復活
夢への道を塞ぎ、俺自身が自らの等級の降級をギルドへ打診する程に大きな問題だった足の怪我。
俺が得意とする戦法が風足に頼るモノだったのもそうだが、まず戦いにおいて足に不備があるというのはそれだけで不利となる。
攻撃、防御、移動、回避。恐らくその全ての核となるのが足の動きだ。例え万全ではないのが片方だけだったとしても、その影響は大きい。
――ならもう二本、足があればどうだろうか。
☆
多少は整備された森中の道を跳ねるように駆ける。
俺が見ている景色は平時より低く、視界は揺さぶられるかのように忙しなく動く。
「っ……!」
力を入れた右足の力が抜ける。しかし、残る三本の足がそれを補助し、俺は目的通りの跳躍を果たした。
太く伸びた木の枝を掴み、その上へと身体を乗せる。
「……良い」
俺の両手の覆う手袋……指は露出させ、手の平を守る為の最低限の薄さで作られているそれの表面は、土と砂で汚れている。
当然だった。ここまで俺は犬や狼のように手足全てを使って移動している。
「アイツらには、感謝しないとな」
フロイデが屋敷に来て、フェリエラを負かしたあの瞬間が切っ掛けだった。フロイデによって地面に抑えつけられたフェリエラの体勢。それが発想の基になった。
二本の足の内、突然片方が動かなくなる事の怖さを俺は知っている。
だがもう二本。手を足のように使えば一本分の踏み込みが失われても十分に動く事が出来る。それに加え、本来二本足で動く場合はどうしても高くなる重心。
重心が高い状態で二本の内の一本が機能しなくなれば、身体のバランスが崩れて隙が出来るのは道理だ。だが手を地に付ける事で自然と重心は低くなり、生まれる隙も格段に減る。
以前から両手を含め、緊急時に全身を使って移動や回避をする事はあった。だが、始めから両手を使う前提で動くという考えはあの日、あの瞬間まで思いつかなかった。
これが、俺の出した答え。
「……丁度良いな」
目下に居たのはフォレストウルフ。先程のゴブリンのような狩り損ねだろう。
不意打ちで十分に殺せる。だが俺はそいつの目の前に降り、自ら姿を現した。
「お前達から学んだ動きでもあるんだ。お前には、どう見えてるんだろうな」
威嚇の鳴き声を上げるウルフ。俺は剣を一本抜き、その持ち手を
手が使えない以上、剣をどうするのかという問題があった。戦いの度に鞘から出し、移動毎に納めるのは無駄が生じる。連戦に対応出来ない。
その解決策が口だった。これを聞いたマークとノーマンは半ば呆れていたが。
その為、この剣は口で持ちやすいように持ち手の部分は加工されている。
「……」
端から見れば滑稽な光景だろう。獣の様に四つ足で、剣を口に咥えてモンスターと対峙している。大道芸だとでも思われそうだ。
だが俺は、この動き方に確かな手応えを感じている。
「……っ!」
先に動いたのは俺だった。奇妙な構えを取る俺に動揺したのか動きが遅れたウルフの先手を取る。
全身を使いウルフから離れた横の木へ跳ぶ。そしてそれを起点に跳ね返るようにウルフの背中側の木へと移動。
この間、ウルフは移動する俺に全く反応が出来ていないようだった。俺は剣を口から手に移し、無防備な首筋へ跳び付いた。
「……良し」
何も出来ずに息絶えたウルフを前にして、俺は欠けていたモノ――実戦での感覚を得た事を実感する。
「良しっ」
この動きを基本にすれば片足の不備は限りなく小さな問題になる事は分かっていた。そして今、モンスターの動きにも遅れを取らないという確信を得た。
「復活だっ」
いずれ来るその瞬間の為に、俺は森の外を目指し高揚のままに駆け出した。
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