Vacation! 3. マイアミー!


 いくら警察の御用とならずに逃走したところで、やらかしてしまったことには変わらない。

 例え基地に逃げ込んだとしても、当局から任意同行なんて求められたら、その時点で証拠が固まっているので言い逃れもできまい。


 まあ、器物損壊程度なので店側としても弁償さえすれば不起訴処分になるだろうから、たいしたことはないかもだけど。


 が、ということもあり、各国の軍人と殴り合ったのだから政治的にも外聞が悪く、友好国同士に亀裂でも生じたら一大事なので、落としどころとして懲罰房行き、もちろん休暇取り消しなんてこともあるかもしれない。


「以上がおれの見解だが異論は?」

「駄目だ、休暇は死守しようぜ」

「別に懲罰房に入ってもログアウトして他のゲームやればいいだけだし」

「大丈夫だ、任せろ。俺様に良い案がある。おい、ミル!」


 最悪のケースを想定した結果を伝えたが、即座にリーゼントチョッパーが首を振り、金髪ポニーのミルドレッドを呼んでなにやら作戦会議をする。

 そもそも休暇申請を取り付けたのはこの二人であって、おれたちはただ連れて来られただけだしね、任せてみるか。


「んで、おまえら、大丈夫か?」


 それよりも不安な前方のふらふら集団に声をかける。


「あ~、ハニー飲み過ぎちゃってるわ。ごめんね悪魔ちゃん途中まで介抱してくれて」

「うん、まあ、さすがに置いて行けないし」

「きっと長距離飛行でストレス溜まってたんだね」


 ビターは苦笑いしながらハニーの肩に手を回して介護しているが、当のハニーは幸せそうな顔でバーからくすねたウィスキーボトルを呷っている。


 こんな飲んべえ設定だったんだこの人……。


「カオたんマジ飲み過ぎっしょ。しかもジョッキまだ持ってるしウケる」

「見た感じから酒に強そうと思ったけど、そうでもないんだな」

「あー、カオたん下戸なんよ。普段は雰囲気で酔えるっていうか、今日は珍しく飲んじゃってんじゃんね」


 コハルは背負ったカオたんに問いかけるも、本人はすでにトリップしていて器用にジョッキを呷っている。


 これ大丈夫か? 吐くんじゃないか?


「はー典型的なダメな大人じゃん。ちっとは邵景シァオジンを見習え」


 一番先頭を歩いているのは唐瞳タントンで、その後に背筋を伸ばして颯爽と闊歩する邵景シァオジンが続いている。

 洒落たカクテルをがんがん呷ってた気がするが、まったく酔っている気配もない。


 やはり功夫クンフーは凄い。


「アゼル。邵景シァオジンは酔っぱらっている」

「え、え? うそ、普通に歩いてんじゃん」

「素面に見えるが確実に酔っている。さっき私達が退路を確保した時を見てたか?」

「うん。香港映画みたいだった」

「私は少林拳しょうりんけん邵景シァオジン酔八仙拳すいはっせんけんだ」


 それ酔拳じゃん!?

 酔えば酔うほど強くなる酔拳じゃん!!??

 この集団、傍目から陽キャ集団に見えるけど内容はゲームランカー、アルコールジャンキー、半分サイボーグ女子のやべえ集団だよ。


「リン。うちらこのまま基地に帰ったらどうなりそ?」

「……十中八九、スヴェート航空実験部隊には何かしらの処分が下されるだろうが、そんな重いものでもないだろう。きみの予想と大きなずれはない」


 おれは隣にいるリディア大佐に聞いたが、さして心配している素振りもない。

 当然、休暇が取り消されたとしてもおれもまったく文句はなく、むしろ大きな作戦がないなら哨戒任務に勤しんだり演習モードをやりたいくらいだった。


「だとすると、チョッパーが何を考えているかでこの先の展開、つまりユーザーイベントが決定するんだけど……」


 すでに守衛を抜けて、基地内まで辿り着いてしまったが、どうやら宿舎には行かずに滑走路に向かっている様子。


「あれに乗れ!」

「は? あれC-130じゃん」


 見た目は旅客機に近い四発のプロペラ輸送機は駐機所でエンジンを回している。

 何かの輸送任務だろうが、それとおれたちにどう関係が?


「ちょうど演習目的で出撃するみてえだから便乗しようぜ!」

「ぱーどん?」

「俺達も演習参加するっていう体で了解を取り付けたんだよ、ミルが」


 くいっと顎で示す先で、スマホで連絡しているミルドレッドが親指を立てる。


「きみたちユリアナ飛行隊の演習にわたしたちが同行する予定はないぞ?」

「なーに行ってんすか大佐。俺達もそちらの指揮下に加わる予定が置いてけぼりされたっすけど、今は航空遠征打撃群スヴェート航空実験部隊の一員なんすよ」


 リディア大佐の疑問をあっさり一蹴したチョッパーは輸送機の開かれた後部ランプドアへみんなを誘導する。


「いや、しかし、さすがに戦闘機を置いて離れるわけには……」

「だーいじょぶっすよ、遊びに行くだけっすから!」


 と、チョッパーに背中を押されエンジン音が唸る貨物室に入れば、物資がそこそこ積まれていて狭い。

 ちなみにC-130にはカーテンで仕切るだけの簡易トイレがあるのだが、早速、ハニーが吐瀉物をぶちまけ、ビターが看護している。

 そしておれが乗り込むと、通話を終えたミルドレッドが駆け込む。

 同時に後部ドアが閉じ、離陸に向けて滑走を開始した。


「んで、ミルドレッドさんや。行き先はどこなんだい?」

「あら、ミルでいいわよ、アゼル」


 にっこりと笑うミルは戯けるように言い放った。


「目的地は合衆国のフロリダよ!」

「…………は?」


 はあああ――――――――――!!???

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