2-2 私も死にます(たぶん)。

【前回までのお話】決闘です。【以上】


 松明のオレンジに照らされた穴倉闘技場。


 野盗と人買いを生業なりわいとしているらしいオークさんたちがぐるりと取り囲む中。


「どちらかが、息絶えるまで」


 オークさんは聖剣を。


「うぃッス」


 ジュンヤさんは拳を構え。


「いざ!」


 決闘が始まりました。


見析ウォッチ


聖騎士パラディンオーク』種族:オーク 役職:聖騎士


 聖剣“ディング”を持つ野盗オークの大頭おおがしら


 Lv.60

 膂力りょりょく 160

 瞬発力 120

 耐久力 200

 魔法力 100


『サトウ・ジュンヤ』


 Lv.100

 膂力りょりょく 220

 瞬発力 241

 耐久力 210

 魔法力 235


【見析終了】


 ふっ。


 勝ちましたね。


 力量ステータスの数値が私と同じじゃないのが少し気になりますが、あの大きなオークさんよりは断然上です。


 事実、ジュンヤさんはびゅんびゅんと闘技場を動き回り、聖騎士オークさんを攪乱かくらんしています。


「ふん、レベル100か。まったく手に負えんな」


 と、オークさん。

 ……なんでしょう。

 どことなく余裕です。


「かくなる上は!」


 右手の聖剣を上段に、迎え撃つ構えです。


「では! 遠慮なくッ!」


 真正面からジュンヤさんが突っ込み、


「ふん!」


 オークさんの鋭い剣戟けんげきを避け、


「うらアアアアアア!!!!」


 その隙だらけのでっぷりとしたお腹に重い拳を撃ち込みました。


「あれ?」


 ですが。


「見事だ」


 ジュンヤさんのレベル100パンチが聖騎士オークさんのどてっ腹に穴をあけることはありませんでした。


「ふん、蛮勇のヒトよ―――」


 むしろ、悲しくなるほどノーダメージです。


「―――なかなかの拳ではあったぞ」


 腹にめり込んだジュンヤさんの腕を掴み、オークさんが言います。


「しかし我が聖剣の加護に、そのような力任せの攻撃、効くものかよ」

「なるほど、そういうことッスか」


 お? ジュンヤさんが何か納得したように呟いています。


 なにやら秘策があるのでは。


「シーさま」

「はいっ!」


 にっこり笑ったジュンヤさんの、


「すみません、死にます」

「へ?」


 ―――スパッ


「あ……」


 ―――首と胴体がサヨウナラしました。


「ひ……っ!」


 人の首ってそんな簡単に取れるんですかぁぁぁぁ!!?


「さて」


 聖騎士オークがこちらを向く。


「次は貴様か」


 私の身体が石のように固まる。


「ひっ!?」


 腰が抜ける。

 膝が自然と痙攣けいれんする。

 声にならない声しか出ない。


「小娘よ」


 オークが近付いてくる。


「いや……」


 下が濡れ、座っている地面が生暖かくなっていたが、そんなことを気にしている余裕もない。


「……つまらんな」


 聖騎士オークはフガッと息を吐きながら言う。


「仲間の死、そして己が死を前にして臆し身動きも取れん、か」


 動け、私。

 大丈夫、倒せる。

 私はレベル100なんだから。


 と、視界の端に見てはいけない物を見た。


 さっきまで生きていた、ジュンヤさんの、首。


 ……レベル100?


 


 心が、折れた。


「い……いや……ぁ」


 全身が強張る。

 足が震える。

 涙が出る。


「こない、で……ころさない、でぇ……!」


 怖い。

 怖い。

 こわいこわいこわいこわいこわい。


「肉にもならん、買い手もつくか分からん」


 涙と鼻水と、その他さまざまな体液をまき散らしながら、命乞いをすることしかできなかった。


「なら」


 聖騎士オークは、ただただつまらなさそうに淡々と言った。


「ここで死んでおけ」

「いや―――」


 か細く叫ぶ私を。


「……助ける……泣くな」


 大きくて暖かい腕が包みました。



【続きます】

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