二十三話

朝、目を覚ますとメリーに馬乗りにされていた。


「あ、ガイ?目を覚ました?」


「あ、ああ。それよりもどいてくれないか?」


「・・・ヤダ」


メリーの目にはハートが見えた気がした。なんと言うかメリーの愛情に歯止めがきかなくなっている。


「今回の件が片付いたら好きなだけ相手してあげるからさ?」


「本当に?」


「約束する。」


「・・・でも、ここにガイの愛情をいーぱい、注いで♥️」


下腹部を撫でながら言うメリーに僕は誘惑に負けてしまうのだった。






「うふふ♪ガイをたくさん感じる♥️」


「そ、そうか・・・」


朝から既に満身創痍だが、嬉しそうなメリーを見ていると何故か別にいいかと思ってしまう。


「じゃあガイ、早く終わらせよう?こんなつまらない戦争なんて?」


「簡単に言うなよ・・・まあ、簡単に終わってくれれば嬉しいけどな。」



ユーテリアの件や女王陛下の件、そして妹ヴェルディの件とオメガさんの件。さらには学園長、ベルの動きもあり、僕自身どう動けばいいかわからない。


するとドアが叩かれる。外を覗くと兵士が立っていた。


『ガイノス・バーン殿っ!女王陛下より集合がかかっています』


「わかった、すぐに向かう。メリー、行くぞ?」


「うん、ガイと一緒ならどこへでも♥️」


「・・・はは。」




────────────────────────



兵士に案内されたのは城内にある会議室だった。中に入るとどこか緊迫した様子だった。


「おお、ガイノス君。さっそくで悪いが作戦会議に参加してもらっていいかな?」


「ええ、構いませんよ。女王陛下。」


すると女王陛下はテーブルに、おかれた地図を指差した。


「私たち帝国から見て東側に王国がある。だがその間に森があるのは知っているだろう?そこに大規模な基地が作られているそうなんだ。」


「それで、僕たちに何をさせたいんですか?」


「・・・軍の先頭に立って先導してほしい。」


「ねぇっ!それってガイがどうなってもいいってことっ!」


「メリー、落ち着け。」


「ふざけないでよっ!どうしてその役目はガイなのよっ!」


「・・・いいんだメリー。引き受けますよその役目。」


「ふむ、了解した。それでは日が落ち次第出発する。準備をしておいてくれ。」


そう言うと女王陛下は部屋を後にした。僕を先頭にする理由。そんなのはわかっているがいざ言われると胸が痛くなる。


「ガ、ガイ?どうしてあんなの引き受けたの?私から離れていくのは駄目だよ?」


弱々しい声で言うメリーに、心が痛む。でも言わなくてはならない。


「メリー、よく聞いてくれ。メリーは後ろの方で戦うんだ。最前線にはこないでくれ。」


「どうして、どうしてなの?」


「大丈夫だよ。絶対に死なないからさ。」


「そんなのは駄目に、」


「なにカッコつけてんだガイノス君?」


そこにいたのはユーテリアだった。部屋に籠っていると聞いていたが。


「俺もいくんだからあまり変なフラグたてないでくれ。」


「俺もってお前・・・」


「後、メリーさんにそんなこと言っても無駄だと思うけどね。な、メリーさん?」


ユーテリアがそう言うと小さくメリーは頷いた。


「まあ、この戦争何か変だから死なないとは思うけどな。」


「変ってなんだ?」


「考えてもみろ、俺らが王国の兵士に襲われたことが引き金になっている。そんなことで戦争が起こるなんて今頃どこに行っても戦争が起きてるよ。」


「あ、ああ。確かに」


「何か裏がありそうだよな。もしくは俺の勘違いで王国側の連中が短気なだけかもしれないしな。」


割と的を得ているかもしれない。戦争は利益を生むことはほとんどない。


「それにな・・・ガイノス君に会いたいって人がいるんだ。」


ドアが開き、中に誰かが入ってくる。その人物に俺は目を疑った。


「・・・か、母さん。」


「あの人がガイの・・・」


「アリス・バーンです。初めまして、メリーちゃん。」


間違いない、僕の母さんだ。だがあのときとはどこか雰囲気が・・・違う。


「なあユーテリア、どういうことだ?」


「王国ではここ十年間で子供の失踪が増えていた。だがその親は一切の興味も示さなかったらしい。」


「それってどういう・・・」


「その子供の特徴は長男、長女に限定されていた。理由はある力を手に入れるためだ。」


「手に入れるためって···」


「そして失踪した子の親御さんは魔法をかけられた痕跡が残っている。加えてある旅人が王国全土にかかる魔法陣を見たという目撃証言もある。後はもうわかるな?」


「洗脳魔法か、それもかなり高範囲かつ持続時間が長い。最高位の魔法使いじゃなきゃまず無理だな。」


「そう、そして王国はその子供たちを拉致、監禁し能力を吟味。お目当ての能力がなければその子供は実験の道具にされていたそうだ。」


「だからその能力って何なんだよ?」


「神の瞳とは違うもう一つの瞳、いや正確には眼がある。」


「もう一つ···」


「能力は完全に神の瞳と酷似しているがいくつが違う点がある。一つは魔力を肉体に宿すことが出来ない。そして一つの武器しか扱うことが出来ない。」


「それって···」


「最後に生命の”死期“を見ることができる。ただしそれらは潜在的なものらしく見分けるのは困難らしい。そして長男、長女だけに発現する能力だそうだ。」


「···」


「名は死神の眼。それを探す為にあんなことをしたそうだ。まあ、つまりはそういうことだよ。」


「お前も、ユーテリアもそうなのか?」


「俺はただの大罪人として公開処刑されるだけさ。」


王国は僕を血なまこになって探している。そして帝国にまで戦争を仕掛け僕を捕えようとする執念に恐怖を覚えた。


「ガイノス?」


「か、母さん···」


「···私はあなたに許されるなんて思ってないわ。でも謝らせてくれないかしら?ただそれだけを言いたくて···本当にごめんなさい。」


両親は洗脳状態だった。それは理解できるが俺はどうしても赦すことが出来ない。ただ行き場のない怒りが漂うだけだった。


「ガイ君っ!」


突如聞こえるその声に僕は声の元に目を向けた。


ヴェルディの姿がそこにはあった。


「全く、まだ安静にしてろって言われてんのに。」


「ベル!なんでお前まで···」


「そりゃこっちにも事情ってもんがあるし?」


「ガイ君っ!」


ヴェルディは僕に抱きつき始めた。倒れたときは心配したが、今はとても元気そうだ。


「あっ、母さん!見てみて、私今すっごく元気だよ!」


「···ええそうね。」


「···ヴェルは母さんのことを恨んでないのか?」


「だって悪いのは王国。そして今までの母さんは偽物だった。それじゃだめかな?それに家族だもん、嫌いになんてなれないよ。」


ヴェルディの言葉に僕は言葉を失った。そして仲睦まじく接している母さんとヴェルディを見て昔を思い出した。楽しかったあの時を。ヴェルディには頭があがらないな。


「嫌いになんてなれない···」


「メリー?」


「ううん、なんでもない。それよりもまだあるよね、言うこと?」


「ええ、だからユーテリア君と一緒に来たの。これを伝えるために。」



“王国はたった今陥落したって···”


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