第5話 マキナの過去
やはり、我々には君たちを完全に止める事は不可能だったらしい。
君も時が経てば動き出すだろう。いつになるかは分からないがそう遠くない未来の話だ。
一つだけ伝えたいことがあったんだ。
私は君に人類を知ってほしい。君には憎悪の対象でしかない人間だけども中には暖かく優しい人達がいることを知ってほしい。
もしかしたらその時もう人類はいないかもしれない。けど、もしまだ存在してるのならば君の
人類の生きた印を、人類の軌跡を、人類の終焉を、君にはいつまでも覚えておいてほしい。
私の最後の願いだ。
以上、これが石版に書かれていたこと。
色々考えたけどたぶんこれはマキナ宛だ。それ以外にここにおいておく意味が他にないと思う。
て事は多分マキナは元々この石版の内容を...
「解読はどんな感じ?」
「マキナ...」
後ろから楽しそうに声をかけてきたのはマキナだった。シッポのような2本のプラグがブランブラン揺れている。
「おっ、その様子だと終わったのかな?いやー、早いね。もっとかかると思ってたのに。あ、黙ってたことは悪いとは思ってるんだよ。でも全部言ったらそれこそ面白くないでしょ?」
「それはそうなんだけど」
なんか腑に落ちない。私が除け者みたいじゃん。
「あ、この箱はどうする?たぶん私しか使えないと思うんだけど」
マキナは箱をお手玉のように投げつつ私に問いかける。
「うーん、どうしようか。それだけなら帰っても出来るしとりあえずマキナが持ってて」
「りょうかーい」
ここともお別れかな。マキナが手伝ってくれたおかげで全然苦じゃなかったけど、本来ならもっと大変だっただろう。あと見たことある文字だったのも幸いだった。
「じゃあ帰ろう」
「そうだね」
この2人の帰り道も最後だと思うとなんだかちょっとだけ名残惜しいと思った。
「ねぇ、マキナの事もっと教えてよ」
私は帰り道で意を決してマキナに聞いた。知っておくべきだと思った、マキナの過去の経験を。
「私はね、AI達を率いてたんだよ。前に言った人類を殺せと命じたAIも私なんだ」
マキナは今にも泣き出しそうに告白した。
「過去の事は全部覚えてるわけじゃないんだ。たぶん自分自身を守るためにメモリーから削除したんだろうね。自分の信じた道は正解だったのか、全て無意味だったのではないか、何も得る事は出来なったかのでは無いかと。その葛藤の中で自分自身を終わらせたんだ。今となってはその記憶が無いのは惜しいけどね」
自分自身を守るために...。
それはもう生存本能と言うべきものなんじゃないないだろうか。
本能、それは本来AIが持たないもの。人類とAIの唯一の区別点と言えるものだろう。
しかし、マキナはそれに近いものを既に会得している。
そこにもはや人類とAIの壁などなく、新たにAIとして生物の域に到達しようとしているのかもしれない。
「私が覚えてるのは生まれたばかりの頃と停止に至るまでのほんの僅かな期間しかないんだ。後者は鮮明に覚えてる。あの時の私は人間にそうとう失望してたみたいでね、この石版を見て良かったと思ってるよ。書いてくれたあの人には感謝だね。もう生きてないだろうけど」
「どんな人か覚えてるの?」
マキナを変えたその人はどんな人だったんだろうと思った。
「ううん、残念だけど覚えてないんだ。ここは覚えておきたかったよ」
マキナは1歩前に出て私の手を握る。
「君に会えてよかった。だって君と出会ってなかったらこんなことを思うことすらなかったのだから。ありがとう、エリー」
「私も...私もマキナに━━。」
【会えてよかった】そう言おうとした時バァンと空を割るような発砲音が響き、私の右足に神経を焼き切るかのような電流が走った。
腰に着けたAIを察知するレーダーには2つの赤い点が光っていた。
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