3-3 決着です。

「ま……おみゃあさん如きに一本取られるわけにゃいかんでな」


 剣が折れ、呆然とするオークさんにセイルルオさんは言います。


「おれから剣で一本奪えるのは、ソラくんだけだがね―――」


 続いた言葉は、どこか虚空を見つめていました。


 ソラ―――確か勇者の名前。


 なるほど。これは男と男の巨大な感情が見てとれますね。


「なんかヨダレ垂れてないッスかシーさま?」

「何のことでしょう?」


 失礼なジュンヤさんです。じゅるり。


「これで決着ですね」

「いや、不味いな」

「はい?」


 レインさんの言葉の意味は、すぐに分かりました。


「いかん! 興奮し過ぎて思わず剣折ってまったわ! 拳で来られたら勝ち目ねぇがや!」

「は!?」

「当然だな。今まではルオの【剣師職特攻】で有利を取っていたに過ぎん。セイルの身体ではあのオークは倒せん」

「なにをお呑気にレインさん!」

「すまんなセイル、おれはここまでだが!」


 セイルさんのオールバック一つ結びの頭から、何かがスーッと抜けていくのが見えました。


「……つかれた」


 どうやら元のLv.11しかないセイルさんに戻ったようです。


「―――んん?」


 それは、やばいのでは??


「け、剣が……」


 と、突如として、


「俺の剣がァァァァァ!!?」


 オークさんが叫びだしました。


「う、うわぁ!? 来るな! 来るなァァァァ!!!!」

「……ッ!!」


 折れた剣から手を離そうともせず、がむしゃらにセイルさんに向かって突進していきます。


「ふむ、自らを加護する物が無くなり、狂気に堕ちたか。強靭きょうじんな肉体を持つオークの心をあれほどまで脆弱にしてしまうとは」

「あれは守護の聖剣じゃなくて、堕落の魔剣だったかもしれないッスね」

「なにをお呑気にお二人さん!」


 セイルさんが、オークさんのタックルを食らって地面に倒されました。


「うわぁ! 死ねっ! 死ねッ! 俺に触れるなッ!!」

「……ッ!!」

「セイルさんッ!」


 支離滅裂なことを喚きながら半狂乱でセイルさんを殴り続けます。


 どうしよう。

 どうしよう。

 どうし―――「シーさま! レベル!!」


 ジュンヤさんの声に、私は我に返りました。


 自分が―――が、何をすべきか。


「いらないって言われたけど―――」


経験量転移エナジートランス】!


「やっぱり貸しますっ!」


 私はセイルさんにレベルを80ほどお貸ししました。


「ウワァァァァァ―――あっ」

「ハァ……ハァ……」


 オークさんが浴びせていたパンチの雨が止みます。


 その両手をセイルさんが受け止め、押し返したからです。


「……フンッ!」

「ギャアアアアアア!!!! 痛いッ! 痛いいいいい!!!!」


 気合と共にオークさんの拳が握り潰されます。うう、グロい……。


「……殺し、たく……ない……」


 ボロボロになりながら、セイルさんはこの期に及んでひざまずくオークさんに言いました。


「わ、分かった……だから、殺さないで」

「……うん」


 先ほどまで聖騎士だったオークさんはホッとしたような表情で、


「参っ―――」


 ―――ガンッ、

 ―――ガンッ、

 ―――グシャ、


 お亡くなりになりました。


 背後からお仲間の手下オークさん達に襲われ、こん棒で頭を叩き潰されて。


【続きます】

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