第3話 学び
目が覚めると、木目がきれいな天井が視界に入る。
体には粗末な布で作られた布団が掛けられ、右肩には白い布が巻かれていた。
――布の奥からズキズキと脈打つような痛みが脳に送り込まれてくる。
「助かったんだ、私――」
命を拾ったことに安堵しながら、ぼーっと窓の外を眺めていると、ドアが開いて一人の少女が入ってきた。――年の頃12、3歳位のその少女は、私が目を覚ました事に気づくと嬉しそうに話しかけてくる。
「□□□〇〇〇□□□……! 〇〇〇□□□〇〇〇□□□!!」
「ごめんね、あなたが何を言ってるか分からないの……」
やっぱり、と言うべきか――言葉は今まで聞いた事がない響きだった。
それでも……言葉なんて後でどうにでもなる。今の私にとっては“人”がいただけでも十分過ぎるくらいの朗報だわ!
言葉が通じないと理解した少女は、自分を指さして何かを訴えるように話し始める。
「レイン! 〇〇〇□□□、レイン……!!」
「あなたはレインって言うのね……! 私はジャンヌ、ジャンヌよ!」
少女のマネをして自分を指さし自己紹介を行うと、少女は大きく頷いてその意味を理解したようだった。 そのまま何か言葉を残し、部屋を出て行った。
しばらくするとレインは母親らしき女性を連れて戻って来て、今度はその女性を指さして言葉を発する。
「ステラ! □□□〇〇〇、ステラ……!!」
「――ステラにレイン、助けてもらってありがとう……!」
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2週間後――
親子に手厚い看護をしてもらった甲斐もあって、私の肩の傷も大分良くなってきた。
最初は全く言葉が分からなかったけれど、身近なものの単語を覚えることから始めて、大分意思の疎通ができるようになってきたわ……!
ここはブランカという人口200人くらいの小さな集落。
自給自足と狩りをして生計を立てているため、村人同士は家族のような関係を築いている。――文明のレベルは、大体中世の田舎……といったところかな。
そうした環境の中、今わたしが“執心”しているのは地球には存在しなかった不思議な技術……ここ数日、私はレインにその技術を教わっている。
「レイン、今日も よろしく!」
「今日は 魔力 使う 練習……!」
まだ単語の羅列を断片的に聞き取るだけしかできないけれど、この世界には〈魔法〉があるらしい。こっちの世界に来てから何となくモヤモヤとした感覚が体内にあることは気づいていたけれど、それが〈魔力〉というものだと教えてくれた。
何と! これを使うと火を起こしたり風を呼んだりすることができるらしいの!!
最初は信じられなかったけれど、レインが実際に目の前で何もないところから火を起こしたのを見て本当に驚いたわ……!
どうも“火”を表す幾何学模様の紋章に魔力を流すと、火が付くみたい。
回路に魔力を流すと物理現象が起きる、という意味ではとてもシステマチックでロジカルな感じがして、すごく科学者の研究意欲を掻き立てられるわ……!
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2時間ほど魔力を使う練習をしていると、レインは驚いたような表情でこちらを見てくる。
「ジャンヌ、すごく 魔法 上手!!」
「ふふ、ありがとう。 レイン 教え方 上手! とても楽しい……!」
体内の魔力を動かす感覚に慣れてくると、段々体の外に放出したり、一か所に集めて形を作ったりと自由に動かせるようになってきた。――この感じだと、魔法以外にも魔力の活用方法はありそうね……!
多分、元の世界に戻るには相当なハードルがあるはず――
言葉の学習と並行して、鍵となりそうな魔法の練習を集中的に進めていこうと思うのだった。
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