二十七話
「それで、早く弁明してくれるかしら?」
ある晩の校長室、アリスはマリエスの首元にナイフを突きつけていた。
「あら、私が何かしたかい?」
「ふふ、ならそこにいる“女王陛下”にも改めて聞こうかしら?」
奥には魔法で縛られている女王陛下がいた。
「私の息子に何をしたのかしら?」
「···それを知ってどうするつもりだい?」
「それはあなたが知ることではないわ。どうせあなたは死ぬんだから。」
「き、君は何一つ理解していない。私を殺したところでなんのメリットがあるんだい。」
「あら、息子を救えるじゃない。」
「まさか気づいていたのかい?」
「私はこれでも現役よ、当たり前じゃない。」
「それでもあれは消えないよ、だからこの物騒なものを退けてくれないかい?」
それでもアリスはナイフを下ろそうとはしなかった。
「後もう一つ、何かしたでしょ?嘘なんて言わないほうが身のためよ。」
「さあ、なんのことかわからないな。」
「指の一本位、落としたほうがいいかしら?」
「やってないことをやったとは言えないな。何か誤解をしてるんじゃないか?」
「そう、なら“私からは”とりあえず追求はやめるわ。」
そう言うとアリスはナイフを下ろし、近くのソファに腰を下ろした。
「でもいいのかしら、今吐くなら楽に逝けるわよ?」
「だから私は何もやってはいない。」
マリエスはアリスと向かいにあるソファに座る。互いに牽制する中、いきなりドアが開かれる。入ってきたのは白髪の女性だった。
「校長はいるかしら?」
「···校長なら私だが?」
すると突然、ソファの真ん中がえぐり取られ崩れてしまった。
「うふふ、よく避けたわね。遺言くらいなら聞いてあげるわよ?」
「何故こんなところにいるんだい?確か君は死んだはずじゃ?」
「それならそこの女に色々してもらって···まあ間に合わなかったみたいだけどね。」
「あら、もっと感謝してくれてもいいんじゃない?」
マリエスは内心焦っていた。
アリスはかつて“冷酷の魔女”として恐れられていた。
そして白髪の女、シラユリは元魔王であり“漆黒の姫”である。
二人を事実上敵にまわしてしまったのだ。マリエスにとってこれは誤算であった。
「まあ私のことはどうでもいいじゃない。貴女を殺せればそれでいいもの。」
「···ああ彼、ユートだったかな。いや確か今はオメガと」
突然首元に漆黒の刃が突きつけられる。咄嗟におさえたがそれでも数ミリは首を刺している。
「もう一度その名前で呼んでみろ、存在ごと抹消してやる。」
「彼は私の味方だ。だから私を殺るのは」
「ふふ、人質かしら?でも残念ね。あの人なら今ここにいるもの。」
シラユリは下腹部を愛おしそうに撫で始める。まるでそこに我が子でもいるかのように。
「そ、そんなわけ。現に今も軍の上層部に···」
「あれ、本当に彼なのかしら?」
そう言うアリスの言葉にマリエスは顔を青くした。
「ホムンクルス···なのか?」
「まさか、そんなことしたらシラユリちゃんに殺されちゃうわ。あれはドール、ただのお人形よ。まあ人形を動かしたのは私じゃないけど。」
「···ははは、私の計画は破綻していたということか。うまくいかないものだな。」
「うふふ、そうね。それよりもシラユリちゃん?いつまで撫でているのかしら?そこにはいないんでしょ?」
「···いるわよ、あの人のものが♥」
より一層シラユリは頬を紅く染める。その顔はまるで一匹のメスのような雰囲気だった、
「あらあら、お熱いわね。」
「そういうあなたはどうなのかしら?」
「うふふ、私もよ♥なにせ何年もの空白があったもの。より愛は深まるばかりだわ♥」
「それで···覚悟は出来たかしら女狐さん?遺言を言うなら今の内よ?」
「···私の完敗だ、好きにしたまえ。」
「そう?案外堕ちるのが早かったわね。でも“今は”殺さないわ。」
「·····なんのつもりだい?」
「ふふふ。」
マリエスは不気味に思った。最早計画は失敗し、その代償にこの二人を敵にまわしてしまった。何故自分を生かすのか目的なのかわからなかった。
「もしかしてガイノス君のことかい?いいよ、話してあげるよ。」
「そうね、それもあるわね。」
「まず初めに彼にはある暗示をかけた。それは強さへの渇望。王国の方針も相まってとてもうまくいってくれたよ。」
「そして呪いの契約。彼に死神の鎌と呼ばれる代物を渡した。そして彼に与えたその時にはもう契約は完了していた。」
「でも彼女、メリーちゃんには振り回されていたよ。呪いの契約を上書きするほどの契約を無意識に行おうとする。おかげで部屋にまでいって阻止していたよ。」
「その甲斐あって彼はどんどんと死神として成長していったよ。“私の後継者として相応しいほどに”。でも別の呪いの進行が早くて少し高い心配立ったけどね。それで初めて気づいた、彼はまた別の呪いを受けていることに。でも、」
「最後に王国との戦争で彼は覚醒、本物の死神へと昇華するはずだった。でもいざ蓋を開ければ誤算ばかりだ。一番の誤算は彼女が完全に力の使い方を覚えてしまったこと。」
「彼は覚醒せず、それどころか契約が解けてしまったよ。」
「それでも呪いは残ってる···そうよね?」
「さあ···私でもそれはわからないな。」
するとマリエスは女王にかけられていた魔法の拘束を解いた。
「彼女は無関係だろ?それに彼女は女王だ、今死なせたらこの国はさらなる混乱に陥る。」
「そう?まあいいわ、私も色々と誤算があったのは事実だし。」
「それでアリス?子供たちは連れ戻すのかしら?」
「あら、そんなことはしないわよ。なんのためにこの女を生かすのよ?あなたもその為に生かすんでしょうか?」
「ええ、そうね。後二年と言ったところかしら?」
「なるほど、私の命はそれで尽きると?面白いじゃないか。」
マリエスは力なく笑ってみせる。そして机の上に置いてあった酒瓶を開け、グラスに注ぐ。
「もう要件は済んだんじゃないかい?ここは私の部屋だ、しばらく女王と二人にしてくれるか?」
「つれないわね、いいわよ。シラユリちゃんとも少し話がしたかったし。」
そして二人は解散し、とりあえずの和解を果たした。
「マリエスちゃん?あの二人を放っておいて大丈夫かしら?」
「いいよ別に。それにこれからは味方だと思うしね。」
半ばヤケクソにマリエスは語った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます