2-3 生きてます(両方)。

 私を抱き上げたその腕は。


「だ、だれ―――」


 太くて、大きくて、強くて。


「ひっ!? 高っ―――!」


 暖かいのに、ぶっきらぼうで。


「……怖い、なら……下ろす」


 無感情で朴訥ぼくとつとした口調でした。


「い、いえ大丈夫です。お姫様だっことかこの機会を逃したら二度となさそう―――」


 って、そうじゃないっ!


「……大丈夫なら……いい」


 このでっかい人、誰ですか!?


「……」

「……」


 無言で見つめ合うしかありません。

 頭には、くすんだ白いターバンが巻かれています。

 はみ出した真っ黒な前髪が顔を覆って―――目ぇ怖っ!?


、そのむすめを下ろせ」

「……うん」


 また別人の声がして、私の人生初お姫様だっこは終了しました。


「セイル、さん?」

「……うん」


 セイルさんが小さく頷く。


「……大きい」


 眼前の聖騎士オークさんより一回り小さいくらい、身長190㎝はあるでしょうか。


 体型は、ターバンと同じようにくすんだ白のマントに覆われていて判然としませんが、とても筋骨隆々としている気配がします。


「貴様ら、我らを討伐に来たギルドの者か」


 聖騎士オークさん声の先には、壮年の男性がいました。こちらも大きく、鍛え上げられた胸筋や腹筋が浮き出るようなタイトな服装です。


 彼が口を開きます。


「豚に答える言葉は持たない―――」

「そうッス。俺が斥候スカウト役です」

「ジュンヤさん!?」

「うっス、シーさま」


 ジュンヤさんが生きてました。


「ご無事で何よりッス」

「いやあなたはどうしてご無事なんですか!? 首がものの見事にスパッと身体とさようならしていたではありませんか!」

「俺は―――」


 ジュンヤさんは、恥ずかしそうに言いました。


「レベル1の、しがねぇ“不死者”ッスよ。……あ、今のは『しがねぇ』と『死がねぇ』をかけた激ウマギャグで―――あでっ!?」

「たわけが。ペラペラとこちらの内情を喋りよって」

「いや、レイン師匠だって、シーさまが殺されそうで慌てて出てきちゃったじゃないッスか」

「飛び出したのはセイルだ」

「へぇ、珍しいこともあるもんッスね」

「どうも貴様が我ら一党に入ってからの傾向なようだが」


 レインさんと呼ばれた格闘家っぽい人は、溜息のあと、こう言いました。


「―――決闘の続きと行こうか、聖騎士オークとやら」

「ふん、我がそれを受ける利は?」

「貴様がセイルに勝てば、見逃してやろう」

「フハハハハ! 面白い!!」


 オークさんは面白そうに、セイルさんは無言で闘技場中央に向き合いました。


「どちらが息絶えるまで―――」

「……やだ」

「なに?」

「……俺は、死ぬまでで、いい……けど。

 ……君は、“参った”……とかで、いい。

 ……殺したく、ない」

「―――これは笑えんな」


 周りの手下オークさんたちが黙り、コソコソとジュンヤさんとレインさんの背中に隠れた私も血圧が一気に下がりました。


「相変わらず、セイル先輩はナチュラル煽り魔ッスね」


 楽しそうですねジュンヤさん。


 もういっぺん首ちょんぱっときますか?


【続きます】

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