第7話 勧誘
「本当にありがとうございました! このご恩は生涯忘れません……!」
「どういたしまして!――とりあえず危険も去ったし、そろそろ質問タイムに入ってもいいかな?」
「もちろんです! ――あっ、ですがその前に我々が何者かを説明させてください。その方が後々の話をしやすいと思いますので」
そう言って一歩前に進み出たのは、一行のリーダーと思しき精悍な顔つきをした男だった。――その両目はルビーのような美しい紅色をしている。
男はお辞儀をするように軽く頭を下げ、それからゆっくりと口を開いた。
「我々はこの〈ラトラの森〉の調査に来た探検隊です。広大な森の生態調査と……“森の魔女”の存在を確認すべく、〈カミラ王国〉より派遣されて参りました」
「ふーん、その“森の魔女”っていうのは何なの? さっきから私の事をそう呼んでるみたいだけど……」
「数か月前、我々と同じくこの森の調査に来た探検隊から、ラトラの森で怪しい女の人影を目撃したと報告があったのです……! 池の水を自在に操り、風を巻き起こすその様はまるで童話に出てくる恐ろしい魔女のようだったと――」
「あ~、多分それは魔法の練習をしてる時の私ね。人に化けた魔物でもないし、人に危害を加える悪い魔女でもないから安心して」
努めて事もなげに言葉を返したけれど、内心私の心中は穏やかではない。
まさか見られてたなんて。
練習に夢中になりすぎて気づかなかったんだわ……!
どうしよう、もしこの世界にも“魔女狩り”のような風習があったら、せっかく手に入れた安息の日々が――
そんな不安が頭の中を駆け巡り焦る私をよそに、男は嬉しそうに顔をほころばせながら言葉を発する。
「これで噂の真偽がはっきりしました!――先ほど我々を助けていただいた際の対応を見れば敵意がないことは明確ですし、あなた様の言葉にも“嘘”はありませんでした。……もはやあなた様を疑う者はおりません! 是非、我らがカミラ王国へお迎えさせていただきたい!」
「――えっ、私を!?」
「あの圧倒的な魔法の力――あれこそ我が国が最も必要としているものなのです! 報酬はいくらでもお出しします……どうかそのお力の一端を我らにお授け下さい!」
思ってもみなかった申し出に、ここでの生活に限界を感じていた私の心は一気に沸き立った。二つ返事で受けてしまいたいという考えが頭をよぎったが、何とか思いとどまってそれをぐっと堪える。
正直、とても魅力的な誘いだけど、私には“アレ”がある――
そのことを黙っていれば、また前のような事になるかもしれない……もしかしたら死刑になることだって十分あり得る。
「――あの、どうかなさいましたか……? 不躾なお願いであることは承知しております。もし何か条件のようなものがあれば遠慮なくお申し付け下さい! 私はこう見えて国王の側近ですので、直接国王に取り合ってみましょう」
「なら……遠慮なく言わせてもらうけど、私は〈闇の刻印〉を持っているの」
その言葉に、一瞬だけ男たちの顔に動揺の表情が浮かんだが、すぐに落ち着きを取り戻して私の言葉の続きを待っている。
「だから……もしこの事を不問にしてくれるなら喜んで行くわ。――すでに刻印の力は制御しているけど、皆怖がってしまうからこうして人里離れた場所に住んでいるの。……私からの条件はそれだけよ」
男はしばらく考え込むように沈黙し、数秒たってからゆっくりと口を開いた。
「なるほど、確かに闇の刻印は厄介な代物ですね―― しかし、それを制御できているのであれば王を説得できるかもしれません!」
「――私をそこまで信じていいの? もしかしたら自分可愛さに制御できてるなんて嘘を吐いているかもしれないわよ?」
「はっはっは!心配には及びません! 私には嘘を見破る魔眼があるのです。――ご覧ください、この紅い眼が魔眼の特徴なのですよ」
「魔眼……? へえ、そんなモノまであるのね……! 私は遠い国から来たから、まだまだ知らないことが沢山あるの。王国に行ったらそういう知識を学ぶこともできるかな?」
「もちろんです! そういうことでしたら王城の書庫の使用許可もあわせて取り合ってみましょう……!」
「――本当!? じゃあ決まりね! 私はここで待ってるから、いい返事を聞かせてね!」
「お任せください! 必ずや王を説得してみせます。 十数日程度で戻れると思いますが、善は急げと言いますし……早速行って参ります!」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
約2週間後
いつものように池のほとりで魔法の練習をしていると、探検隊の一行が息を切らしながらやってきた。
「ふふ、今回は無事に辿り着けたみたいで良かった。――王様は説得できたかな?」
「はいっ!!バッチリです! 早くあなた様の魔法を見てみたいと王も仰っておりましたよ!」
「――ジャンヌ、私のことはジャンヌって呼んでほしいな。カミラ王国に迎えてもらえる事になって嬉しいわ……これからもよろしくね!」
「こちらこそ宜しくお願いいたします……ジャンヌ様! 私はレヴァンと申します。この度、王よりジャンヌ様の御世話係を拝命いたしました。お困りのことがありましたら何なりとお申し付けください!」
こうして私はカミラ王国に正式に迎え入れられることになった。
新天地での生活……とっても楽しみだわ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます