第5話 村よ、村よ!
知らない天井だ――そう思って横を見ると、知らない女が椅子に座っていて、首をうなだれて寝ていた。猫背になってまるまっているせいで、胸の谷間がちょうどよく見える。
しかも胸元の大きく開いた服を着ているもんだから、寝ぼけた俺は、それを触らずにいられなかった。指でつついてみる。ぷにぷに。弾力があってかなりのサイズだ。カレンやミリカよりも大きい。
「知らないおっぱい――」
すると女は目が覚めたみたいで、身体を起こし、こっちを見つめてくる。やめて、照れる。そんなに見つめないで。
しばらく状況を理解できないでいたが、女は自分の身に起こったことをようやく飲み込んだみたいで、顔を赤らめ、わなわなし始めた。怒ってる?
「ど、どうも」
とりあえず俺は身体を起こして挨拶してみる。
女は俺を睨み、顔をぷいっとそむけて走って部屋を出ていった。
「いやあ、リアルな夢だなぁ。どうせ夢ならちょっと探検してみるか」
俺はベッドから抜け出た。船でベッドに入ったところから記憶がない。あのまま寝てしまったのだろう。この夢が覚めたらちょうどパローマに着くころだろうか。
◆
廊下を進んでいくと部屋から明かりが漏れ出ているのが見えた。中からは女のすすり泣く声が聞こえる。さっきの女だろうか。
部屋に入る。さっきの女が別の女の膝に顔をうずめ、頭を撫でられなぐさめられている。いいなアレ、俺もしてもらいたい。
「やあ、目が覚めたそうだね」
さっきの女じゃないほうの女が言った。え、これ夢じゃないの?
「いやまだ俺は目が覚めてないつもりなんだけど……。説明してくれる?」
「あはは、君は変な奴だなぁ。いいだろう。よくわかってないようだから一から説明するね。数日前、君が海辺で倒れているところを私たちが拾ってきたんだ。ここはエルフの村さ」
エルフの村?そういえばよく見るとこいつら、耳がちょっと長いし、見たことない服装をしてるな。エルフに会うのは初めてだ。噂には聞いてたけど……。
まあ、つまり俺は流されて遭難したところを、こいつらに助けてもらったわけだ。
あ、なんか思い出してきたぞ、俺たちクラーケンに襲われたんだったっけ。グレッドの奴に見捨てられて……。なんかおかしくね?あいつらマジで俺を置いて逃げやがったのか……。
怒りが込み上げてきた。あの4馬鹿……。次会ったらコ〇ス。できれば二度と会いたくないという気もするけど。
「そういうことだったのか……。礼を言うよ。助けてもらってありがとう」
「気にしないで。私たちは当然のことをしたまでだよ」
俺はそこであることに思い至った。
「そうだ――レグは!?」
「ああ、いっしょにいた獣族の子供だね。あの子ならもう目を覚まして、元気にしているよ」
「よかったぁ」
「いろいろ話もしたいし、あとでみんなでご飯を食べよう。着替えておいでよ」
女は俺に服を渡してきた。エルフ族のもののようだ。なにからなにまで手厚い歓迎。エルフってのはこんなに親切な奴らだったのか……。なんか裏がないといいけど……。
◆
俺たちは食卓を囲んでいた。さっき話した女と、俺が泣かせてしまった女、俺とレグの四人だ。温かいスープに、サラダ。エルフ族は肉を食わないみたいで、そこはちょっともの足りない。
あ、でもこのエルフの酒はめっちゃいいな!ピンク色の液体に甘ったるいにおいが鼻をつく感じがクセになる。
「あらためて、自己紹介をするよ。私はエラ。こっちが姉のエルだ」
エラが自己紹介し、エルも恥ずかしそうに会釈した。
「姉?」いわれてみれば、よく似てる。
「双子なんだ」
なるほど。体型がぜんぜん違うからわからなかったが、たしかに双子だ。細くて背の高い、賢そうなのが妹のエラで、胸がでかくて恥ずかしがり屋なのが姉のエルか。覚えたぞ。
「さっきは、すまなかったな」
俺はエルに謝った。
「こちらこそ、取り乱してしまって……」
「姉は、男性に会うのも初めてなんだ」
「へ?」
どんな箱入り娘だよ……。エルフってのはみんなそうなのか?てかこの村に男はいないの?
「不思議そうな顔をしているね……。実はこの村には男がいないんだ」
「そりゃまた、なんで?」
「これは、私たちがまだ生まれる前の話なんだけど……」
エラは語り始めた。その当時、エルフは迫害を受けていて、男はみんな戦争に駆り出されてしまったらしい。この村はもともと小さな村だから、男という男が戻ってこなかったようだ。
今では表立った迫害こそなくなったが、エルフの生息域は年々減り続けている。環境汚染による森林破壊やなんかで、住める場所が限られていて、大小さまざまな集落が各地に点在しているのみだ。
「大変な話だな……。俺になんかできることがあったら言ってくれ。力になるよ」
恩があるしな……。
「よかった。じゃあさっそく頼みたいんだが……。私たちと寝てくれ」
「ぶふー!!!」
俺はスープを噴出した。
「ど、どどどどどどういうことだ!?」
「すまん、言い方が悪かった。私たちと結婚してくれ」
なおも理解不能。まだ夢を見てるのか俺は?だとしたらどんな欲求不満だ?
