MISSION 25. 同志だった


「時間だ」


 リディア大佐が短く言うと、背面飛行のレジヴィがスライドしてから大佐機も離れ、プラージャも同じ挙動をする。


「アゼル、今から同期飛行をするから操縦桿から手を離しておいてくれ」

「オーケー、例の同期飛行ね」


 ソシャゲにあるようなオートプレイ機能で、退屈な周回にはもってこいだ。

 いちユーザーの意見を述べるなら、そもそもこういう退屈なミッションの実装を控えるべきであろう。

 もしくはプレイ短縮機能、つまりスキップ機能がほしいところだ。

 まあ、とりあえず言われた通りに手を触れないでおく。


『あんた、スキップ機能の実装とか求めてるんでしょ』

「いちいち人の心を読むな機械のくせに」

『心なんて読めないわ。ただ、あんたの顔を見ただけで最近は何を考えているかわかっちゃうのよ』

「なんつーいらん機能だ…………」


 おれは顔をしかめながら人工頭脳SBDのリリィを睨み付ける。

 多分、これからの燃料補給で必要な挙動のための同期行動なのだろう。


『これからリディア大佐が4機操縦するわ』

「え!? それオートプレイじゃなくね?」


 まさかのリディア大佐プレイヤーチート操作機能だった。


 空は本来真っ暗だが360°フルスクリーンが濃紺映像で各機体の輪郭を表示させていて、状況がよく分かる。


 あの秘匿飛行の変態飛行編隊飛行から横一直線のアブレスト編隊になる。


 ただちょっと変わっていて、貨物機の主翼の後ろにそれぞれの機体が2機1組で並んでいた。


「うーん、わからん。空中給油の飛行に似てなくもないけど……」

「これより燃料補給を開始する。くれぐれも操縦桿に手を触れないように」


 厳かに宣言するリディア大佐だけど、はっきり言おう。


 目の前の貨物機からはドローグホースという戦闘機に燃料を送るホースがない。

 

 ――――つまりこれは


「ゲーム的にこの体勢でフラグが立って、へい燃料補給終了! ってことか!!」


 いかにもゲームらしい!


 確かに過去の【FAO】ではグラフィック技術の未熟さからそんな感じの形だけでの燃料補給があったはずだ。


『そんなわけあるはずないでしょ』

「ロシアの友人が協力してくれるんだよ」

 

 機械からの突っ込みと平静に注釈を入れるリディア大佐だった。


 しかしだ、あえて言わせてもらえばロシアではなくルーシ連邦という、設定を崩さないでもらいたい。


 ゲームの設定とは重要なんだよ。


 大体、インドじゃなくてインドミタブル共和国とコントロールパネルに表示されているではないか。


 ちゃんと正式名称で言いなさいよ。


「……んで、そのロシアの友人がどうやって燃料補給してくれるんですかね」

「上だ」

「上?」


 半ば投げやりのおれにバイザー上の大佐は律儀に人差し指で上を指した。


 釣られて上空を仰ぎ見る。


 濃紺色の夜景に8つのカーソルが点滅している。


 すぐさまスクリーンにサブウィンドウが開き拡大画像が表示された。


「ん? んん? これは……、飛行機……、いや、人間か?」


 人の形のシルエットだが背中には大きな翼を広げている様に見える。


 徐々に画像が鮮明になると、間違いなく背中に翼を付けた形式不明の重装備をした人間達が降下してきていた。


「あ、これあれかー、ウィングパックってやつか」


 ウィングパックとは背中にカーボン製の翼を背負って(装備して)身体の向きを変えるだけの直感行動で飛行する金持ちの道楽装備のことだ。


 しかし、侮るなかれ、ちゃんとジェットエンジンを搭載した立派な飛行装備で、あのドーバー海峡を越えた記録を持ち、しっかり軍用開発もされているやつだ。


 その装備をした八人の人間が下降してくると、綺麗に二手に分かれて、それぞれ右翼と左翼の下面に潜り込む。


「友人って、こいつらのこと?」

「ああ、共に戦ったことのある特殊部隊の隊員達だ」

「え? 戦いって、え? それマジもんのリアル世界の実戦の話?」

「そうだな、そうなるな」


 今さら別にリディア大佐がリアルで実戦経験あると言っても引くことはないが、歯切れの悪い言い方だ。


 どちらにしろ確認のしようがないことなのに。


 その間にも友人ズは器用に飛びながら主翼下面に細工をしている様子。


「それにしてもすげえ飛行能力じゃん」


 おれは素直に称える。


 生身からしたらとんでもない速度なのに平然と飛行しながら、某の作業をしているのだ。


 さすがスペツナズ。


 さすがおそロシア。


『あれはあたしたちが飛行制御システムの同期をやってあげてるのよ』

「おー、なるほど。だから安定した飛行なんだ」


 っち、褒めて損した。


 まあ、いいだろう。


 ぶっちゃけこの超長距離飛行は何にもすることがないので、友人ズの行動観察は絶好の暇潰しになるし。


 じっと見ていると、どうやら彼等は貨物機の給油口を弄くっているようだ。


 風圧避けなのか主翼下面に淡く光るスクリーン(凄い気になる)みたいのを取り付け、何やらごつごつとした部品をどんどん組み立て(取り付け?)ていた。


 てきぱきと作業を続けてた友人ズの一人がくるりと振り向き、リディア大佐の搭乗機に合図を送る。


「準備が完了したようだな」

「ん、え? これで」


 どうやらおれの予想外の何かが始まるようだった。

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