Vacation! 4. でんじゃぞーん
雲一つない晴天の空を堂々と太陽が照らして視界は良好。
窓から遥か彼方の海鳥まで見える。
そう。
おれたちはすでにグランジア合州国目前まで飛んで来ている。
「どうしてこうなった……」
懲罰回避の方法が輸送機に載って国外逃亡とは恐れ入る。
しかもこれ、正当な理由をちゃんとでっち上げたんだからびっくりだ。
本当にこれ大丈夫?
あの狂犬まがいのリッチハートに絡まれたりしない?
連合軍だろうが遠征群だろうが演習だろうがお構いなく絡んでこない?
「私のパパは連合軍総司令部のお偉いさんなの。だから合同軍事演習がしたいって名目で便乗させてもらったのよ」
「職権乱用じゃね?」
「もともと予定してたのが国籍不明機の空襲で流れただけでね、あとはスケジュール調整のみだったわけ。この積荷も演習用なの」
「つまり、おれたちも積荷ってわけね」
「せっかくの休暇を潰したくないじゃない? すぐに出発する方法はこれしかなかったの。それに……」
ミルは悪戯っぽい笑みを浮かべて、おれの耳元で囁いた。
「あなたと一緒に遊びたかったんだから、しかたないじゃない?」
なにこの子、めっちゃ可愛いやんけ……。
惚れてまうやろーーーーーー!
ただでさえ金髪ポニードチャクソセイヘキササリンティウスだし……
このスキップモードなしのゲーム、何時間もチョッパーの自慢話を聞かされていたおれの苦痛がこれで浄化された。
ちなみにリディア大佐含め、他の面子はしっかり
完全に慣れてやがる。
「よーし、そろそろ到着するぞ」
それにしてもこのチョッパーという男はタフだ。
まったく睡眠をとる気配もなく元気である。
おれは正直、限界寝落ち寸前なのに。
「みんな、これの装着の仕方は知ってるか?」
チョッパーは足元にどさっと置いたそれに指差した。
「なによそれ? あ、パラシュートじゃない」
ミルがそれを一つ取って確認。
ん?
んんんん????
「いやなに、せっかくだからスカイダイビングでもしようって魂胆だ」
「すかいだいびんぐだあ?」
なぜ? どうしてそうなるんだ?
グランジアのどこかで着陸するんじゃないの?
「普通に無理なんだけど、え? みんな問題ないの??」
と、おれが問いかければ、
「俺は経験済みだぜ」
「私は落下傘連隊で履修済みよ」
チョッパーとミルはまるでそれが普通のように言い放ち、
「ハニーがSASの訓練連れてってくれてそこでパラシュート降下やったよ」
「パラシュート降下なんてSASの選抜試験に比べたらたいしたことない」
さらりとハイスペック発言するビターとハニーに続き、
「うっそマジパラすんの? やばくね!」
「眠気覚ましー!」
いつでもハイテンション気味なギャル組も動じず、
「空軍空降兵と降下訓練したことある」
「同じく」
「わたしもテストパイロット時代に何度かやったから平気だ」
当然の如く、リディア大佐も経験済みとくる。
「なあに、安心しろ、アゼル。こんなもん
意味不明な太鼓判を押すチョッパーだが、まったく不安は消えない。
極限にまでリアル再現された【FAO】でアバターも自由に空へダイブ=地上に激突死とか洒落にならんだろうに。
大体、なに?
幸運のパラシュート??
それ課金アイテムか何かなの???
「よし、目標降下地点を砂浜に設定しよう。一番、近かった奴が勝者として俺達の遊び場を選べる権限を獲得できる!」
「まてまてまて、初心者の立場を考えろ。着水したらおれは溺れ死ぬ自信がある」
「大丈夫だ。向こうの沿岸警備隊に俺の
「手際がいいな……」
こいつ、遊びに全力を出す陽キャだな。
根は悪い奴ではなさそうだが、オフの付き合いは面倒くさいタイプだ。
でも、おれの面倒はみてくれるみたいで、パラシュートの装着を手伝ってくれているから不問にしてやろう。
背中にパラシュートコンテナを背負い、チェストストラップを締める。
レッグストラップを足に回して金具で固定。
メインリフトウエブを調節してハーネスを身体に密着させ、ウエストバンドを調節し閉める。
最後にパラシュートコンテナとハーネスがしっかり身体に密着されているか確認して終了。
ん? なんか違和感が??
「じゃあ、開くぞ!」
チョッパーが大声で注意喚起する。
同時に轟音が鳴り響き、後部ランプドアが開いて空気が一気に流れた。
「さあ、どんどんいけー!!」
その勇ましい号令でミルが飛び出し、
すぐさま
「これフリーフォール降下じゃん! 特殊部隊がやるやつじゃん!! おれ初心者なんだからスタティックライン降下したいよ、パラシュート自動開閉じゃないと死ぬ自信あるよ!! ってかなんでタンデムじゃないの!!??」
「わたしと一緒に飛ぶか?」
おれの悲鳴にリディア大佐が心配してくれたのか、眉を八の字にしてこちらを見てくる。
くそ、めっちゃびびっていると思われているに違いない。
ここはランキング一位の風格を見せねば。
「よ――――、余裕だし全然びびってねえし」
なけなしの虚勢を張って後部ランプドアへと躙り寄る。
視界良好、とても気持ちの良い青空、眼下の白く輝く砂浜が目に眩しい。
なにも遮るものがない空の下、心理的な恐怖に足が根を張ったように動かない。
「じゃあ、せめてこれくらいはさせてくれ」
突然、背中が押され、足元から床の感覚が消える。
ふわりと内蔵が浮かぶ。
戦闘機に比べたら屁でもないマイナスGだが、
最後に目にしたリディア大佐の顔。
悪戯っぽい笑みでおれを見下ろしていたぜ…………。
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