四話
「ガーイ?・・・うふふ♪」
「さっきから頬っぺたをつつかないでくれ。」
学園の授業が終わるといつもメリーは僕にちょっかいを出してくる。嫌ではないが周りの目も考えてほしいものだ。
「お前ら本当に仲が良いんだな。こんなところまでイチャイチャして。」
「余計なお世話だよベーラル。」
「次の時間は外で実習だぞ、早く着替えろ。」
「へいへい。」
実習というとまだ夏ではないがそれなりに暑いため結構キツイものがある。
「メリーちゃん早く行こって、兄さんたち何やってる?授業遅れるよ。」
「わかってるよハーシィ。ほら行くぞガイ君。」
ベーラルに急かされ急いで実習場へ向かった。まあ実習といっても主に体作りがメインだが。はっきり言って凄くキツイ。
「ほーらお前ら!!腹筋1000回だぞっ!!早く始めろ!!」
実習担当の先生は毎回こうだ。スパルタにも程がある。
「なあガイ君?何で君はそんな余裕で腹筋をやれるんだい?いくらなんでも早すぎると思うんだが。」
「まあ元冒険者だったからね。体力は自然につくんだよ。」
とはいえこれは準備運動でありここから本格的な実習が始まると僕も体力がもたないが。
実習が終わり、僕はベーラルと共に疲れ果てていた。
「おいガイ君?生きてるかい?」
「ああ、まだ背中が痛むけどね・・・」
まさか先生に背負い投げされるとは思わなかった。対人戦闘が苦手な僕にとってはなかなかに辛いものがある。
「そういえばガイ君学園長に呼ばれてなかったかい?」
「あ!?そういえば・・・」
実習中に学園長から呼ばれていたことに今気づいた。正直疲れていて動きたくないが学園長のいる部屋に向かった。
「やあガイノス君。昨日は取り乱してしまって申し訳ないね。」
「いえいえ、別にいいんですよ。」
部屋に着いてすぐに昨日のことについて謝られた。本人によるといちゃつく人達を見ると毎回こうらしい。何でクビにならないのか疑問に思ってしまった。
「まあ謝罪はこれくらいにして、本題に移ろう。ガイノス君、君には来月に行われる模擬戦において上位三名に入賞してもらう。」
「上位三名、ですか?」
この学園の模擬戦は中等部と高等部に別れ行われる大会だ。学年の区別はなく、毎回予想が出来ない大会とあって観客も多く、それに今年の三年は帝国にいなかった僕でも知ってるぐらい強いという噂を聞いたことがある。
「ああ、君ならできるはずだ。」
「どうして僕にそんなことを?」
「“今”はまだ知らなくていいよ。いずれ君も理由がわかるはずだ。」
「でも上位三名に入るのは大変だと思うんですけど・・・」
魔法が使えない僕にとってはなかなかに厳しい戦闘になると予想される。しかし、学園長はにっこりとした笑顔で僕にこう言った。
──君の能力なら大丈夫だ───
と。何を根拠にそう言っているのかはわからないが、この人が嘘を言っているとも思えない。
「ちなみに上位三名に入賞したら私から褒美をやろう。」
「褒美・・・ですか?一体何を?」
「それは内緒だ。まあでも君にとっては悪くない話だと思うけどなぁ。」
「一体何が目的です?」
あまりに僕にとっては都合が良すぎる。何か裏があると嫌でも疑ってしまった。
「別に、何もないよ。それで?君は出るのかい?」
「・・・・・・ええ、出ますよ。僕は“強く”なりたいので。」
強くなる為に必要なのは実戦だと考えている僕にとっては結構いい経験なると思う。冒険者の頃は魔物しか相手にしてこなかったが今度は対人戦だ。それだけでも自分の成長に繋がると思っている。それに一番相手に苦労するのは“人間”だ。
「それってあのメリーちゃん・・・いや、“漆黒の姫”と呼んだ方がいいかな?その子の為に強くなりたいと?」
「ええそうですよ。あとメリーでいいですよ。漆黒の姫なんて堅苦しい名前で呼ばなくても。」
「おやそうかい。それと君は気づいているようだね。何故漆黒の姫と呼ばれているのか。」
「その話はやめにしましょう。これを知ってる人物は少ないんですから。」
思わず止めに入る。あまりその話題には触れたくないというのが僕の本心だった。“メリーは普通の女の子なんだから“。
「うむ、それもそうだな。なら私から一つ、忠告しよう。“王族”には気を付けるんだな。」
「王族、ですか?」
「何でも女王陛下の側近が最近動きがあるみたいでな。それに王国の姫様も何か行動を起こすのではないかと囁かれている。」
「それ、信憑性あります?」
「まあ五分五分だろうな。でも警戒しておけ。私からも何かあったら連絡する。」
王族が動き出す。僕からすると三年前に停戦中の戦争がまた再開されるようにしか思えないが。でも女王陛下と王国の姫様。どちらも軍の指揮をした天才だ。その二人が動くということは何かあるのかもしれない。もしかしてメリーと何か関係が?
僕はもう後戻りできないところまで来たのかもしれない。
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