3-2 木剣VS聖剣です。

 まるで未来予知。


「くっ! ぬぅ! ちょこまかとっ!」


 私はセイルさんではなくなったセイルさんの動きに目を奪われていました。


 彼はオークさんの攻撃を避けているのではなく、ように見えました。


「はぁ、はぁ、はぁ……! くぅ!!」

「なにしとる! そんな眠てゃ剣じゃ野菜も切れんぞ!」

「おの……れぇ!!」


 剣を振っても振っても当たらないせいか、オークさんが疲弊しています。


「攻撃が単調になっているな。まぁ、そうでなくとも剣の勝負において、ルオの“読み”を超えることは不可能だ」


 レインさんが言います。


 それがつまり『剣師派生職“特攻”』という意味のようです。


 いや、それだけではないかもしれません。


「どりゃっ!」


 セイルルオさんが気合を入れて放った一撃が、隙を見せたオークさんの向こうずねに直撃しました。


 落ちていたヒマキの棒が肉を打ち骨を軋ませる音が、穴倉中に響き渡りました。なんて威力。


「くっ……! 見事な太刀たちだが、我には効かぬわ!!」

「“物理無効”ってやつかね―――ならッ!」


 ギィン!


 およそ木と鋼がぶつかり合ったとは思えない音で、聖剣がヒマキの棒に弾かれました。


聖剣そいつをブチ折るまでよッ!」


 ……はい?


「フッ、滅茶苦茶だな。さすがは、“無天の剣聖”。殺しを嫌い敵の名剣・聖剣・魔剣をと伝えられるだけは、ある」


 レインさんが楽しそうでなによりですが、私は理解が追いつきません。


「我の……剣を折るだと!?」

「何を驚く? 命を取り合う乱上のケンカで、ただ一本の棒っ切れが伝説の聖剣に敵わん道理があるかね!?」


 再び、ギィン! と凄まじい音。


「勘所を心得えとりゃあ、刃とするにゃあ十二分!」


 攻め手を失ったらしいオークさんが、じりじりと下がっていきます。


「アンタ、武器に使われとるがね! 身体の重心もわりぃ! 肌身離さず聖剣そいつから手を離さねぇ生活しとるだが!?」

「む……っ!!」


 ギィン! 図星のようです。気持ちは私も分かります。物理無効の剣なんて四六時中持っていたいです。痛いの嫌だし。


「なぁにが聖剣! 煎じ詰めりゃあ殺しの道具! 後生大事に持つもんじゃあねぇが! まさか折れよったらおみゃあさん、そのちんまい尻尾巻いて逃げんのかね!?」

「この、ような、者に……!」

「あらよっと!」


 と、そこで予想外の足払いを仕掛けられ、オークさんが地面にズシン、と倒れました。


「ガッ!? ひ、卑怯な……」


 ダメージは無いようですが、肩で息をしながらゆっくりとしか立ち上がれない様子です。


「卑怯? 勝負が剣だけで決まると思ったら大間違いだで。のが剣士だら?」


 フラフラと立つオークさんにセイルルオさんが容赦なく攻め込みます。


「愛剣が折れたら戦えねぇたぁ、ただの木偶デクだて! そのへんの石ころでも何でも持って殴りかからにゃあ、よッ!!」


 ギィン!!


 ―――ピシッ。


 聖剣が、きしみを上げたのが聞こえました。


「剣が折れりゃ拳! 腕が折れりゃ足! 足が折れりゃドタマ! それも割れたら噛みついたれ!!」


 ギィン! ギィン! ギィン! ギィン!


「んでよ!」


 ガィン!!


 再びの受け太刀―――いいえ。


 聖剣の刃に、ヒマキの棒が食い込みました。


「折れねぇつるぎは、ここで鍛えるんよ……!」

「あ……、あああ……!!」


 オークさんは、今にも泣きそうな顔になっています。


「オークよ、その聖剣は、おみゃあ間尺ましゃくにゃ、合ってねぇッ!!」


 ―――バキィン!!


 白く輝く聖剣が、砕けました。


【続きます】

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