戻って来た。俺は椅子に座り、足のもじゃもじゃをエルに剃らせてる。当然だ。生やした本人が剃るべきなのだ。
はあ……まったく、俺のところにはロクな人材が集まらないようになっているのか……?どんな呪いだ。
「……で、だ。お前たちの実力はわかった。それで、アレの他になにができる?どうやって俺の役に立てる?」
俺は深く嘆息して切り出す。
するとエラが豹変して、
「お、お願いだぁ!!私たちを捨てないでくれ!旦那様!ほかに行くあてがないんだ!!」
俺の足元に縋り、泣きついてきた。
「ええい!やかましい!もう無能にはうんざりなんだよ、この落ちこぼれポンコツエルフ娘がぁ!!!まったく、ちょっとかわいくて甘やかしてくれるからって騙されたわ……」
「か、家族だって言ったじゃないですか!」
エルも必死に懇願してくる。
「それはお前らが役にたつと思ってたからだ……!こんな無能共と家族なんて御免だね!」
「役になら立つから!性処理でもひざ枕でもなんでもするから!!!」
む……たしかにそれは捨てがたい……。でももう決めた。そういうことじゃないんだ。俺に必要なのは、有能なパーティメンバー、それだけ。
「エルフの村を出るとき、俺はお前たちに念を押したよな?お前らが役に立たなかったら容赦なく追い出すって。俺にはごくつぶしを養うだけの甲斐性はないんだ」
「そ……そんなぁ……ごむたいな……」
「ええい!うるさいうるさいうるさい!!!もしほかに何か戦闘面で役に立てることがあるなら言え!」
「ぐうぅ……」
目の前のポンコツエルフは、ぐうの音も出ないといった感じで黙り込んだ。
「お前たち……何もしないならなぁ……出ていけ!!!」
俺は大声を上げて二人を追い出した。一度は気を許した仲だ……心苦しいのはいつものこと。俺は何度追放すればいいんだ……?
部屋には俺とレグだけが残された……。
「あれでホントによかったの?」
レグが尋ねる。
「ああ、しょうがないんだ……。もう終わったことだ……。これからは俺たち二人でいこう」
もうレグだけが頼りだった。レグの戦闘面についてはまだ未知数だが、もし仮にレグがポンコツでも、俺はこいつだけは捨てない。レグは俺が自分の意志で救うと決めた相手だからだ。
「さぁて……あしたからどうすっかなぁ」
金がないのは変わらない。今日のクエストの報酬だが、草原を焼野原にしたせいで、報酬どころか賠償金を請求された。自然破壊は重罪だ。明日にでもエラのもとに取り立てにくるだろう。だが俺の知ったことじゃない。あいつらは俺の心を弄んだ。どんな目にあっても、俺の心は痛まないだろう……。
俺はその晩、レグと二人だけで寝た。レグが抱きしめてくれたおかげで、ゆっくり寝れた。
――続く。
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