第4期「爆乳と淑女達」
「お前らのおかげでEとFは落とせた」
テニス部員の着替え盗撮動画から王子先輩が映っているシーンだけを切り抜き、F組のオタク女子達に配り、その代わりに級長会議でG組に投票してくれる約束を取り付けた。映像の出所が出所なだけに、撮影した僕達はもちろん、その違法性を知りながら受け取ったF組の立場も危ういと言えば、あの映像の事は口外しないと約束してくれた。
僕を旗頭とした美鶴班がテニス部へ、夜一を旗頭とした夜一班はバスケ部に入部した。E組はそのほとんどがテニス部とバスケ部の部員だ。運動部は特に仲間意識が強く、同じように多くがそれぞれの部活に入部したG組と友好関係を築いてくれた為、級長会議でG組に投票すると約束してくれたのだ。E組級長がバスケ部だから良かったものの、もしテニス部の部員が級長で、かつ天照さんと接触していれば危うかったかもしれない。しかしたらればの話をする意味もない。僕達は運良く二択に勝ち、言質を取れたのだ。
「あれ、クラスの数は全部でAからGまでの七クラスだよね? 自票を合わせても三票だけじゃ足りないんじゃないの?」
「その通りだ。だからあるクラスの級長を抱き込む為の策を打っておいた。放課後にG組へ、と招待状を送ったからそろそろ来るだろ」
丁度悠里が言葉を切ったタイミングで教室のドアがノックされた。
「はいはーい、どなたですか?」
「オ~ホッホッホッホ! 招待に与り、ビューティフルでブリリアントなB組級長の
ドアを開くと、金髪縦ロールの爆乳が居た。
「「「でかい!」」」
男達、もといG組の健全極まりない淑女達は口を揃えた。
「〝3B〟と名高い白光院のご令嬢に来てもらえて光栄だ」
「あら、その名を知りやがっていらしたのね! ビューティフル・ブリリアント、そしてビューティフルの白光院よ、そちらのお前ら様も覚えておきなさいまし!」
「どうぞそこに掛けてくれ、今紅茶を出させる」
悠里の指示に従い、クラスメイトが紅茶を準備する。
「ねえ悠里、〝3B〟なのに一つ重複してたけど」
「正しくはバカ・爆乳・ぼんぼんだ。あれでも大財閥白光院家の令嬢だからな、粗相の無いように頼む」
お前の本心が何よりの粗相では無かろうか。
「ちょっとお前ら、何を内緒話してやがりますの?」
「こっちの話だ。さて、白光院を呼んだのは他でもない、級長会議で行われる一年生代表選出についての話だ。ああ、お茶請けは好きに食べてくれ」
「
白光院家の令嬢がクッキーをむさぼりながら話してる。これが財閥令嬢のテーブルマナーか、勉強させていただきます。
「やはりB組も代表の座を?」
「ごくんっ! あたぼうですわ! あの憎きA組を引きずり降ろしてやりますの! そちらのマカロンも頂きますわ!」
がっつくなぁ。きっとたくさん食べた栄養が全てあの爆乳に流れてるのだろう。少なくとも脳に回っているようには思えない。
「ここだけの話、実はG組もA組を憎く思っているんだ」
「あんたら良い趣味してやがりますわね! 級長はあなた?」
「いや、こっちの大和守美鶴だ」
「気に入ったですわ!」
彼女は満面の笑みで握手を求めて来た。その左手にはクッキーのかすやマカロンの生地の欠片が付いたままだ。僕は無理やり笑顔を作りその手を握った。
「左手の握手は不信を示すんだがな……」
「仕方無いよ、バカなんだから」
「だから内緒話はやめなさいまし!」
ぷくーっと頬を膨らませる彼女。胸以外、どう考えても天照さんに勝てるとは思えない。
「じゃあ美鶴さん、当日は私に投票してくださる? 共にA組をぶちのめしてやりますわよ!」
「いや、逆だ白光院」
「ほえ?」
「お前が美鶴に投票するんだ。それでG組はA組に勝てるからな」
「何を間抜けな事を言ってやがりますの? A組に勝てるのは、偶然にも運が悪く入学試験でほんの少しだけ僅差でギリギリ劣ったけれど実際には最優秀クラスであるB組だけに決まってますわ!」
「だが既にEとFからはG組への投票を約束してもらっている」
「なら残り四クラスがB組に投票して勝ちですわね!」
「A組が他クラスに入れる訳無いだろ」
「あれっ、ほんとですわね!? ど、どうしてこんなことに……」
彼女は虚ろな目でクッキーをむさぼり始めた。喉が渇いたのか、今度は紅茶を飲み干す。
「おかわりですわ!」
横に控えていたクラスメイトが彼女のカップに紅茶を注ぐ。彼女はそれに口を付け「あつあつですわ!」と慌てた。子供みたいでちょっと可愛く見えてきた。
「白光院、どうしたってB組の勝利は無い。それならA組なんかに勝ちを譲るより、その対抗馬に票を投じた方が賢いとは思わないか?」
「でもなんか悔しいですわ! 勝ちたいですわ! 勝ちたいですわ~~~!」
今度は駄々をこね始めた。僕はふと思いつき、クッキーを口に近付ける。すると彼女は目を輝かせて口を開けてきたので、目の前でクッキーを食べてやった。すると目を潤ませた彼女はありったけのクッキーをかき集め、まとめて口に放り込み勝利のドヤ顔を決めてきた。Where is 品位?
