MISSION 52. ピンチはピンチ


「工場内にてアタックチームの作業が遅れている。当初の作戦変更、アルバトロスは付近に点在する脅威目標の排除を開始せよ」

「アタシちゃん了解!」

「アルバトルスツー了解」


 各攻撃担当領域の個別目標に向けたスタンドオフ兵器の終末誘導をリモートコントロールしながら、空中と地上の前線攻撃管制も行うリディア大佐からの指令は、ウォートホッグA-10を操縦するアルバトロス隊、つまりコハル中尉とカオ大尉に下された。


 アタックチームの退路上数キロ先には救出ヘリのランデブーポイントがあり、本来はそこまでの障害となりそうな脅威に対して支援を行う予定だった。


「トラブル発生?」

『工場内で戦闘になっているわね』

「まーたプランBの核攻撃とか言うなよ」

『そんなのはないけど、手間取っていると大変よ』


 一体、何がどう大変になるのか分からないが、おれは高度を下げて眼下の戦闘を俯瞰してみる。


 2機のウォートホッグA-10は地上に点在する戦車や装甲車輌、兵員輸送車に対して30mmガトリング砲のアヴェンジャーGAU-8で粉砕していく。

 それはもう縦横無尽に東側兵器で編成されているアンティル社会主義共和国軍を凄まじい火力で屠っている。

 まさにそういった機甲部隊を攻撃する目的で開発されたウォートホッグA-10冥利に尽きるだろう。


「カオたん、アタシちゃんの戦果確認ちゃんとしてる?」

「はいはーい、オッケー、戦車二、装甲車両四の破壊かくにーん」


 通信機は二人の呑気な会話を拾っていた。

 様子を見るに、一番機のコハル中尉が突っ込み、二番機のカオ大尉が撃ち漏らしや戦闘評価を行っているようで、時たまコハル中尉に目掛けて携帯式地対空ミサイルが放たれるも、フレアを射出して回避機動を取り事なきを得ていた。

 そして地対空ミサイルが放たれた箇所に、コハル中尉から容赦のないアヴェンジャーGAU-8掃射が地面を激しく耕していく。

 

 いわゆるあれだ。

 ミンチよりひでえやってやつだ。


『赤外線捜索追尾システム探知。あんたが大好きなのが来たわよ』

「スクランブル機か?」

『残念ね、いま表示させるわ』


 バイザー上に敵性存在として二機の戦闘機が表示された。

 世界最強の制空戦闘機ラプターF-22だ。


「おいこれ絶対、アンティル社会主義共和国じゃないだろ!?」

『例の国籍不明機ね』

「グランジア合州国がアタックチームの支援として派遣した可能性は?」

『かれらの秘密作戦は海軍主導で行われているわ。世界規模で不信が広がっているから無闇矢鱈に敵性国への空爆はしないわよ。政治外交上、他国への刺激は許されないしね』

「シールズいるじゃん!」

『秘密作戦の意味わかってる?』


 かー、この人工頭脳SBDはあー言えばこー言う。

 とにかく今までの敵と変わりないなら一戦交えればいいだけだ。

 おそらく狙いはウォートホッグA-10に違いないからね。


「北側より目標捕捉。敵2、反応消失。アゼル、機種方位をずらし索敵してくれ」

「了解」


 リディア大佐もラプターF-22を一瞬だけ捕捉したようだが、すぐにレーダーから消えたようだ。


 実際、ステルス戦闘機というのは完全にレーダーから姿を隠せるわけでもない。

 適切な場所やタイミングで照射すれば探知可能だ。

 特にラプターF-22の場合、形状制御という古い理論で設計されたステルス機で、機体正面の多くの部分、主翼前縁や水平尾翼、垂直尾翼にエアインテーク等は42度の角度があり、電波が均一に真横に跳ね返る。


 なので、発信源から見かけ上の角度42度となる場合は電波を大きく反射してしまうのだ。

 ただ、戦闘機は絶えず機動するので、探知される時間は短いものの、激しい空戦機動は自身をレーダーに絶えずちらちら晒し続ける羽目になる。


『レーダーに感あり。正面よりやや低空から1機、高々度に1機接近中よ』

「おっけー! リン、低空はおれがやる」

「了解。わたしは上空の……、いや、待て。更に敵機接近中だ!」

「あんだってえ?」


 360°フルスクリーンが新たに表示させたのは北西側から迫る四つの光点。

 速度は遅いものの、確実にこちらに距離を詰めてくるのは、同じく国籍不明機だ。


『あらあら、フロッグフットSu-254機接近中よ』

「出たよ貧者のA-10! ってかシールズる気まんまんじゃん、オーバーキルじゃん! 手が足りねえぞこれ?」


 ここにきて一気に形勢不利となる。


 アメリカ製ステルス制空戦闘機とロシア製対地攻撃機が仲良く仕掛けてくるとか、ゲームでしかあり得ない設定に今さら突っ込みなどいれる余地はないのだが、いかんせ状況は限りなくマズイ。

