五話

僕は最近、夜中に寮の近くの森でひたすら鎌を振っていた。教えてくれる人も本も無く、ただひたすらに頑張っていた。勿論メリーには内緒にしているが。


模擬戦までもう一ヶ月をきっていた。僕にも焦りがある。なんというかこう、どう扱ってよいか今だにわからない状況だった。


そんなある日、いつも通り鎌を振っているといきなり人の気配がした。殺気ではないがすぐ近くにいることにだけは分かった。すると一瞬にして目の前にある男性が現れた。黒いマントを纏った不思議な男性だった。顔は暗くてよく見えなかったけど若そうな印象を受けた。


月明かりで顔を見たとき、彼の顔には大きな傷があった。片方の目を巻き込んだ大きな傷が。


「お前、名前は?」


「へ?」


意外な発言に変な声が出てしまった。てっきり襲われるのかと思っていた。


「名前は?」


「え~と・・・ガイノスです。」


「そうか。君は鎌を扱いたいのか?」


「え?」


今考えると学園長、マリエスさんに勧められてやっていた。


「俺から見ると確かにガイノスには才能はある。だが鎌というのは本来“命を刈るものだ”。」


「命を・・・刈るもの。」


確かにそうかもしれないと納得した。鎌というのは死神が持っている印象が強い。なら必然的にそれは命を刈り取るものになる。僕にはそれが抜けていたのかもしれない。


「君は理解が早いな。きっといい大人になるよ。」


「貴方は一体?」


「・・・・・・オメガと今は呼んでくれ。」


オメガと名乗る男に僕は疑問にもっていた。何故こんなことを教えてくれたのかと。本当に何者なんだ?


「じゃあオメガさん?どうしてこんなところに?」


「君に会いに来た・・・て言ったら信じるかな?」


「もしかして学園長の知り合いですか?」


「正解。あの人は俺の恩師でね、ちょっと性格はあれだけどいい人だよ。」


学園長からということは僕が夜中にここで鍛練していたことを知っていたのか。なんとも恐ろしい人だ。


「それで、なんと言われたんですか?」


「ああ、君には対人戦について教えよう。」


「鎌の使い方ではなくて?」


「大丈夫、君はもう“鎌は使えるはずだ”。」


何を根拠にそんなことを言っているのか理解が出来なかった。もう使えるはず?自分では強くなったと感じていないが。


「君が疑問に思うのも無理はない。だが圧倒的才能とはそういうものだ。しかし君には経験が足りない。そこを補うのが俺の役目だ。」


「そう・・・何ですか。なら僕に戦い方を教えてください。」


「当たり前だ。そのためにここに来たんだ。」


(久しぶりに“あいつ”にも会えたしな。)


そうして僕はオメガさんの指導のもと、鍛練することになった。あまりに都合の良すぎるタイミングで現れたオメガさんに疑問を持たぬまま。


─────────────────────────────



弟が帰ってくる前日の夜、早めに訓練を切り上げ、寮に戻った。メリーに気づかれるとめんどうなのでこっそりと部屋に戻ろうとしていた。


部屋に戻るとメリーはぐっすりと眠っていた。とりあえずひと安心した。そして僕が色々と支度をしているとき、不意に抱き締められた。


「ねえガイ?今まで何してたの?」


「っ!メリー!?」


耳元で囁かれ、慌てて振り返るとそこにはメリーがいた。その顔は笑っておらず、無表情でありものすごい恐怖を感じた。


「私、気づいてたの。夜中にガイがどこかに行ってたこと。」


「え・・・」


「なんでどこかへ行くの?」


メリーの目元は笑っていなかった。その黒い瞳に感じたことのない恐怖を感じた。


「メリー、少しずつ落ち着いて・・・」


「話してガイ?どうしてこんなことしたのか。」



とりあえず僕は事情を話した。話している途中、メリーの表情は一切変わらず、ただその黒い瞳で見つめられていた。


「分かったか?だから落ち着いてメリー。」


「うん、ごめん。てっきり他の女に会いに行ってたと思って。」


どうやら分かってくれたようだ。でも何故か強い力で抱き締められ、僕の胸に顔を埋めていた。


「でも、私に黙ってもうこういうことしないで。私から離れないで。」


「ちょっとメリー、強く抱き締めすぎ・・・」


「ガイは私のこと好き?」


「え?」


唐突にそんなことを聞かれ変な声を出してしまった。


「好きって言ってくれないと私、何するかわからない。」


その時点でメリーの瞳に光はなかった。何がメリーをここまで病ませてしまったのだろうか。それでもメリーに寂しい想いをさせてしまったのは紛れもない事実だ。そこには僕に非があるのかもしれない。そう思うと自然とメリーの頭を撫でていた。


「ごめんなメリー。好き、大好きだよ。」


「私も・・・・・大好き♥️」


メリーは滅多に見せない笑みを浮かべていた。この笑顔を見るだけでどんなことでも頑張れる、そんな気持ちになる。


「でもガイ、強くなりたいなら私も協力する。私にも手伝わせて?」


「ありがとうなメリー。でも気持ちだけ受け取っておくよ。」


「むぅ~、ガイがいうなら・・・でも辛かったら言ってね。私はいつでもガイの味方だから。」


メリーの僕には対する気持ちがとても嬉しくて再び抱き締めた。きっと生涯を共に歩んで行ける人はメリーだけだ。なんて考えていると僕は依存しすぎなのかなと思った。でもやっぱりメリーはどこか重い気がする。








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