二十五話
(メリー視点)
高エネルギー反応を感知したその時、辺り一面は熱を帯びた光によって覆い尽くされた。私は魔法でこの城に障壁を張って防いだが、違和感に気づいた。
ガイがいない。
ここから南西方向にある村にガイの気配を感じる。きっとそこに飛ばされたに違いない。
「メリーちゃん。」
ガイのお母さんに呼び止められる。私は一つ聞きたいことがあった。
「ガイのお母さん、アリスさんは子を嫌いにはなれない?」
「···質問の真意はわからないけど親なら当然のことよ。嫌いになんかなれないわ。」
「···そう。」
「それと行くんでしょ?ガイノスの元に。···不甲斐ない私だけど、あの子をお願いできるかしら?きっと今のあの子は私よりも貴女を求めているもの。」
「それはガイを貰ってもいいってこと?」
「ふふっ、まあそうなるわね。」
「なら問題ない、私ガイを誰よりも愛しているもの。」
私はその場をあとにした。ガイが待っている。
外はまるで地獄そのもの、一面が火の海。村のあたりを空中から探しているが見つからない。でもガイの気配はここしかない。
すると大きな爆発音が聞こえた。なにか嫌な予感がする。
私が見た光景は信じられないものだった。ガイが···たくさんの血を流して倒れている。
傷口から魔力の因子を感じる、きっと魔法の剣で···
「おや、そこで何をしているです?」
私は回復魔法を使う。まだ、まだ間に合う。傷が首を貫通しているがまだ生きている。ガイは決して死なせない。
「質問に答えてもらえますかね?」
ガイ、お願いだから目を覚まして。
「まあいいです、とりあえず死んでもらいますから、ねっ!」
ごちゃごちゃうるさいゴミが私に剣を向けて突撃してくる。このままどっかに行けばまだ楽に殺してあげたのに。
私は的確にゴミの心臓を槍で貫いた。
「ぐっ!な、なぜ···」
「今私とガイの時間を邪魔しないで。」
しかしゴミは死なない。槍を引き抜くと魔法で再生し始めた。この魔力、ガイに残っていた魔力因子にそっくり。
そっか···こいつが私のガイをこんなことを。
「まあでも私は殺せませんよ。」
「なら、細切れにするまで。」
わたしは武器をいくつが創造し魔法で操る。ガイ、待っててね、すぐにコロスから。
「威勢がいい小娘ですね。でも私だけに囚われているとはまだまだ二流ですね。」
すぐ近くに気配を感じる。しかもガイの居た場所に。
「はははっ、おい嬢ちゃん、こいつがどうなってもいいのかなぁー?」
「メ、メリー···」
このゴミ、私のガイを踏んでいる。しかも頭を、何度も何度も踏みつけて···
「そういうことです、この人を助けたければすぐにその武器たちを下ろしてください。」
私は指示に従う。
「けけ、いい子だね。しかも中々にいい体してんじゃねえかよ!なあお前、俺の物になりな、そうすればこいつは殺さないでおいてやるよ!」
「全く、あなたって人は···」
「ほらほら、早くこたえな、よっ!」
「ぐはっ!」
ガイに、剣を突き刺している。そして足でガイを痛めつけ、楽しんでいる。
だけど私は冷静でいられた。だってこいつらの死は確定している。
ドッチからコロシテやろうか。黒、それとも茶色?ただではゼッタイにシナセナイ。だって私のガイニあんなことをしたんだモノ、どれほどの苦痛をあじあわせてヤロウカ。
目ン玉くり抜いて、ツメヲヒトツヒトツはぎ落として、指をイッポンずつキリオトシ、極めつけはイキタママアタマノナカをグチャグチャにカキマワシてやる。
マッテテネガイ、すぐに終わらせてアゲルカラ。
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メリーの様子が変だ。一言も言葉をはっしない。それに周囲の魔力量が薄くなっているような···
いや違う、魔力がどんどんメリーの所へ集まってきている。彼らも異変に気づいたのかすぐさま攻撃をするが、メリーは上空へ、奴らも追撃するが魔力の壁に阻まれてしまう。
「ガイノス君、早くこっちへ!」
「っ!ユーテリアお前!」
物陰に隠れていたユーテリアに導かれ、僕たちは合流した。
「にしてもお前、助かったのか?」
「あれは俺の姿をした身代わりだ。なんとか茶髪の兄ちゃんは騙せたが。悪かったな助けるのが遅くなって···」
「謝るなよ。今はこの状況で生きてることを喜ぼうぜ。」
「ああ。でもメリーさんのあれは一体?」
魔力がどんどんメリーの元へ集まり吸収されていく。最早僕の眼では何が起こっているのかすらわからない状態だ。
魔力が全て吸収された後、メリーはまるで別人のようだった。
純黒のドレスを身に纏い、僕のあげた黒薔薇の髪飾りをつけている。
そして何より、この場を魅力するのに相応しい華やかさと麗しさ。
――その姿はまるで漆黒の姫――
その瞬間、結末は訪れた。
奴らの首が宙を舞ったのだ。あまりに突然の出来事、“時でも止まった”のではないかと錯覚するほどであった。
メリーは無表情のまま空中で佇んでいる。
「お、おいガイノス君っ!今すぐメリーさんを止めて!」
「え、」
「いいから早く!」
ユーテリアに急かさるがままに僕はメリーの元へ走る。
メリーの後ろ姿はまるであの頃のようだった。
「メ、メリー?僕だ、わかるか?」
「···」
メリーは地上に降りる。その手には黒い魔力に包まれた槍を持っている。
「メリーっ!もうやめるんだ!」
僕は無我夢中でメリーの背中に抱きつく。メリーが遠くへ行ってしまう、そんな気がしたから。
「ガ、ガイ?」
「もういいんだメリー、もう終わったんだ。」
メリーの力が弱まっていくのを感じる。メリーは僕の方へ振り向き、笑顔を見せた後意識を無くした。
「どうやら終わったみたいだね。」
「ああ···あ?」
ユーテリアが生首を持っている。黒髪の男のようだが一体何を···
「き、貴様、離しなさい!」
「···!まだ生きているのか?」
「ま、後はこっちに任せてくれ。メリーさんことは任せたから。」
「わ、わかったよ。」
僕は気を失ったメリーを抱えながら歩き出した。
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(ユーテリア視点)
俺は目を疑った。奴らから血が一切出ていないのだ。
確かに奴らの首は切られ宙を舞い、そして一人を死に至らしめた。
しかしどちらも血を出ていない。一体どんなことを?
傷口を見た瞬間、俺は理解した。”止まっている“。比喩でも何でもない、止まっているのだ。
そして傷口から見てこれは刃物で切り落とされたようなものではないことにも気づく。まるで何かにえぐられたような感じだ。
メリー、漆黒の姫。これではまるで“本物の漆黒の姫”ではないか。
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