MISSION 57. ランカーの鬼ごっこ
「おっけー、空対地ミサイルロックオン」
夜明け間近の明かりが、眼下に広がるオーシャンブルーを輝かせていた。
広大な海原に横たわるセブンマイルブリッジが陽光を浴びて白く光る。
あそこをオープンカーや大型バイクで疾走できたらマジもんの陽キャパリピの仲間入りが果たせるだろうな。
いやいや、雲一つない青空の中、ひたすら
アオハルかよ!
『ねえ、妄想中に悪いんだけど、早く撃っちゃってくれる?』
「!! おれの心を読むな!!」
『そんなだらしない顔されたら読みたくなくても分かっちゃうわ』
ふーやれやれ、みたいに大袈裟な肩をすくめる
「……おまえも浮かれてんじゃねーか」
ぼそっと呟いてから目標に向けて残りの空対地ミサイルを放った。
綺麗な白い筋が二本、セブンマイルブリッジを横断中の大型輸送車、ではなくそのやや前方の橋へと直進した。
「直接の破壊じゃないの?」
『輸送車の前と後ろの橋を落として身動き取れない状態にしたいのよ』
「なんで?」
『当局に回収して貰いたいから。それより早く離脱しましょ』
おれの疑問に対してこれ以上の追求を躱すように促す
その間にミサイルが橋桁を爆砕し、大型輸送車はその足を止めた。
同時にその異変に反応した国籍不明機の
「ドッグファイトは…………?」
『ミッションは完了よ。民間機も無事のようだし万々歳でしょ?』
「最後あっけなくない?」
『もう燃料が心許ないの。空中給油予定ポイントまでぎりぎりなんだし、遊んでる暇ないのよ。そろそろ基地も恋しくなったでしょ』
何とも締まりのない終わりを迎えたミッションだ。
追撃してくる
こればっかりは機体性能の差が出る。
相手側はおれを阻止するための戦闘機チョイスを間違ったようだ。
まあ、あとはグランジア空軍に撃墜される運命だろうよ。
「長かったミッションもこれで終わりかー。いやー、もーなんか緊急ミッションの連続でもの凄く長い印象しかないわー。これでスコアに対してしょぼい点数だったら泣くね」
『概ね悪くないわね。あたしのパラメーターは大幅に伸びたけど、あんた自身の成長があったのかは疑問だわ』
「お、煽るね、ユーザーインターフェース。このすっかり着慣れたパイロットスーツもくそ馴染んできたし、もうどんな無茶な
実際、この舌を噛みそうな正式名称のパイロットスーツはおれのポテンシャルを更に引き延ばしてくれるチート装備だった。
知覚と身体の反応速度が異次元レベルになるので、この装備はぜひともランキング一位の特権として他のユーザーに配らないで欲しい。
『余裕なのは結構だけど、進路上にカテゴリー5のハリケーンが発生しているわ。あらやだ、二つも発生しちゃってとんだ異常気象ね』
「さすがにハリケーンに突っ込むのは遠慮したいね。まあ、高度上げれば余裕っしょ」
『迂回ルートもある…………、と思ったんだけど、ちょっと問題発生よ』
「でたフラグ」
既にスタニスワラ製のチャフ圏外だったのでレーダーは復活している。
360°フルスクリーンにポップアップ表示されたレーダー画面確認。
一機のグランジア製海軍機の詳細情報がバイザーに表示された。
「えーと、国籍不明機という脅威を対象に新たな編成された空母打撃群に所属している第一空母航空団対UN戦闘攻撃飛行隊の
なんつー長ったらしい名称だが、これはれっきとしたグランジア海軍飛行隊の機体であり、それがなぜかおれの軌跡を辿っているようだった。
『一応言っておくけど、本来は味方になるはずだったのよ? Ops.SXの要請に従ってスヴェート航空実験部隊に編入予定だったんだけど、ほら、あちらさんは随分と忠誠心が強くて指揮下に入ること拒んでね』
「なに? なんか歯切れ悪くね?」
『んー、まあ、通信繋ぐから自分で確かめてみて』
と、
正直、この手の面倒ごとは厄介極まりない展開に発展するものだ。
そしてその予想は正しく的中するのもご都合主義というものだろう。
「はい、えー、こちらスヴェート航空実験部隊の、えー、あ、デビルツーです」
実にたどたどしくTACネームを告げるおれ。
ここ最近、強烈なインパクトの女子パイロットたちとはまともに会話できていたのに、ここでは爆裂にコミュ症を発揮してしまった。
コミュ症とは、人付き合いを苦手とする症状、またはその症状を持つ人で、留意すべきは――――苦手とするだけで、係わりを持ちたくないとは、
持ちたくねーよ!
なんたって相手は正式すぎるグランジア海軍のパイロット。
完全なるカースト上位種にして栄光ある合州国パイロット。
陰キャ引き籠もりの宿敵にして眩しすぎる存在のリア充爆発しろ。
「こちらはグランジア海軍所属のリッチハート大尉。直ちに私の誘導に従い投降せよ」
おれは頭いっぱいに疑問符を浮かべる。
「何か悪いことしましたっけ?」
「貴殿は我が合衆国の財産を破壊した」
「あー…………、任務上の尊い犠牲と申しますか、おそらくそちらに連絡がいっていると思うのですが…………」
「当該空域は著しい電波障害下で状況は何も伝わっていない」
「いえ、あの、事前にですね、オペレーション・シエラ・エクスレイという作戦だかなんかで間違いなく伝わっているはずなんですけど…………」
「領空侵犯した国籍不明機は貴殿を残して撃墜との連絡を受けた。残るは貴殿のみであり、投降するか撃墜されるか選べ」
うん、この人、話が通じない人だ。
おれは通信機を切るように口パクした後に
「こいつ、プレイヤー?」
『そうね、プレイヤーね。ランキング二位のリッチハートよ。国籍不明機の撃墜数でいえばあんたより上の一〇〇機撃墜っていう未曾有の記録を持ってるわ』
「なぬ!? おれより上だと!」
『総合スコアはあんたのほうが上だけど、
ツインテールが大きな溜息に揺れる。
なるほど、相手はおれがランキング一位なのでいちゃもんを付けて俺を見逃さないということか。
これは初めてのプレイヤーVSプレイヤー、つまりPvPだ。
――――腕が鳴るぜ!
と、思った矢先にロックオンアラームが鳴る。
『まずいわ、完全に戦う気ね。振り切りなさい!』
「わーってるよ!」
おれは操縦桿を倒しビーム機動で追尾を振り切ろうにも、なんとなんと一分の狂いも無い正確さで追われた。
間違いなく凄腕プレイヤー、ランキング二位は伊達じゃない。
ならばこっちが背後を取ってやろう。
スロットルを叩き付けるように上げ急加速、座席に身体がめり込み肺から息が漏れた。
そして身体が引き千切られるほどの螺旋機動を繰り返すも、あら不思議。
まったく背後が取れない!
「ちょっと本気出していいかな!」
『本当に燃料ないからダメ』
「つっても攻勢に転じないとマジでやられそう!」
『高度1500フィートまで下げてハリケーンにダイブよ!』
さらりと最適解とばかりに言う
5000フィート~9000フィートでもめちゃくちゃ危険なのに、それ以下の高度を進めるとはクレイジーリリィだ。
上昇流や下降流に翻弄され、超強風に嵐の乱流で急落下でもした海面に叩き付けられて一瞬で終わる。
ハリケーンハンターでもそんな無茶はやらないだろうが…………。
「ミッションの最後の最後にクソハードな展開とか、まったくテンプレおつだぜ」
おれは盛大にぼやいてから、操縦桿を一気に倒した。
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