「このままだと、この村は絶滅してしまいます。エルフ族は寿命が長いから、まだ数百年は大丈夫でしょうが……。私たちが最後の世代になってしまうんです」
寡黙なエルが口を開いた。それだけ本気なのだろう。
「男なんて俺以外にも、街に出ればいるだろ!?」
「だめだ!街には危険がいっぱいなんだ。私たちはこの森から出たことがないんだぞ!?」
まじか……。どんだけ保守的なんだこいつら。まあ迫害されてた歴史とかも考えれば、無理もないことか。
「って、それって俺にここに残って一生暮らせってことかよ!?」
こいつらが街に出られないのならそういうことになる。
「だめか……?」
うるんだ目で見つめられると、屈してしまいそうになる……。でもだめだ。俺はこんな森の中で一生を終えるなんて無理だ。
「な、なら……子種だけでもいい!」
「ぶふー!!!」
俺はまた噴き出した。なんちゅーことを言うんだこいつ。淫〇エルフめ。
「君は若くて健康そうだし、イケメンだ。端的に言うと惚れてしまった」
「まてまてまて!それはお前らが若い男を見るのが初めてだからだろ!長い寿命があるんだからそんな焦って決めることねぇって!」
「この通りだ!頼む!」
エラが頭を下げた。そんなに俺がいいのか……?なんかいい気分になってきた。正直、求められて悪い気はしない。こいつらめっちゃ美人だしな。
「……その、なんだ……まあ……いいぞ」
俺はしぶしぶ同意する感じで言った。ホントは既にかなり乗り気だけど……。
「そ、そうか!ありがとう」
「でも、エルのほうもそれでいいのか?さっきあんなに照れてたのに……。その、大丈夫か?」
「だ、大丈夫……だと思います。さっきはいきなりでびっくりしちゃっただけで……」
なんだか、嘘のような話だ。ここに流れ着いたのもなにかの縁なのかもしれないな。こうなったら、クラーケンにも感謝だな。俺って運がいいぜ。
その晩、俺たち三人は明け方まで部屋から出てこなかった。何日か寝たあとだったからか、俺の体力は尽きることを知らなかった。
レグは隣の家に預かってもらった。すまん、娘よ。
◆
翌朝、目が覚めると……ベッドにはエラとエル以外にも何人か若い女がいた。
「!?!?」
なんか増えてる……。
「ねぇ!エラ!これどういうこと!?」
「ああ、昨日君は酷く酔ってたからね……。覚えてないのも無理はない。夜遅くに、君の噂を聞きつけた若い連中が、乗り込んで来たんだよ。みんな若い男を見るのは初めてだからね」
んなアホな……。昨日の俺、どんだけ頑張ったんだよ……。途中までしかあんまり覚えてないことが悔やまれる。
「旦那様ー!」
名前も知らないエルフが、俺に覆いかぶさる。
「ぐおっ……」
昨日の疲れからか、少し体が触れるだけで、あちこち痛む。
「大丈夫?」
「今日は動けないかも……」
「昨日のエルフ酒を持ってくるよ」
エルフ酒?そういえばなんか飲んだな……。あれを飲んだあたりから、なんか展開がおかしくなってったんだっけ……。
エラが酒をもって戻ってくる。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう」
俺はエルフ酒を飲み干す。ごきゅごきゅごきゅ。
するとどうだろう、さっきまでの痛みがどんどん、嘘のように引いていくではないか。
「おお!すげぇ、元気になったよ」
まさに全身元気になった。ほんとに、全身。体の末端に至るまで。でもなんか嫌な予感がする……。
「エルフ酒は万病に効く長寿の秘薬なんだ。どんな痛みでもすぐに直すよ。私たちはこれを毎日、毎食飲むんだよ」
「な、なあエラ。この酒……、なんか変なもん入ってないか?」
聞いたことがある。エルフに伝わる秘伝の酒を飲むと、どんな澄ました聖女も、たちまち興奮するとか。つまり、秘薬ならぬ媚薬だ。
「ま、まあ確かに、顔が赤くなったり、汗が吹きだしたりといった副作用はあるようだが、大丈夫だ」
「大丈夫じゃねえよ!!!」
あれじゃねえか、昨日あんなことになっちまったのもこの酒のせいなのか?まあ確かにエルフ族の存亡の危機云々ってのもあるだろうけど、間違いなくこの酒の後押しもあっただろ。つまり酔った勢いってやつだ。
いままで女ばっかの村だったからあんまりその副作用は意味をなさなかったみたいだが、俺という異端分子がそれを存分に発揮させてしまったらしい。
どうりで無尽蔵に頑張れたわけだ……。
恐ろしい酒……。
「はぁ……やっちまった……」
「ま、まあ済んだことはいいじゃないか、旦那様」
「誰が旦那様だ!」
俺はこのあともエルフたちに放してもらえず、何日か村に滞在することになった。
はえーエルフって淫〇なんだなぁ……。
――続く。
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