MISSION 49. 真面目な話
作戦開始時刻は夜間だった。
2機の対地攻撃機を操縦するのは
「あのよくわかんないオペレーションでなんとか任務達成できるって感じ?」
「シエラ・エクスレイね、コハル」
「それそれ、マジ意味わかんなかったけど、ようは【FAO】のランキングナンバーワンが助けてくれる的なやつ」
「ホントは逆なんだけど、この際どうでもいっか」
まるで緊張感のない会話の応酬だった。
彼女達の任務は無人デバイス工場を攻撃する合衆国特殊部隊の援護、という非公式な性質のものだ。
提供された現地の情報では、近接航空支援をするには少々というか、かなり厳しい条件であり、端的に言って自殺行為に等しいものだろう。
現地の麻薬工場はよくあるカルテルが指揮製造する簡易的なものではなく、軍を買収して要塞化させた立派な【非公式工場】なのだ。
とてもじゃないが並の武装組織では歯が立たない。
破壊を目的とするならば本格的な航空支援が必要な状況だった。
「工場付近に現地軍の対空陣地が構築されているのは不思議よね。まるで航空攻撃を予測されてるみたい」
「別に大丈夫っしょ? この機体丈夫だし」
「いくら固くても防空網の迎撃ミサイルは危ないっての。地上支援どころじゃなくなるわ」
「その為のランカーたちっしょ? よゆーよゆー」
どこまでも能天気な言い草なのだ。
出撃前のブリーフィングでは、スヴェート航空実験部隊が防空網制圧をする前提で飛行計画が練られた。
予定通り行けば何の障害もなく近接航空支援が行えるのだが…………
「スペシャルフォースの集まりってことで色んな国のパイロットがいたわね」
「あーマジそれな。ゼッタイ仲悪いやつ」
「まあ、私達とは良好にいける感じかな? この任務の後はスヴェート航空実験部隊に合流する手筈になってるし」
「ウケる。この子の足じゃ追いつけないし。編隊飛行マジムリ」
この
特に今のように対地ミサイル、対地ロケット、通常爆弾とフル武装をしていては重さも相まって運動性もがた落ちだった。
「迎撃機に襲われたら終わりって感じ」
「まさにそれ」
スヴェート航空実験部隊の防空網制圧の主眼は、各地に散らばっているミサイル発射機、多機能レーダー車輌、指揮通信車輌、整備補給車輌等で構成された多層的防空システム群の破壊だ。
レーダー網の炙り出しに無人電子作戦機を先行させ、それぞれ長射程90km以下を
「戦術目標は支援だけだし、何だったら防空網制圧に向かった機体のほうに迎撃機が行く可能性のほうが高いから大丈夫かもしれないけど」
「カオたん楽観的~」
「っていうかそもそもこの支援要請自体腑に落ちないっていうか、無人デバイス工場の爆撃だけなら自前のピンポイント爆撃でどうにかできると思うんだけどね……」
「え、なになに? どゆこと?」
カオの言葉に興味津々のコハルが聞く。
「最初に取引を申し込んできたエージェントさ、無人デバイスにしか興味ないって感じだったでしょ? だから
「それ難しい話?」
「無人デバイス工場の情報が欲しいっておかしくない? だって既に無人デバイスを引き渡したのよ? 同じようなものがもっと欲しいわけ?」
「コレクター的なやつじゃね?」
「っていうか解析した結果の特定が異常に早いわよ」
「早くちゃ悪いの?」
コハルの答えに黙り込むカオは、暗闇が支配する夜間飛行中の計器を見ながら考え込んでしまいそうになるも、操縦に集中するよう己を正した。
夜間飛行仕様ではないこの機体で集中力を乱すのは自殺行為だ。
しっかりと計器右側にある画面を注視し、操縦を行う。
「カオたん色々考えすぎじゃね? アタシちゃん心配だよ」
「あんたが脳天気すぎんのよ」
「うわそれ、マジで傷付くやつだし」
ミッションに関係ないことを考え出したらきりがない。
何かいいように踊らされている感が否めないが、それが何なのか分からない状況で思い詰めるのは精神衛生上良くない。
ここはコハルを見習って楽観的にいくほうが正解のような気がした。
「ってかまあ私達に出来ることやるっきゃないか」
「最初からそれしかないっしょ」
「ランカー達のお手並み拝見ね」
「いやいや、アタシちゃんたちもランカーっしょ? 負けていられなくね?」
「はいはい、じゃあがんばりますか」
「カオたんテンションひく~」
通信機から流れるコハルの声を聞きながら、一抹の不安を抱えるカオは、真っ暗闇の遙か上空を仰ぎ見る。
今頃はスヴェート航空実験部隊の防空網制圧作戦が始まっている頃だろう。
このまま想定通りいくことを願いながら、地表すれすれの計器飛行を続けた。
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