第3話 生きる意味

「ねぇ、エリー。やっぱり迷惑かけてない?」

「またそんな事言ってるの?別に迷惑なんてかかってないって」

 少なくとも私は。

「そ、そう?」

「そうだよ」

 マキナの手を握りながらおじさんの部屋に向かう。まぁ部屋と言っても仕切ってるだけなんだけどね。

 むかう最中色んな視線を向けられたけど気にしない。マキナはソワソワしてたけど。

「おじさんただいまー」

 そう言ってドアを開ける。中からは黒髪の老人が顔を覗かせた。

「おかえりエリー、無事でよかった。...あとおじさん呼びはやめろ」

「だってアルディエゴって言いにくいじゃん」

 アルディエゴとはおじさんの本名だ。私は呼びにくいからおじさんって言ってるけど私にとっては親みたいな人。

 このシェルターにいる人の中で最年長。そして元リーダーだ。

 私が小さい頃にリーダーを譲ったらしいけど私は知らない。ラルクが教えてくれた。

「で、そいつが騒ぎの原因って訳か」

 そう言っておじさんはマキナを見つめる。

「その件はすまない。私も迷惑になるとは思ったんだが...」

 そう言ってマキナがこっちを見てくる。

 なんだよ

「いや君が謝る事じゃない。エリーが無理やり連れてきたんだろ。迷惑かけたな」

 そう言っておじさんがマキナに頭を下げる。マキナも『いえ、私も悪いですから』とか言いつつ頭を下げる。

 まぁ、確かにちょっと強引だったかもね。

「そういえばここからちょっと行ったところに建物があったよ。よく分かんないところが結構あったから今度行かない?そこでマキナも見つけたから何かある予感がする」

 説教でもきそうな雰囲気あったから即座に話題をそらす。

「どこら辺だ」

 そう言っておじさんは地図を持ってきて机の上に広げる。

 案の定おじさんが食いついた。

「たぶんここら辺」

 そう言って大体の場所に指を置く。

「そこら辺か、確かに行ったことのない場所だな。明日辺りでも行くか」

「さんせー。マキナも来るでしょ?」

「じゃあ行こうかな。私も気になるしね」


 --------------------


 さっきまであんなにはしゃいでた金髪の女の子は私と出会った一連の流れを話したあと、過ぎ去った台風のように静かに眠ってしまった。

「すっかり眠ってしまったね」

「エリーも疲れてただろうからな。そっとしておいてくれ」

 そう言ってアルディエゴさんはそっと毛布をかける。

「まだ、名前を言ってなかったな。アルディエゴだ。確かにマキナだったか、エリーを助けてくれてありがとう」

「いえいえ、エリーだったらたぶん1人で帰れてますよ。現に私何もしてないですし」

「そんなことない。あのエリーがすぐ心を開いたんだ。君の存在はエリーにとって大切なものになるかもしれんな。まぁAIという珍しい存在ってのもあるかもしれんが」

 アルディエゴさんはそんな事を言った。

 私の中のエリーは明るい無邪気な子ってイメージなんだけど、案外そうでも無いのかもしれない。

「そういえばマキナ。君には目的があるか?」

 アルディエゴさんはそんな事を聞いてきた。

「目的...?」

「そう、目的。というより生きる意味って方があってるのかもしれんな」

「生きる意味...」

 私にとっては縁のない言葉だ。ずっと使命をまっとうしてきた。...あれ、使命ってなんだっけ。

 何かに囚われていた。何かにすがりついていた。そして...。

「生きる意味...」

 もう1度口に出して整理する。

 過去なんてどうでもいいのだ。話してるのは今の話。過去なんてどうだっていい。

「たぶん私は人間の事を知りたいんだと思う。だからたぶんエリーに声をかけたんだ」

 それが今、私のやりたいことだ。

「そうか、ここには結構な人間がいる。君にはこれ以上ない環境だ。色々と見て回るといい」

 そう言ったあとアルディエゴさんはエリーを抱え外に行ってしまった。たぶん寝床に連れていったのだろう。

「生きる意味か」

 私の中でこの言葉がグルグルと回っていた。

 今まで考えもしなかったこと。きっとエリーに連れてきてもらったから知れた世界だ。私1人じゃ知れなかった世界。

 さっき思い出した事は胸に閉まっておく。ハッキリと見えた私の最後の記憶、そしてあの時の感情。

 ...今はいい。そんなのは忘れて今を楽しもうじゃないか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る