MISSION 24. 空中給油?


「これより無線封鎖を解除する。お目覚めか、アゼル?」

「…………ログインしても長距離飛行中というプレイヤー生殺しゲームとかksg」


 わずかなな望みを胸にゲームに戻ってきてみれば、やっぱり長距離ミッションのままなので愚痴がこぼれる。


 おまけに夜間になってたようで、見慣れた青空はどこかへ消え去り、360°フルスクリーンは無味乾燥な真っ暗闇を映すだけで面白味は皆無だった。


 ただいま絶賛夜間飛行中。


 かろうじて頭上の民間貨物機の翼端にあるナビゲーションライトで全容がわかるくらいの視界しか確保されていない。


『いま夜間モードに切り替えるわ』


 人工頭脳SBDがバイザーに登場すると、すぐさまフルスクリーンの露光調整が働き周囲の全容が分かりやすく表示される。


「そろそろ燃料補給ポイントに到達するからな、無線解除はそれが理由だ」

「おー、なら燃料補給中だけはフリートークの時間ってことか」


 バイザーにリディア大佐が映し出され、コントロールパネルには飛行ルートが表示された。


 ルート上で印が点灯しているところが補給ポイントなのだろうが…………。


「ん? この頭上の貨物機の進路が北北西になってるけど、次の乗り継ぎ予定の旅客機とルートめっちゃずれてね?」


 そんなフリートークの前に、挙動のおかしい貨物機が気になる。


 今までの飛行ルートを辿ると、それぞれ民間の貨物機や旅客機が交差するポイントで腹に潜り込んでいた。


 それゆえにルートがジグザグしていたのだが、今回はまったく交差していない。


 せっかく飛行ルートを探られないような航法だったのに、長くない距離だとはいえ軌道上の監視衛星からは丸見えになるんじゃないか?


「こういう小さなミスが大きな失敗に繋がるんじゃないの?」

「きみの指摘はもっともだ」


 その指摘にリディア大佐は頷くと共に、小さく口角をつり上げた。


「だが安心してくれ。これも作戦のうちだ」

「いやまあ策があるならいいけど、ほら、燃料もやばめだし、なんなら空中給油が必須な気もするけど、そもそも空中給油機なんてもんがこの辺にいたら間違いなく捕捉されそうだけどさ」


 コントロールパネルから地図を呼び出し縮小すると、この辺りはアフリカ大陸南端で、飛行予定ルートはインド洋へと伸びている。


 しかし、問題はいま指摘した乗り継ぎと、燃料補給だ。


 特に燃料のほうは心許なく、このままではインド洋へ出たあたりで底を尽きてしまう。

 ドロップタンクもとっくに使い切っていてすでに廃棄されていた。


『燃料は頭上の貨物機から頂戴するのよ』

「……なんて?」

『だから燃料は頭上のポーランド籍の貨物機から頂戴するの。南アフリカ共和国から飛び立ったばかりだから、あたしたち4機分を満タンに出来るわ』


 めちゃくちゃ満面の笑顔で片目を瞑る人工頭脳SBD


「何そのゲーム設定。飛行中のただの貨物機に空中給油できねえだろ。もう絶対フライング・ブーム付いてるわけないしドローグホースだって怪しいじゃん。まあこっち側には空中受油プローブはあるけど」


 空中給油機からの燃料補給は、自前の燃料から供給するものだ。

 民間の旅客機であればタンク容量も大きいので適任だ。

 機種によっては後付けのオプションで別口の給油もできるあるそうだが、そういったのは特別な作戦機用なのだろう。

 その辺はおれもあまり詳しくない。


 また、その性質上、専用機をつくるまでもなく、前途の通り民間旅客機、貨物機を改良して転用するケースがほとんどだ。


 細かく言えば輸送機用の給油機設備セットみたいのもあるし、戦闘機同士のバディ給油なんてものもある。


 今回は明らかに関係なさそうな民間機な気がするので、どういう段取りでやるか謎だ。


 大体、ジェット燃料は軍用と民間用とでは違うはず。


 違うといっても添加剤を加えて引火点を上げてたり、静電気を防止しているだけだが、そのだけといのがミソだ。

 民間の引火点40度が軍用では60度くらいになっている。


 また、ジェット燃料はよく静電気を発生させるので、いくら引火点を高めにしてもバチバチしてればアウトだ。


 まあ、要するに火災に注意しているというわけなのだが……。


 うん、この辺の知識はミリオタ(アイドルのほうではない)のおれだから語れるわけできもくてごめんなさい。


「大丈夫だ。燃料補給についてはわたしの伝手でな、ロシア空軍に協力してもらっているんだ。多分、きみは燃料規格のMIL-DTL-83133Hを指しているのかもしれないが、その心配もない。ついでにこの秘匿回線もロシア軍のを借りているから暗号強度も高い」


 通信機から頼もしいリディア大佐の声だけど…………


「ほー、なんかもっともらしい言葉だけど、ロシア軍ってなるだけで怪しげだし、いくら軍の回線っていっても傍受されちゃ意味なくね?」

『馬鹿ね、軍の回線なんて傍受されるが当たり前という前提で成り立っているのよ。この秘匿回線だってもちろん超凄い暗号強度よ』

「傍受される前提なら暗号だって破られるもんだろ?」

『もちろんいずれは破られるけど、そうね、少なくともこの回線なら24時間は大丈夫じゃない?』

「ほら破られるじゃん」


 おれが勝ち誇ったように言うと、人工頭脳SBDのリリィは大層な哀れみの目を浮かべて溜息を吐き出した。


『24時間後にはこの作戦終わってるわよ』

「あ」


 やめろ、そんな目でみるな。

 まるでおれが馬鹿みたいじゃん恥ずかしい。

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