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 時々、SNS で中学や高校時代の同級生の名前を検索する。家族や仲間に囲まれて、みな幸せそうだ。


 田中は SNS をやっていないのかアカウントが見つからなかったが、佐藤は結婚して実家の自営業を継ぎ、子供も生まれて充実した人生を送っているようだ。鈴木も結婚していて、東京の大手企業に勤めている。1年前に海外出張でヨーロッパに行ったらしい。


 理不尽だった。何で僕をいじめた奴らが幸せになっているんだ。因果応報なんて嘘っぱちなのか。


 あいつらのせいで、僕は人間が怖くてたまらない。だからまともな仕事に就くこともできない。僕がこんな雨続きの人生を送らなければならなくなったのは、一体誰のせいだと思っているんだ。腹が立って仕方ない。


 復讐してやりたい。そう思ったこともあった。だが、思うだけだ。僕には彼らに復讐するための能力もなければ気力もない。心の中で奴らを呪うことしか出来ない。


 そのように過ごしていた、ある日のことだった。


 いつものように夕方のスーパーで、値引きシールの付いた食料品を選んでいた僕は、少し離れた場所から一人の男が僕をじっと見つめていることに気づいた。


 そして、僕は瞬時にそれが誰かを思い出した。


 中村だ。高校時代の同級生の。


 彼は僕をいじめていたわけじゃなかったが、仲が良かったわけでもない。そもそも高校時代の同級生で仲がよかった人間なんか、僕には一人もいなかった。


 中村は僕がいた高校に入学したのがおかしいくらいの、とんでもない優等生だった。


 テストは常に100点。全国模試でもランキングに入るくらいの偏差値を叩きだしていた。まるで小学生の頃の僕を見ているようだった。


 そのくせ性格も気さくでコミュニケーション能力にも長けていて、おまけに超絶イケメン。間違いなくスクールカーストの頂点に立っていた男だった。


 彼と話をした記憶もそれほど無い。だが、僕は彼が嫌いだった。彼は僕が当時片思いしていた、谷中という女子と付き合っていたのだ。


 谷中はちょっとしたアイドル並みの容姿を備えていて、成績もよく、中村とはお似合いのカップルだった。どう考えてもカースト最下層の僕が割り込む余地なんか、全くない。僕は彼が妬ましかった。


 中村は僕が手に入れたいと思うものを、全て持っていた。知識も能力も友人も恋人も。僕と彼とはあまりにも差がありすぎる。そうなると、逆にもうどうでも良くなってしまう。だから僕は彼が嫌いだし妬んでもいたが、恨んではいなかった。


 四半世紀近くぶりに会ったことになるが、彼の外見はあまり変わっていなかった。


 少し髪に白いものが混じっているが、相変わらずイケメンだ。むしろあの頃よりもダンディになったように見える。


 僕は思わず目をそらした。彼に限らず高校時代の同級生なんか、誰一人会いたくなかった。そしてそのまま立ち去ろうとした、その時。


「山本じゃないか?」


 年齢を重ねた中村の声が、僕の背中を捉えた。


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