MISSION 48. 真面目な作戦
「いやマジ最初のシューゲキ? 半端なかったわ。アタシちゃんたちお空に逃げてたけど基地がボコボコっしょ? ちょい頭キテ反航戦的な感じで戦ったわけ」
色彩豊かのボリューミーヘアが喋る度に揺れ、ばっちりカラコンの入ったくりくりした瞳が、おれを含めたスヴェート航空実験部隊の面々へとレーザービーム照射。
その勢いに引きつった顔をするビター、明らかに不快な表情となる
「そんでボコボコのボコにしたらー、なんかうまい具合に落ちたヤツいて捕まえたって感じ?」
「つまり鹵獲ってことでオーケー?」
「オーケー!」
片目を瞑りピースで決める様子はギャルそのもの。本来なら絶対に関わらない人種なのに。
他のメンバーがそういう仕草に一歩引いてたので、仕方なくおれが対応するしかないなんて。
まじ辛い。
「で、それがこれ?」
「これがそれっしょ」
つまりこの機体、
「で、おまえは?」
「え!? アタシちゃんのこと知らないとかマジ受ける」
「うけねーよ!」
駄目だ無理だ。
この時点で疲労が半端ない。
やはりこういう陽キャパリピとの意思疎通は激しく体力を削られる。
「待たせたな」
颯爽と現れたリディア大佐が、凛とした表情でおれたちの横に立つ。
この頭痛が痛くなる人種と円滑な意志疎通が可能なのは、彼女のその気品溢れる立ち振る舞いで分かる。
さすが我らの隊長!
いよ! 救世主!
「では彼との話を続けてくれ」
「結局おれかーい!」
脱力を通り越して目を剥いたおれ。
こういうのをもっとも苦手とするというのに、よりにもよってリディア大佐はおれを対外交渉の適任者に任命するとは。
だが、このままでは話が続かないのも事実。女の子との円滑な会話を進める為には。
「えーと、おれの名前、ユーザーネームはアゼル・ナガセだけど、そちらは?」
よし、自分の名前を名乗り相手の名前を聞くという至極まっとうな会話のキャッチボールを成立させたぞ。
「アタシちゃんのことはコハルでいいよ。ってか、え、ランキング一位のアゼルじゃんマジ受ける」
「いやだから受けねーよ!」
両手を叩いて勝手に笑い始めるギャル。
まーったく会話が進まない。
ん? いや、待てよ、コハル?
もしかして、こいつ、対地特化のランカーじゃなかったか?
「はーいはいはい、コハルじゃ話進まないから私が変わるわ」
次に出てきたのはコハルギャルより身長がやや高い、金髪セミロングのこれまたギャルメイクの女性で、大人系ギャルと言ったところか。
おそらくこの人も
いやそもそもランカーの女性率が高すぎる。男なにやってんだよ不甲斐ない。
「私はコハルのバディ。カオって呼んで。それで、皆さんに見せたいのはこの機体に搭載された無人デバイスです。が、申し訳ない。それは既にここにはないんです」
「え、ないの!?」
素っ頓狂な声を上げたのはビターである。
目的の国籍不明機を動かしていた無人デバイスがなかったのは残念。
しかし、あったものがすでにないとはいかなることか。
「これは秘密だけど、合衆国と水面下で取引して、この機体との交換ってことで渡したのよ。あちらさんも随分と国籍不明機に手を焼かされているみたいで、むしろ取引は向こうから持ちかけてきたの」
「…………秘密の暴露早くね?」
「本来の持ち主は合衆国空軍のようだから構わなかったんだけど、モスボールされていたものが流出して、
モスボールというのはいわゆる予備保管みたいなもので、有事の際を考えて機体を処分せずに持っておくことだ。
アメリカ空軍はアリゾナ州にあるデビスモンサン基地に4000機以上の航空機をモスボールしており、実際は再使用よりも部品取りやら他国に供与やらで使われている。
乾燥した気候なので機体の劣化も少ないが、当然、内部の電子機器は取り外されているので、そのまま即再使用は出来ない。
それをパクって使うとは、一体、どんな勢力が関わっているのやら。
ゲーム設定ではオーディアム連合とグランジア合州国の戦争だったけど、どうやら互いに関わっていないことの口裏合わせは済んでおり、首謀者を暴き出すために『戦争中』を演じているような節があるっぽい。
「作戦遂行の目処は立ったのか?」
ここでリディア大佐が聞いたのは、おそらくおれたちの任務、超長距離爆撃のことなのだろう。
確かグランジア合州国本土の爆撃、細かく言うならSモジュールという機器の米本土流入の阻止だったはずだ。
「あちらさんが無人デバイスを解析して、その一部品に使われているレアメタルの流通ルートが判明したらしいの。それを辿ると、無人デバイスが生産された工場が幾つかヒットしたわ」
「有力と見られる場所は?」
「メキシコとキューバ」
どちらも
そりゃそうだ。
どっちかって言うと中南米だから。
「なので悪いけど、出撃準備を整えておいてね。現地の合衆国エージェントが示した時刻まで時間ないから」
「ん? これってグランジア合州国と共同作戦なのか?」
「非公式のな」
おれの疑問にリディア大佐が答えた。
「現地の無人デバイス生産工場へのアタックはスカウトされた元軍人達で行われる。当然、合衆国とは公式での関わりはないし、メキシコ、キューバ両国政府との了解も取っていない。防空レーダーに引っかかれば地対空ミサイルが飛んでくるだろうし、スクランブル機との交戦もあるだろう」
「いやまあ、超長距離爆撃って聞いた時から驚きはしないけど」
「頼もしいな」
「さすがはランキング一位といったところね」
リディア大佐と大人系ギャルのカオさんに褒められるが、これはかっこつけたとかではなく、任務の性質上発生する類のものなので当然のことだと思う。
「どちらにも現地軍が一枚噛んでいるようで、アタックチームの支援に
「…………マジかー」
これは大誤算だ。
またしても単純なドッグファイトとは無縁の作戦。
――――
攻勢に際して真っ先に行われる作戦であり、もっとも危険性が高い任務だ。
南極沖の対空戦車シルカとは桁違いの対空射撃や対空ミサイルに晒されるに違いないので、まったくもって気が重くなるミッションだった。
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