 

「アタックチームよりパッケージ回収の通信あり。アルバトロス、建物東側から出てくる8名は味方だから注意しろ」

「任せろしー、周りのブサメンみんな片付けたよん」

「大佐、新たな脅威目標は?」

「現在、Fフォクストロットは国籍不明機と交戦状態となる。また、アタックチームを狙って4機のフロッグフットSu-25が接近中だ」


 リディア大佐の通信にマジとかウケるとか緊張感のない応酬が繰り広げているが、残念ながらそれに参加する暇はない。

 レーダー警戒受信機や電子戦警戒装置等の電子対抗を一手に引き受ける人工頭脳SBDのリリィが激しく捲し立ててくるからだ。


ラプターF-22からの照射で発信源特定、電波妨害でロックゾーンまだよ。その間にビーム機動して範囲外に退避して』

「そしたらウォートホッグA-10が狙われるだろ!?」

『あの子たち、携帯式地対空ミサイルの被弾覚悟で超低空飛行してるのよ?』


 つまりアルバトロスはアタックチームの支援の為だけに超低空を縦横無尽に機動しているわけではなく、中長距離ミサイル対策も考えていたわけか?


 確かに機体構造上、下からのミサイル攻撃には強いし、戦闘機搭載の空対空ミサイルのほうが圧倒的脅威だから理に適っているということか。


「わかったわかった、どのみちラプターF-22撃墜が最優先な。さすがにもう敵の増援ないよね? ね?」

『お生憎様、アンティル空軍機がスクランブル発進しているようだけど、防空管制が寸断されているから近場の空域を右往左往しているわ』

「なら、ヨシ」


 ふいに警戒音が途切れバイザー情報を確認する。

 作戦空域に間に合った電子作戦機のプラージャが電子対抗の傘を広げたのだ。

 相手の自機搭載レーダーに目隠しを被せ、ネットワーク戦上の優位を確立させたことで、近接格闘戦に持ち込むことが出来る。

 周囲は真っ暗闇、地上を照らすのは撃破された車輌の噴煙のみ。

 しかし、夜間戦闘用の360°フルスクリーンは視界を容易に確保しており、難なく相手のラプターF-22を捕捉した。


「ん? このカーソルは……?」


 何やら脅威情報として名称がポップアップしている。


『ネームドね。型式番号A-BD転換仕様よ』

「なるほど、さっぱりわからん」

『過去のランカー挙動を再現した強敵ってこと』


 操縦桿を強く引いて上昇をかけると、ラプターF-22もそれに気付いて追随、バイザーのターゲットボックスに入った機影に対し、シーカー冷却を終えた短距離ミサイルがロックされる刹那のタイミング、即座に反転してロック外に身を移したネームド。

 互いに縺れ込んでの格闘戦、時たま9Gを示す重力加速度の中、レーダーミサイル攻撃警報に擦れ違い様のチャフとフレアの散布、合間に放ってきた二本のミサイルは自機の妨害装置とフレアに惑わされて彼方へと消える。


「うーん、手強い」

「緊急事態発生、アタックチームからパッケージの確認なしとの連絡。Sモジュールは当該地域から運び出されている模様。デビルワンは至急、パッケージの撃破に向かえ!」

「えっ!? いま? めっちゃ格闘戦中だし!」


 リディア大佐からの無茶ぶりとも言える内容だが、本人ももう一機のラプターF-22と交戦しながら戦闘管制をしていては文句も言えない。


『アタックチームの工場脱出。同時に現地軍と交戦確認、現在アルバトロスが支援中。間もなくフロッグフットSu-254機が出現予定。ランデブーポイントを目指す救出ヘリが現空域を横断中、ラプターF-22のミサイル射程圏内に入ったわ』

「おれが抜けたら救出ヘリやられるじゃん!?」


 立て続けに状況報告をし出す人工頭脳SBDのリリィ、ってかそういう情報を整理して優先事項を通達するのがユーザーインターフェースじゃないの???

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る