二十一話

メリーと寮へ帰る途中、僕はユーテリアについて考えていた。仮に旧魔王領の人間だとして彼を狙う理由がわからなかった。


他にも疑問に思うことはあった。だが数日すれば分かると言う言葉を信じ、そこで考えることをやめることにした。


「ねえガイ?あそこの寮、何か騒がしくない?」


その方向に目を向けると、多くの馬車が止まっていた。確かあそこは中等部の寮だったはずだ。


「レックスとヴェルが心配だな。」


「あの馬車、王国のものじゃない?」


「・・・確かにあの紋章は王国のものだな。」


僕たちは急いでその寮へ向かった。





寮の前まで来ると誰かが言い争っている様子があった。一人は王国の兵士だと思うが後一人は・・・


「あ、兄さんっ!」


「やっぱりレックスか!」


「な、なんだ君たちは!関係者以外ここに立ち入らないでくれたまえ!」


どうやら帝国と戦争になることを見越して王国出身の生徒を帰らそうとしているらしい。


”戦争に年齢なんて関係ない“


ベルの時も思ったが本当にそうらしい。


「関係者以外って僕とメリーはここの生徒だ。それにここの生徒を無理やり連れ去るのはこの国だと誘拐になるぞ。」


「無理やりじゃない、”協力をしてもらおうとしているだけだ“。それとあまり俺たち兵士を侮らない方がいい。」


気がつくと多くの兵士に囲まれていた。帝国の領地の中でここまでやる理由がわからない。普通なら躊躇うはずだ。


「に、兄さん。ごめん、こんなことに巻き込んじゃって・・・」


「謝るな、僕がレックスを助けたいからしてるだけだ。」


「ガイ、私をやる。義弟君を助けるのも妻の役目。」


「お、おう?」


僕たちも武器を構えようとした瞬間、突然魔法が撃たれたのか、兵士たちは凍りついてしまった。


「一体どこからっ?」


「・・・・ガイ君、大丈夫?」


振り向くとヴェルが立っていた。おそらく彼女の魔法なのだろう。改めて兵士を見ると完全に凍りついていた。凍っていると言うよりは完全な時が止まっているような感じだ。


「ヴェル、ありがとうな。」


「・・・皆が無事ならいいの。ふふっ……」


「ヴェ、ヴェルっ!」


突然、ヴェルは倒れてしまった。










僕たちはヴェルの友人である”ラクシア“さんの部屋で看病をしている。


「ヴェルディちゃん、最近すごく具合が悪くて。多分疲れが出てきたんだと思います。」


「・・・そうか。」


ヴェルの体内から魔力が極端に減っていた。僕の目でもハッキリと分かる位に。さっきの魔法がいかに強力とはいえここまで少ないのは異常だ。


「そういえばヴェルディ、”独り言でもう時間がない”とか言ってたな。」


「・・・僕たちのまえに現れなかったのはそのせいなのか。」


おそらくこれだけではないとは思うがとりあえずヴェルの方が大切だ。どんな理由であれ何かあるのは確かだと思うが。


「それとヴェルディちゃん学園の方にも来てなかったんですよね。」


「む、そうなのか。」


何か病気にでもなったのだろうか。とりあえず今は安静にさせるべきだろう。


「僕たちは寮に戻るよ。話があったんだがヴェルがこんな状況だとあれだからな。」


「わかったよ兄さん、目が覚めたら連絡する。」






────────────────────────


「ヴェルディちゃん大丈夫かな?」


「大丈夫だよ、今はおとなしくしよう。」


兄さんたちと別れた後、俺たちはまだ看病をしていた。


もともとヴェルディは体が弱かった。多分この学園に来てからだいぶ無理をしたのだと思う。


「私、情けないですね。ヴェルディちゃんがこんなことになるまで気づけないなんて。一番そばにいたのは私なのに・・・」


「ラクシアさん・・・」


俺は卑屈になっているラクシアさんを抱きしめた。


「レックス・・・さん?」


「大丈夫、ラクシアさんのせいではないよ。俺にだって気づけなかったんだ。だから自分を責めないで。」


「ううっ、レックスさんっ!!」


そのままラクシアさんは泣いてしまった。きっと彼女も色々と溜め込んでいたのだろう。俺はより強く彼女を抱きしめた。


“俺も昔、母さんからしてもらったように”






「落ち着いたかな?」


「は、はい・・・・・すみません、こんな姿を見せてしまって。」


「いいよ別に。俺で良ければどんどん甘えてくれ!」


胸を張って言うとラクシアさんはこの場に来て初めて笑って見せた。


「それじゃ・・・お願いしますね?ふふふ♥️」


「お、おう?」


すると、突然ドアが叩かれた。扉を開くとそこには二人と男女が立っていた。



「ヴェルディ・バーンの部屋で間違いないですか?」


「え、ええ。あなたたちは?」


「私はベーラル・ノック。隣の者は私の妹で」


「ハーシィ・ノックです。」


見た感じ高等部の生徒だろうか?しかしヴェルディになんの用があるんだろうか。


「それで、なんの用で?」


「軍部の命令により、これからヴェルディ・バーンの警護に当たります。」


「ぐ、軍部の者が何故ヴェルディのことを!」


「・・・守秘義務ですのでお答えできません。」


「ふざけるな!軍になんか頼らないぞ!」


「もう決定事項なので。」


「っ!」


俺はついカッとなり男の方に殴りかかってしまった。

しかし、目にもとまらぬ速さで首先に剣を突き付けられた。


「に、兄さんっ!」


「っ!すまない。だがこれは決定事項なんだ。勿論危害は加えない。後ろにいるお嬢さんもいいですね?」


「ふぇっ!・・・そ、そのレックスさんは?」


「・・・いつでもヴェルディの看病を、それが条件だ。」


「うむ、了解した。ではこちらの契約書にサインを。」





俺はペンを握りながら、何も出来ない自分を責め続けた。


















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