「だが困ったな。こちらからの要望を組んでくれなきゃ、解毒剤は飲ませられないぞ」
「「解毒剤?」」
僕と彼女の声が揃った。
「ああ、大したもんじゃないがな。その前に……」
悠里がクラスメイトに視線を送ると、白光院さんは瞬く間には座っていた椅子に縄で縛り上げられた。綺麗に胸を避けて縛っているせいで胸が強調されている。良い仕事だ。
「どういうつもりですの!? 私は毒を飲まされましたの!?」
彼女はじたばたしながら叫ぶも、縄は解けない。
「白光院が飲んでいた紅茶には、水酸と呼ばれる酸性雨の主成分にもなっているような液体が入っていたんだ」
「酸性雨を飲んでいたんですの!? 殺す気でいやがりますの!?」
「そんなまさか。ああ、そういえば水酸は腐食を進行させたり、末期がん患者の悪性腫瘍から検出されたりするらしいぞ」
「嫌ですわ! 死にたくないですわ! さっさと解毒剤を寄越しなさいまし!」
「そうだなぁ、B組が味方だと分かればなぁ、今すぐにでも助けてやりたいんだが」
「分かりましたわ! G組に投票しますわ!」
「もう一度だ、録音させてもらう」
悠里はスマートフォンの録音機能を起動させ、スマートフォンをテーブルに置いた。
「B組級長の白光院なずなは、級長会議でG組を一年生代表へ推薦してやりますわ!」
「解毒剤を」
悠里の指示で別のポットから紅茶が注がれた。クラスメイトがカップを白光院さんの口元へ持っていき、紅茶を彼女の口へ注ぎ込む。首元へ滴る紅茶が何とも煽情的だ。当の本人はというと「あつあつですわ!」と叫んでいた。
突然教室のドアが開いたのは、丁度その時だった。
「美鶴、一緒にテニス部に…… 何、これ」
「天照さん!?」
「んなっ、A組! A組ですわ! 恥を忍んでお願いですわ、助けなさいまし!」
「何でも無いからね天照さん! これはちょっとしたお遊びで──」
「────っ!」
僕の言葉が届くよりも早く、天照さんは走り去った。白光院さんが縛り上げられているのを見た瞬間の天照さんの顔は、憎悪とも恐怖ともとれる難しい顔をしていた。あまり表情の変わらない印象の彼女にしては珍しく思えた。
天照さんの登場で場の興が削がれた。どうせならエロティックなイタズラでも施してから解放してやりたかったが、何だか素直に可哀想に思えてきた。悠里も同じだったらしく、縄を解き、追加でクッキーのお土産を渡して彼女を帰らせた。お土産のおかげか、何だかんだ言って帰り際の彼女は笑顔だった。
「ちなみに美鶴、水酸って何か知ってるか?」
「……えっ?」
「何呆けてやがる。水酸だ水酸」
「あぁ、うん、水でしょ?」
「さすがに知ってるか、つまんねーの」
悠里は少し楽しそうだったが、僕は違った。なんというか、天照さんのあの表情が妙に胸に引っ掛かった。とはいえこれで級長会議に向けた根回しは完了だ。これでG組の勝利は揺るぎない。でも何だろう、この後味の悪い感じは。
こういう時は身体を動かすに限る。折角入部したんだ。今日は思いっきりテニス部の活動に精を出そう。僕は教室で体操服に着替えてテニスコートへ向かった。
テニスコートに天照さんは居なかった。
それどころか、翌日から学校にも来なくなった。
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