第4話 運も実力のうち
俺とレグは賭博場に来ていた。ラスノテにはこういうヤバいスポットがたくさんある。やってる奴らもヤバいので、騙されないように注意が必要だ。
食堂で全員分をおごらされたからな……。ここでガッツリ増やさないと、この先やっていけない。
「で、なんでお前らまでついて来てるんだ?」
カレン、ロラン、ミリカ、グレッドの4人も、当然のようについて来た。
「そりゃあ僕たち、パーティですから」と、ロラン。
「元、な」釘をさしておく。
「ねえ、私たちをクビにしたのって、お金が足りないからよね?」
カレンがきいてくる。
「ああそうだ。お前らがしっかり働いてくれさえいれば、俺も不満はなかったさ」
「じゃあ、ここでお金を増やせれば、また私たちと組んでくれる?」
いや、そうはならんだろ。多少金があったって、こいつらといると赤字が続くんだから……。俺の金がいっこうに貯まらない。だから俺は適当にあしらった。
「まあ考えてやらんこともない」
俺がそういうやいなや、カレンが俺の腰の袋を奪い去っていった。
「私にまかせて!」
「あ、おい!ちょっとまて!」
それ、俺の全財産入ってるんですけど!?
カレンはなにやらルールのよく分からないギャンブルをやっている集団に向かっていった。
長身の男に金を渡して、ルールの説明を聞いている。
「おいおい、大丈夫かよ、あれ……」
もしかして、俺、呪われてる?貧乏神とか憑いてる?
「まあまあ、ここはカレンを信用して任せてみましょうよ。アウルスさん」
ミリカが俺をなだめる。
信用できないから困るんだよなぁ……。
「よっしゃ!俺も加勢するぜ!」
グレッドがはりきって腕を回し、カレンのもとに駆け出そうとする。
「おい馬鹿!ロラン!そいつ止めろ!」
「了解です!」
俺とロランでグレッドを羽交い締めにして制止する。
「お前は運が絶望的に悪いんだから、絶対にギャンブルするな!盗むスキルで8連続薬草引いたのを忘れたか!?」
まったく、油断も隙もあったもんじゃない。
そうこうしていると、カレンが戻ってきたようで、後ろから声がした。
「おまたせー!」
振り返ると――
なんとカレンは大金を手にしていた。
「いやー!なんか私才能あるみたいで、めちゃくちゃ勝っちゃった!」
スライムにもビビるような臆病者のカレンが、こんな才能を秘めていたとは!?まあマグレかもしれないけどさ。でもとりあえずナイスだ!ようやく役に立ったな、コイツ。
「すごいじゃないカレン!」
ミリカがカレンに抱きつく。うーんいい光景だ。可愛い女の子が可愛い女の子といちゃいちゃしているのを見るのは、なにものにも代えがたい幸せだ。
「あうあうー!」
レグもうれしそうだ。お金のこととかわかってるのかな?
「いやーほんと、すごいなカレンは。俺もびっくりだよ。カレンにそんなすごい特技があったなんてなぁ……。こりゃあもしかしたら、こんどは俺の方が養ってもらわなきゃならないかもだなぁ……」
俺は棒読みにならないように気をつけながら、カレンを称賛した。
「アウルスもようやく私を認めてくれたようね。これでパーティを組みなおす気になったかしら?」
カレンはそれを鵜吞みにし、鼻高々に、これみよがしにお金を見せびらかした。
俺はそれを逃さない。
カレンの手からお金を奪い取る。
「あ、ちょ!なにすんのよ!馬鹿アウルス。私のお金ー」
カレンが震えた声で抗議する。
「そうです!ひどいですアウルスさん!」とミリカ。
「うるせえ馬鹿はお前だ。これは元は俺の金なんだから俺のものに決まってんだろ!さっきお前が奪っていったのを忘れたか!?増えたからいいものの、これでお前が負けてたらマジで許さんかったからな!」
危うく全財産を失うところだった。まあこの金はこいつらから俺へのいままでの迷惑料としていただいておこう。
「よし!いくぞ、レグ」
俺はレグの小さい手をひいて言った。
「あうあうー!」
「子供の前で女からお金を奪っていくなんて……アウルスさん、クズですね。軽蔑します」
ロラン、お前にだけは言われたくない。ロランは何人もの女をたぶらかし、不幸な目にあわせた過去がある。俺は自分の金をとり返しただけだ。
「あ、ホラ。賭博場のお姉さんも引いてますよ……」
ミリカがそのへんで働いていた女性を指さす。確かにお姉さんはこっちに、困ったような愛想笑いで微笑んでいる。違うんです。僕がいぢめられているほうなんです……。お願い、信じてお姉さん。
「くそー俺に任せてればもっと増えたのに。そしたら全員で分けてもアウルスだって文句言わなかったはずだぜ」
グレッド、それはない。お前に運はないことをいいかげん認めろ。それにお前らがいくら金を持って来たって、お前らが無能なうちは組む気はないからな。お荷物やろうのお世話係はもうこりごりだ。
俺とレグは4バカを置いて、港へ向かった。金を手に入れたら、次は船だ。
◆
ラスノテの北半分は海に面していて、大きな港には毎日数えきれない船が行き来する。積み荷は、食料、観光客、奴隷、とさまざまだ。港付近の屋台からは鼻をつくような香辛料の香りが、潮風にのって漂ってくる。
