OFF MISSION 4. 設定は大事に


 眠気と疲労を覚えたので一旦はログアウトしたものの、夏の蒸し暑さに部屋が茹で上がっているような不快すぎる現実が待っていた。


 エアコンが壊れてからもう何日経過したかわからない。

 真夏日続きで道路のアスファルトなんてバターのように溶けているんじゃないかと疑うレベルだ。


 こんなんではプレイ中に熱中症で死んでもおかしくない。

 いや、死にたくないので充分な水分を確保しに、いつものように誰もいないリビングへと足を向けた。


 リア充全快の我が妹君は相変わらずの外出なのか隣部屋に人の気配はない。

 まったく羨ましい限りだ、リアルに友達がいるなんてね。


 つい自嘲気味に思うおれだが、リア友ができるよう学校生活から逃げ出さずに生きてきた結果なのであって、その妹を卑下するのは多分、間違っている。


 ただ、現実があまりに過酷なのでその充実っぷりを目の当たりにしてしまうと辛味がやばすぎて胃袋が口から出そうなのだよ、ふぅ。


 一旦、心を落ち着けたおれは階段を下りリビングへと向かう。

 本来の目的である水分補給に集中するのだ、おれ。


 冷蔵庫を開け、いつもの麦茶を口にする。

 こうやって補充してくれるだけでもありがたいというのに、まったくおれは家族のお荷物だぜうへへ。


 こんなことをガチで考えると死にたくなるので、次のミッション攻略に頭のリソースを振り向けよう。


 そもそも敵航空機が存在しない対地ミッションは、対空兵器等の妨害もないのなら、アプローチもやりたい放題で確実なタイミングを何度もやり直せる。


 はっきり言って難易度が優しすぎてボーナスモードに近い内容だと思わざるをえない。


 と、普通は思う。


 だって敵戦闘機いなければマジで余裕なのは事実だし。


 ちょっと話を変えるが、軍事における空の支配を、一昔前には『制空権』と表現していた。


 しかし、現代は【航空優勢】という表現に変更されたのは、ミリオタ界隈では常識なのである。


 この言葉の変化は、いくら自軍の航空戦力が優勢でも、実質的には空を支配しているわけではないことから言葉が変わった。


 例えばそのような状況下でも、単機による活動、低高度侵入による奇襲や強襲等といった、少数での航空攻撃は常であった。


 とはいえ、航空優勢下であれば陸上部隊が近接航空支援を充分に受けられる環境な状態には変わらない。


 そしてこの表現がぴったりなのが次のミッションにおける、無人機ドローンの存在だ。


 対空装備のない無人船団に対して第四世代のジェット戦闘機の投射火力の戦力差は圧倒的であるが、あくまで【航空優勢】なだけで、その中でも無人機ドローンは空を自由に飛んでいる。


 一〇〇〇フィート以下の低高度、全長二メートル以下の小型、時速五〇キロの低速。


 こういう無人機ドローンをジェット戦闘機で対処するというのは、本来の想定とはかけ離れ過ぎていてまったく適切ではない。


 目標が小さく低速で低高度では、自機に搭載されている機体レーダーで把握することは困難であるし、亜音速下であれば目視も厳しい。


 が、発見さえ出来れば低速=止まっているに等しいので、航空機関砲での命中撃破は難しくないのかもしれない。

 

 実際のところ、やってみなければわからないのだが……

 

 特に砲弾を釣り下げての【対ミサイル自爆防御】という、戦車でいうところの【爆発反応装甲】みたいな戦術、誰が考えたんだよこのクソゲーと言いたいレベルで想定外だ。


 大体、誰が船や無人機を操ってんだよ、いや、ゲーム表現だとNPCになるけど、世界観の設定はあるだろうし。


 衛星を用いた遠隔操作なんて、今じゃ当たり前のように使用されている。

 肝心なのは、それを行っているかなのだ。


 衛星群をハッキングするなんてかなり高度な連中だろうし、気象衛星や軍事衛星まで手が伸びていたらお手上げである。


 なんせを掌握されたってことになるからね。


 もう空の上の上よ。


 お手てを上げたって届かない天空の城レベルよ。

 

 まさに戦略シミュレーションゲームにおける偵察モードOFF設定みたいなもん。

 こっちの行動は全部見られているというチートモード。

 手駒さえあれば、どんな攻撃も防げるし、どこでも攻撃できる。


 …………あ、そうか。


 手駒がないから無人機による砲弾自爆防御なのか。


 すると、敵は代表的な《軍組織》を持っていないのだろうか?

 状況推察するならば、各国が国籍不明機の攻撃を受けた、つまり相手は【国家】ではないのかもしれない。


 であれば敵はなんだ?


 主義主張や思想を超えたテロリスト集団とか?


 いやいや、そんなまとまりや団結力があれば、そもそも他勢力と大々的に組まなくてもやりようがあると思うが。


 うーん、考えてもわからん。


 ていうかおれが考えなくても考察厨や解析班が解き明かしてくれるだろう。


 まあ、とにかく熱中症回避の水分補給は済ませたし、そろそろゲームを開始してミッションをやるしかない。


 ふと窓の外を見れば、そこには夏の青空が広がっていた。

 そういえば南極の気温は【夏】仕様だった。


 しかし、南半球は季節が逆転する。


 今の季節は【冬】で、南極はもっと寒いはずなのに。

 わりと設定がぼろぼろなんだよな、最新作の【FAO】は。

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