二十六話

翌日、帝国周辺は復興作業に追われていた。国土の半分を焦土にされたのだから掃討時間がかかると推定されている。


この無意味な戦いにより、王国は正式に滅亡することとなった。連邦国は領地化できず、今の所内戦が続いているらしい。その連邦国は今回の件に関しての責任を各国から追求されたが証拠不十分となり罰することはできず、今も侵攻の機会をうかがっていると見られる。


しかし勇者が連邦国の主導の元で召喚されたことは明らかとなり、王国が事実上乗っ取られていた事は確かとなった。王国全土で行われた大規模の洗脳魔法も連邦国の仕業と推測された。だがこれに関しての証拠は見つかっていない。


元魔王領の進撃はおそらく勇者の力を試すためだと思われる。それにより、大罪人とされてしまった“魔王とともに滅びてしまった”。ユーテリアはそれによる被害者だ。それも魔王の側近とされる一族だとか。それにより、連邦国はユーテリアを殺すと言う口実のもとに、帝国を攻撃したのだろう。


僕が狙われたのはおそらく死神の目を持っているから。それも生まれつきの能力となると喉から手が出るぐらいほしいものだという。


だが連邦国にとって誤算が発生した。勇者が死んだのだ。正確に言えば一人は捕虜となっているがこれにより帝国に攻め入ることができなくなってしまった。もっと言えば城は完全に無傷だったのだ。引かざるおえない状況になったのだ。もう一つは王国の陥落。これにより、帝国に攻め入るはずの兵が“全員死んだのだ”。


全面戦争とはならなかったとはいえ、多数の死者がでたのは紛れもない事実だ。二年前に停戦した戦争よりも被害は大きかった。




僕はメリーが眠る病室で頭の中を整理していた。メリーこそ連邦国における最大の誤算相手だろう。きっとメリーはこれから狙われる。


だが今回僕は本当にこのまま強くなっていいのか少し疑問に思い始めた。王国のあの風土も今思えば能力の覚醒を狙ったものと見れば説明がつく。そして今もこの学園に来たから力を求め、ついには覚醒を果たした。


果たして僕は強くなるべきなのだろうか。強くなるということはより連邦国の理想の覚醒に近づくというもの。


最早僕の頭は悲鳴を上げていた。考えることがあまりに多すぎる。ユーテリアの件やベルの件だってある。おそらくベルの件は“これで終わる”と思うがユーテリアは別だ。


メリーの艶のある髪を撫で、額にキスをする。


「···メリー、僕はどうしたら。」


自然と弱音を吐く自分に嫌気が差し、部屋をあとにしようとした瞬間、腕を掴まれた。


「メリー···?」


「ガイは···辛いの?」


「·····そんなことないよ。」


「ウソ、とても苦しそうな顔してる。」


メリーの手の力が強くなる。そして急に抱きしめられた。


「ごめんねガイ、こんなことしかできなくて。でも私だけは味方だから、ガイだけの私だから。」


「メリー、僕は···」


「もう一人で戦わないで、抱え込まないで。」


その後のことはよく覚えていない。でもどこか救われている自分がいた。もう僕はメリー無しでは生きていけないのかもしれない。そんな気がした。




___________________________________________



ガイが私の胸の中でスヤスヤと眠っている。とてつもない幸福感と充実感を覚える。胸元にガイの寝息が当たるたびに“再び下半身が疼く”。もっとガイに貪られたい、ガイだけのものだといわれもっと求められたい。


しかしドアをノックする音がした。またあのゴミだろうか、ガイのためにも殺さないと···


でも入ってきたのは違う人物だった。


「メリー···久しぶりかしら?」


「ま、ママ?どうして···」


そこにいたのは純白のドレスを纏った白髪の女性。紛れもなく私の“ママ”だった。


「まだ私のこと、ママって呼んでくれるんだ。うふふ、ちょっと嬉しいかも。」


「私のこと、連れ戻しにきたの?」


「···しばらくは諦めるわ。だってその子のこと好きなんでしょ?」


「当たり前、ガイは誰にも渡さない。」


「うふふ、そう?···なら大事にね。私は行くわ。」


そのまま行こうとするママの姿に私は思わず声をかけた。


「ま、まだ行かないでよ···」


「っ!···メリーは私のこと、嫌いじゃないの?」


「だってあれは···私はもうわかってるもん。」


「メ、メリー···貴女は本当に自慢の娘だわ、うふふ。」


ママが少し泣いてしまった。何か気に触ることを言ってしまったのだろうか。


「ママ?泣かないで?笑ってよ、私、笑顔のママが大好きだもん。」


「···気にしないでメリー、すぐに笑顔になるわ。それよりも少し口調が子供っぽくなってるわよ。」


「·····気にしないで。」


「うふふ♪ほら、私が甘やかしてあげるわ♪」

 

「い、いらない。今ガイを甘やかしてる。」


「そう?うふふ。」


その後、私達は長い間話していた。


多分だけどガイは起きてた気がする。あとでお仕置きしなきゃ···



「それじゃ、私が行くところがあるからそろそろ行くわね。」


「?そうなの···行ってらっしゃい。」


「そんな不安そうな顔しないで、しばらくは近くにいるから。」


そう言って部屋をあとにするママの毛先が”少し黒くなっていた”。









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