俺は有り金の半分を使って船を購入した。レグと二人で使うには十分な大きさだ。乗ろうと思えばあいつらも乗せられるが、そんなことは絶対にさせない。出向前には綿密に密航者がいないかチェックしてやる。
俺は船の操縦は出来ないので、専用の人員を雇うしかない。リックという若い貧乏そうな男を一時的に雇った。彼はちょうど俺たちと目的地が同じで、雇ってくれる船を探していたそうだ。操縦士としては破格の値段で雇えた。
俺たちが目指すのはここから海を越えたところにあるパローマという街。ラスノテ以上に大きな街で、ここと違って治安もいい。
船には俺専用の個室がついており、そこで休むこともできる。風呂もついてるから着くまでゆっくりするとするか。操縦はリックに任せとけばいいしなb
「レグ―!風呂入るぞ」
「うう?」
風呂がなにかわかっていないようすで、レグは首をかしげた。
奴隷だったせいでその顔はひどく汚れている。昼間食べた食事も口まわりに残っていて、べとべとだ。洗ってやるとするか……。
「ようし、服を脱げ」
「あうー!」
レグはばんざいして俺に身を委ねた。上からシャツを脱がしてやる。
――するする。
あれ?なーんか男の子にしては骨格が細くないか?まあ子供だしな。こんなもんだろう。
下も脱がしてやると――そこにはあるはずのもんがなかった。
「あれぇ?お前、女の子だったのか!?」
「うぐぅ?」
レグは女だったみたいだ。あんまりにも汚い格好してたからわからなかった。
なんだかよくみると、可愛くみえてきた……。もちろん子供としてな。もっと女の子らしい名前にしてやるべきだったかな?
どうやら羞恥心などはないようで、俺に見られても平然としてる。まだ子供だしな。まあ男でも女でも関係ないか、俺が洗ってやる!
――ごしごし!ごしごし!わしわしわし!
「うがー!」
「こら!暴れるな!」
なんだか犬でも洗ってるような気分になってきた。あ、でも耳の裏とか洗うのふかふかできもちいい。そこを撫でるとレグもなんだか心地よさそうにする。
「ああ、幸せだ」
風呂から出た俺たちはベッドで横になった。
しばらくうとうとしていると、
「アウルスさん!大変です!」
というリックの声で目が覚めた。
「なんだ!?どうした?」
「クラーケンです!」
部屋の窓からのぞいてみると、たしかに大きな影が見える。
もしかしてこれヤバい?
「どうすりゃいい?」
「静かにやり過ごすしかありません」
「くそっ」
すると突然船が大きく揺れた。
「わああああああ」「おっと」「がううう」
――ガン!
俺たち三人の身体が部屋の壁に叩きつけられる。
クラーケンが動いたせいで波が発生したようだ。
いてて……横をみるとそこにリックの姿はなかった。
かわりにそこにいたのは変装を剥がれたグレッドだった。さっきの衝撃でカツラとマスクがずれたみたいだ。
「って、お前なにしてんだー!?てか変装上手いな!?」
完全にグレッドだと気がつかずに、リックという青年だと思っていた。リックのラスノテ訛りは見事なものだったし……。グレッド、こいつ器用だな。
グレッドは起き上がり、
「くそ!バレてしまったらしょうがない。ここは逃げるとするか」
「え?あ?は?ここ海の上だけど?クラーケンもすぐそばにいるし……。てかこの船の操縦どうする気だ!?俺たちを見捨てる気か?」
「すまん、お前には世話になったがここでクラーケンの餌食になるつもりはない。さらばだ」
グレッドは甲板に走っていって海に身を投げた。
「えええええええええ???!!!」
クラーケンとは反対側に泳いでいく。グレッドの姿はみるみる小さくなっていった。
「てかあいつ泳ぐのめっちゃはええ!?」
クラーケンのせいでいつ高い波が襲ってくるかもわからない中、スイスイと泳いでいくグレッドは、今までで一番頼もしく見えた。あいつにこんな才能があったなんて……。まあ俺見捨てられてるんですけどね。
――ぼおおおおお。ん?
その音で、クラーケンとは別の大きな存在に気がついた。俺の船の何倍もある大きな船が、グレッドを甲板に引き上げているではないか。そしてそれを行っているのは……カレンだ。
「あいつら……」
馬鹿どもが甲板に乗っているのを遠目に確認する。
金もないくせにいったいどうやって追いかけてきやがったんだ?というかそんないい船に乗ってるんなら俺も乗せてくれ!俺のこの船じゃ、もしクラーケンに襲われでもしたらひとたまりもない。
――ん?なんか、あいつらの船がやけに下の方に見えるんだが?
気がついたときにはもう手遅れで、俺の船はクラーケンに持ち上げられていた。
「げ……まずいな」
俺はとっさにレグを抱きかかえる。もし船が壊されてもこいつだけは離さない。レグはおびえた目で俺を見つめる。大丈夫だ。俺が守るからな。
次の瞬間、船がさっきよりも激しく揺れ、俺はどこかに頭をぶつけ、意識を失った。
――続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます