二十四話
王国が陥落した、それは変だ。だって帝国軍は今だ出撃していない。じゃあ誰が···
「はっきりいえばいいじゃないですか。一人で王国を陥落させったって、アリスさん。」
「一人で···母さん、本当、なのか?」
「···幻滅した?こんな人が母さんなんて?」
「い、いやそれどころの話では···」
たかが一人の人間が国を滅ぼす。そんなの物語だけの話だと思っていたが、母さんはそれに近いことをやってのけたのか?話についていけない。
「ま、まあ母さんのことはあとにして、じゃあなんでユーテリアはあんな思わせぶりな発言を···」
「今度は別の国が俺とガイノス君を狙っているからだよ。」
「別の国?一体何処が?」
「国の名はアッシロ連邦国、そして王国を裏から操っていたとも言われている。」
確かその国は二十年前に周囲の国を武力で降伏させ吸収、合併を繰り返し力をつけていった国だ。この大陸だけなら帝国以上なんじゃないかとも言われている。
「それと多分俺たちはどう頑張っても最前線行きだよ。そっちのほうが帝国兵を守れるからね。」
「···ああ、そうだろうな。」
この会話の後王国は正式に滅亡、しかし領地は既に連邦国が占領していたそうだ。まるで誰かが王国を滅ぼすのがわかっていたかのような速さだった。
「すぐ近くに高エネルギー反応がある。」
「メ、メリー?何を言って···」
メリーがそれを呟いたとき、僕は一面火の海の化した草原に立っていた。兵士の伝達からわずか30秒足らずの出来事だった。
崩壊した民家が目立つ。帝国領にある村なのだろう、きっとさっきの高エネルギー反応はおそらく超大規模の魔法。それも帝国全土を焼き尽くせるほどの。
首都は無事なのだろうか、そんな心配は既に“自分たち”の心配へと変わった。ユーテリアもいる。倒れているユーテリアを発見した。僕達は狙われている。しかも都合よく僕達だけがここにいる。魔法なのだろうか、僕達だけを都合よくここに転移されられる魔法が存在するのだろうか。
「おいおいこんな奴らさっきので殺しても良かったんじゃないか?」
「そんなこと言うなよ、任務は生け捕りなんだからさ。」
人だ、二人いる。気配を全く感じなかった。眼を使って···
「っ!」
激しい目の痛み。ユーテリアと同じだ。しかも二人も、明らかに格上だ。
「おっ、君だけかい?目が覚めているのは。」
黒髪の男が一人。
「悪いことは言わねぇ、大人しく言うことを聞いてもらおうか。」
茶髪の男が一人。二人だけでこんなことをやったのなら明らかに規格外だ。
「僕をどうする気だ?」
「へっ!そんなの知らなくても大丈夫だよ。ただ俺たちなお前たちを捕まえに来ただけ。そのついでに帝国を滅ぼしただけだ。」
「まあそういうことです、大人しくしてくださいね死神さん?あまり抵抗されると私達、加減が出来ませんので。」
「ただ捕まえるだけなら僕達を国に転移させればいいだろ。なんでこんなことを。」
「···流石に距離が離れすぎると転移させられないからな。まあ帝国を滅ぼすことが出来たんだ。これはこれでありだったよ。」
こいつらはおかしい。早くこの場から立ち去らなければ。足を一歩後ろに下げる。
「おいおい逃げるんじゃねぇぞっ!」
「っ!」
剣がすぐそこにせまっている。いつそこに、いやそんなことより反応できな···
カキンッ!
剣が弾かれた、その先にはユーテリアがいた。
「ユーテリアお前!」
「大丈夫かいガイノス君!なんとか間に合ったよ。」
「へぇ、そのまま寝てればいいのによ。そのほうが幸せだぜ?」
「何、大丈夫だ。お前一人ぐらいなら殺れるからな。」
「けっ、言ってくれるじゃないか。だが俺たちは慎重派なんでね。」
突然ユーテリアの背後にあの黒髪の男が現れた。あまりに突然の出来事で反応が出来ない。奴は剣を持っているこのままだとユーテリアが。
「不意打ちとはまた卑怯なことをするんだね。」
「っ!」
ユーテリアはそれを防いだ。その後ラッシュが続いた。あまりに早く目で追うことが出来ない。加勢に入ることも出来ないのか。だがやるしかないっ!
「ユーテリアだっけ?やるねぇ、ゾクゾクするよ!」
「ええ、ここまで私達の攻撃を防げるとは只者ではありませんね。」
「それは光栄だね、なんせ“勇者殿”に褒めて頂けるんだからな」
「ほう、気づいてたのか。」
「あんな芸当できるのなんて勇者ぐらいだからな。誰だって気づくさ。」
「なら本気を出さないとな、こいつは殺しても問題ないだろ?」
「そうですね、“後ろで様子を伺っている彼”は私に任せてください。」
「っ!」
バレていたのか、もしくは最初からこのことがわかっていたのか。なんにせよマズい、すぐにこの場から···
「ガイノス·バーン、何処に行くのです?」
「っ!」
急に目の前に!さっきと同じだ。
「どうやら君の眼では私達の動きは見えていないようですね。ならわかるでしょう?大人しく降伏してください。」
「嫌だと言ったら?」
僕は鎌を構える。
「殺して連れ去るだけです。」
「ぐっ!」
剣が腹部に食い込んで突き刺さっている。いやこれは魔法の剣か、実体がない。
「生け捕りにするじゃなかったのか?」
「気が変わりました。ご心配なく、私は蘇生魔法を使えますので。」
「へぇ、それはまた。」
僕は考える、どうすれば勝てるのか。いや、勝てなくてもダメージを与えることが出来れば後はユーテリアがきっと。
「ユーテリアさんならもう死んでいると思いますよ?」
「そ、そんなわけ。」
突如後方に大きな爆風とともに爆発音が聞こえた。すると足元にユーテリアの姿があった。
体中槍が突き刺さったままのユーテリアが。
「お、おいユーテリアっ!」
「どうやら終わったようですね。ならこちらも終わりにしましょう。」
やつがこっちに向かって来るのが分かる。でも何も見えない。いや、あれだけは見えた。
3
2
1
ザシュっ!
僕の鎌は奴の右腕を切り落とした。5年ぶりに見えた死期は今だ衰えていないようだ。それに人間に見えたのも初めてだった。
この好機を逃すまいと追撃するが避けられてしまう。
「へぇ、それが死神の力ですか。素晴らしい力ですね。」
「そいつはどうも。」
だが僕は驚くべき光景を目にする。奴の腕が···
「おや、再生能力を見るのは初めてですか?でも残念ですね、ここで終わってしまうなんて。」
ざくっ
無数の剣が僕に突き刺さる。僕は仰向けの状態で倒れ込んだ。
「それでは、またお会いしましょうね?」
首元に、剣を突き刺され意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます