MISSION 56. ハイローミックス
「はいレーダー照射の警告音きましたけど!?」
『これだけ強力なのは
「電波妨害あるでしょ!」
『強すぎるし
「くそが、貫通属性かよ」
実際そんなソシャゲみたいな属性があるかは分からんが、たぶん、
愛機に搭載されている妨害装置は器用に周波数を変えられるタイプでもなさそうだ。
「光学迷彩は?」
『もう起動してるわ』
そうでなければ困る。
水平線が白く霞みかかっているのは夜明けが近い証拠だ。
空には雲一つ浮いていない。
太陽が昇れば目視で発見される危険性も高いからだ。
「国籍不明機に無人デバイスが搭載されているのは確定して、その視界能力ってどういう設定?」
『デバイス上部はパイロットの目線と同じ高さになるよう調整されているわ。そこの複眼によって通常のパイロット以上の目視索敵能力が付与されているのよ』
「…………まるで虫だな」
もちろん複眼のことを指して言ったおれの感想なのだが、昆虫の複眼は動くモノに関しての反応が格段に優れている。
まあいわゆる動体視力というやつが凄いのだ。
それがどれくらい凄いかと言うと、例えば蛍光灯が1秒間に60回ちらちらしていたとして、人間はそれをほぼ目視出来ない。
でも、昆虫の複眼であれば240回のちらつきが分かるというチート性能なのだ。
「すげえ動体視力持ってるのに強く感じないんだが?」
『ハードが優れていてもソフトが追いついていなかったら意味ないでしょ?』
「あの
『普通の人間は複眼の見方を知らないのよ』
「要するに宝の持ち腐れってやつか」
どんなに優れた兵器でも中身がしょぼければ性能を発揮できない。
まあ、よくある設定だことね。
『後方より国籍不明機接近。あらあら、ご丁寧に電子作戦機も展開してるわ』
「お! 前方、高度下げてる民間旅客機発見! ってとうとう無人機軍団も電子妨害するようになったか」
『対合衆国
「どう厄介なんだよ?」
おれは険しい顔で急旋回をかけ、民間機を守れる位置へと付いた。
360°フルスクリーンに表示されたレーダーにはグランジアのスクランブル機が映っており、国籍不明機に対してレーダーミサイル攻撃の準備をしているはずだ。
『チャフをめっちゃばらまく』
「いやいや、チャフ使用なんて当たり前じゃん、電波防ぐのに超有効じゃんよ」
チャフといえばアルミ箔を任意の長さに切ったモノをばらまいてレーダー攪乱をするものだと、大体の陽キャパリピは思っているだろう。
だが、しかし、現代のチャフはプラスチックやワイヤー、グラスファイバー等にアルミを貼り付けて滞留時間を延ばしたタイプが使用されている。
レーダー妨害を効果的に行う為に落下速度が遅いほうが良く、グラスファイバー製のチャフは0.09mmの水滴と同程度とされ、気象条件にもよるが高度1000mで地上までの落下時間は最大で2時間ともなる。
おまけに様々なレーダー波長に対応する為、リアルタイムに長さを切って調整し散布する装置もあるのだから奥が深い。
『厄介なのはスタニスワラ製マイクロチャフディスペンサーよ』
「出たよ謎のSシリーズ。リディア大佐の名字もそれだし、なんなんそれ?」
民間機の背後に取り付く後方占位で、獲物を狙う敵機を撃墜戦法を取る。
光学迷彩で風景に溶け込み視認不能状態ならばおれの警戒すらしないはずだ。
とはいえ複眼性能が光の波長をどれだけ捉えられるかは未知数である。
『昆虫工学を応用したバイオハイブリッド兵器ね。すごく薄い緑色の生体膜に幾つもの細い溝が通るアルミを蒸着させて自立航行するやつ』
「……それどっちかっていうと植物じゃね? ん? 光合成する昆虫? ってかクソ厄介だし散布されたらずっと影響し続けるんじゃね?」
『そうなのよね、官民問わず大きな迷惑行為になるわ。そのうち自然現象でばらけたりするけど、いつなくなるかなんて検証もしてないし除去は大変かもね』
さすが無人機軍団、
これをリアルミノフスキー粒子と勝手に名付けよう。
と、考えているうちにグランジアのスクランブル機からミサイルが発射される。
目標はおれ、じゃなくて国籍不明機のようだが、レーダーを見ている限り回避運動すら行っていない。
『それにほら、あたしたちには絶大な効果よ』
当然、グランジアのレーダー誘導ミサイルは目標を失い、ただただ真っ直ぐ進むロケットのような動きになる……、
はずだったが。
しっかり国籍不明機の航跡を辿っているじゃないか!?
『あらあら賢いミサイル使っているわね。光波誘導に切り替わったわ』
「いや、それまずくね?」
何がまずいかって?
そんなものは決まっている。
光波誘導=赤外線誘導で最新鋭のミサイルは煙草の火すらも判別する。
つまり、亜音速で飛ぶ航空機の摩擦熱の判別なんて朝飯前だ。
当然、無人機で成り立っている国籍不明機は、自分を守る為の行動、民間機を盾とする機動をする。
「言った通り民間機を盾にすんじゃんよ!」
『まあ完全無人自立制御ならそうでしょうね』
平然と言い放つ
光学迷彩を解除し民間機前方へと進む途中、機内から小さな灯り(たぶんスマホのライトだろう)がこちらに当てられる。
乗客の混乱は酷いもので右往左往する人影も見え、この非常時の慌てっぷりがよくわかった。
何人もの人間が窓に貼り付いて、何かを振っている。
『白旗ね。あたしたちを敵と勘違いしているのかしら』
「あ、そっか、いまは完全に元の戦闘機姿か」
バイザーが窓際にいる民間人を拡大した。
金髪のいかにもグランジア人と分かる小さな女の子もハンカチを振っている。
「リリィ、相手に左旋回するように伝えろ」
『了解』
答えが返ってきた瞬間、おれはスロットルレバーで出力全開。
迫るミサイルの前でありったけのフレアを射出。
直ぐさま急上昇すしインメルマンターンの
擦れ違い様の刹那のガン射撃で一機撃墜する。
「どうなった!?」
『フレアに誤誘導されて散ったわ。民間機は無事よ』
主語がなくてもこちらの意図を読み取って答えてくれる
反対に自立型無人機というのは民間人の判別判定が曖昧だ。
と言うよりなにを基準にどう判別させるのか、エンジニアだって迷うところだろう。
仮に服装や軍服、国旗に部隊章、武器や兵器と様々なパターンを覚えさえても、相手が偽装してしまえば意味はなく、味方以外撃てというシンプルな設定で非武装の民間人を傷つけた場合、国際的な非難は自立型無人機を投入した側に向けられ、国を率いた政治家の政治生命は間違いなく絶たれる。
そんな兵器の導入を大統領は容認するか?
おれが大統領だったらまずしないね。
ぜっったい非難されるし、いま目の前でそうなってるし(ゲームだけど)。
「状況は?」
『光学迷彩を再起動したから敵機は追従してきていないわ。グランジアのスクランブル機も交戦に入ってようだけど、流石に苦戦しているようね』
「じゃあ助太刀するか」
『ダメよ。Sモジュール優先。下を見て頂戴、車列発見したわ』
確かにスクリーンにポップアップした画面に大型トラックの車列が映っている。
個人的にはドッグファイトを楽しみたいが、ミッションなのだから仕方ない。
おれは操縦桿を傾けて一気に高度を落とした。
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