Vacation! 6. シャオジンは美人


 夏休みと言えば引きこもって全力でゲーム三昧、


 が、おれの場合だ。


 しかし、世間一般的にはどこかへ遊びに行くのが常らしい。

 そしてもっともポピュラーなレジャー。

 それはだということだ。


「とうとうおれは陽キャデビューしてしまった…………」


 ビーチパラソルの下、気怠げに身体を伸ばしながら砂浜で遊ぶ、我らが【FAO】ランカー達を眺める。

 先ほどのリンカーンロードのショッピングで水着も買っていたようで、ちゃっかりチョッパーも交じりビーチバレーを楽しんでいた。

 試合形式ではなくただのパスリレーのようだが、何が楽しくボール遊びなんだか。

 おれはバトロワ形式のドッグファイトがやりたいよ。

 

 ――――ミッションとかじゃなくてね。

 

「前言撤回。おれに陽キャは早すぎる」


 こうしてみんなの荷物番をするのがお似合いだと自嘲するぜ。

 思えばリアルでも海に行った記憶が全然ない。

 いや、小さい頃はあったはずだが、朧気すぎて印象に残っていない。

 

「っていうか、みんなもっとおれに気を使うべきじゃね? 一人で休んでないでこっち来て遊ぼうよ、みたいなラノベ展開あってもいいだろ」


 盛大な溜め息を吐き出して傍にあるクーラーボックスを開ける。

 中は氷水に浸された色んな飲み物。

 リディア大佐もしっかりおれを置いて楽しんでるし、さっきのあの笑顔はどこいった。


 まあ、だが、あの控え目な水着姿は目に眼福であるから許す!


「……チョッパーの野郎、これ全部アルコールじゃねえか」


 げんなりしていても喉の渇きは消えたりしない。

 このゲームの最大の謎、何でこうも生理機能が充実しているんだか……。

 

「おや、これは見事なラインナップじゃないですか」

「あ、邵景シァオジンも水分補給?」


 背後からのぞき込むのは意外に背の高い邵景シァオジンだ。

 艶のある黒い髪が背中まで伸ばしていて、薄い紫のカーディガンを羽織り、その下の際どい水着ビキニを控えめに隠している。


「缶ビールばかりでは水分補給になりませんね」

「好きじゃないの?」

「貴方、私をアル中と勘違いしていませんか?」

「いやー、だってあのバーの一件もあればね……」


 眉根を寄せてうっすら笑いかけてくる姿がこれまた妖艶だった。

 なにこの大人の色気的な蠱惑な感じ。

 

 おれじゃなきゃ普通の高校生なんて一撃でしょ!

 

「とんだ醜態を見せてしまいましたね。でも、そうですね。そのお詫びに貴方の飲み物、私に奢らせてくれませんか?」

「願ってもありません!」


 喉の渇きに耐えられなかったとはいえチョロイぜおれ。

 いやね、別にね、邵景シァオジンって控えめにいって美人だし? 最初に会った時も膝枕してくれてたし? もうぶっちゃけおれのこと好きなんじゃないかって思ったりしてるんだけど、こうしてほぼみたいなことに誘う時点でもうそうでしょ。


 さっそくどこかのお店に行くと思いきや、おれの隣にあるビーチチェアに座り、もう一つのクーラーボックスを引きずり出す。


「こちらに唐瞳タントンが選んだジュースがあります」

「…………そっちにあったのね」

「ん? 私と一緒に散歩という期待を抱いていましたか?」

「ないわ!」


 ……………………


 うん、確かにさっきまでのおれキモイわ。


「そういえば邵景シァオジンって、出身はここアメリカだよね? 米軍の軍事的職業区分MOSの衛生兵取得してるって」


 冷えたジュースを渡され、喉を潤しながら気になっていた件を尋ねた。


「ああ、簡単なことです。わたしは帰化しましたので」

「なんだー、帰化かー…………、うん? 米軍から、人民解放軍ってこと??」

「そういうことです」


 さらりと言いながら缶ビールを飲む邵景シァオジン

 ってかやっぱアルコール飲むんかーい。

 そんなことよりもその状況、かなり肩身が狭い立場なような気がしてならない。

 

「結構、しんどくない?」

「しんどいもなにも、あっという間に左遷コースですよ」


 ひんやりと笑う姿が、実は想像を絶する境遇だったと思わせるほどだった。

 過去に浸っている様子のその目。

 一瞬だけ真剣味を帯びるが、すぐに柔和なものへと変わる。


「ただまあ、おかげで包括的次世代パイロット育成プログラムに参加出来ました。左遷とはいえ、各国のパイロットと交流を持てるなんてなかなかないですから」

「あの、素朴な疑問なんだけど、陸軍歩兵からなんで空軍パイロットにしたの?」

「もう二度と陸のしごきを受けたくなかったからです。単純な話でしょう?」

「理由が浅い!? さっきの真剣さはなに!??」


 国籍変更で帰化となれば、確かに米国の兵役キャリアなんてゼロになるからどれを選んでも変わらない。

 しかし、陸軍で培ったスキルを生かせなさそうなエリートコースの空軍戦闘機パイロットを選ぶとか、元々のスペックが違いすぎるんじゃないか??


「とまあ冗談はさておき。唐瞳タントンが包括的次世代パイロット育成プログラムにエントリーしていた話を聞きました。それで他人が担当バデイになるくらいなら私が、と思ったのでこうなったわけです」

「…………唐瞳タントン邵景シァオジンってどういう関係なんだか」

「そこは本来プライベートなところなんですけどね」


 う、すいません。

 自分が陰キャコミュ症なのを忘れてた。

 女子のプライベートまで突っ込むとかキモすぎんじゃん!!


「ただ、唐瞳タントンとは仲良くしてやって下さい。そうすればあの子から話してくれるかもしれません。それに…………」


 言葉を句切ってから、長い沈黙が流れた。

 周囲はビーチを堪能する人々で賑わい、ビーチバレーで盛り上がるスヴェート航空実験部隊員の嬌声も聞こえる。


「オペレーション・シエラ・エクスレイは、貴方が思っているよりやさしくありませんよ」


 難しい顔をした邵景シァオジンが、極めつけに深刻な声で言った。








邵景シァオジンの水着はコチラ↓


https://kakuyomu.jp/users/pompomkuroquro/news/16817139556696813465

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