MISSION 23. ステルス……ね?
『つまりね、あたしのボディは近接格闘戦重視だからステルスとは真逆の形状なのよ』
「まあエンテ翼と前進翼の三面翼じゃあレーダー反射断面積増大マンだもんな。大体これウェポンベイ廃止して翼下とか普通にハードポイントあるし、ステルスなにそれおいしいの? 的な舐めプ機体と化しているもんな、おまえの
どうもこんにちは、おれです。
いま普通に
見てください、この壮大な青空。
雲一つない晴天で綺麗でしょう?
でも何か暗くないって?
そうですね。
なぜか頭上におっきな旅客機がいますね。
垂直尾翼が接触しそうな距離でくっついてます。
ほら、あれです。
ステルス機能ないんで民間旅客機小判鮫in欺瞞飛行作戦ですよ、はは。
『それについてはあんたが悪いわよ。この機体にしたの、見た目がカッコイイからって選択したんでしょ? 実証機として1機しか生産されていないから苦労したわ』
「見た目は大事。っていうか文句言うくらいなら選択項目に入れるな。プレイヤーが自由に機体選べるのもこのゲームの醍醐味だろ。しかもリアルな話を混ぜるな。おれと大佐と大佐の無人機のプラージャとレジヴィ含めて4機もいんじゃん」
『だからあんたの要望に応える為に追加生産させたのよ。それのせいでスヴェート航空実験部隊は飛ぶ国家予算って揶揄されたのよ』
「はは嘘松。んな金かかってたら会社保たねえっつーの。ユーザーの課金要素ほぼゼロのゲームなんだから」
リリィと軽口を叩きながら改めて機体下部を覗き込む。
愛機のすぐ下にはリディア大佐コントロールの
そして【プラージャ】の下にはおれと同じ通常体勢のリディア大佐、同じく腹の下には電子妨害無人機《エスコートジャマー【レジヴィ】も背面飛行で飛んでいる。
――なにこのお腹と背中がくっつく編隊は? まじもんの変態飛行じゃん?
『少しでも
「ダイヤモンド編隊じゃいかんの? うちらの腕だったらブルーエンジェルスも真っ青な超々至近距離までいけんじゃね?」
『だめね。翼端が胴体からはみ出しちゃう』
「いやこれだって縦に長いし垂直尾翼が旅客機のエンジンよりはみ出てんじゃん」
『うっさいわねー、細かいこといちいち拘ってると女の子に嫌われるわよ?』
「陰キャ引き籠もりに言ってはいけないワードだぞ!」
ちなみにこのやりとりの間、リディア大佐は黙って聞いているわけではない。
そもそも秘匿行動ゆえの無線封鎖されているのだ。
おかげで数時間延々にこのクソ
「憂鬱だ。あと何十時間もこいつと面白くもないお喋りしなきゃならないなんて」
『はい嘘松。口ではそう言ってるけどバイタル判定は嫌がってないわ』
この茶目っ気たっぷりに言いやがる人工頭脳ぶちゅーばーはあろうことかこれでもかと胸を寄せてバイザー上で迫ってくる。
「で、その国家予算でこの機体はどれくらい凄くなってんの?」
全力の鋼の意志で平静を装い遠い目をして話を逸らすおれ。
『そうねえ……。例えばこの機体にはステルス機能はないけど、視覚的ステルス機能は追加できたわ』
「視覚的……? え? それって、光学迷彩みたいなやつ?」
『ご名答』
「マジか!?」
歴代の【FAO】では敵機としてそれなりに登場してきたステルス戦闘機。
それにプラスして光学迷彩仕様による視覚では見えないタイプの敵機もあった。
まあ、大抵はよくよく目を懲らすと歪に歪んだ空間が動いているので、目視下で対応は可能だったが、当然、レーダーには映らないため、一度見失うと大変だった。
なんたって攻撃されるまで気付かないからね。
とはいえオプション購入やリザルト報酬で追加できるレーザー測距儀を搭載していれば近接格闘距離であれば探知可能だったから問題はなかった。
あとはスコドロ組んでれば友軍機や早期警戒機からの戦術データリンクシステムで探知外からの捕捉も容易だったから、他のプレイヤーとかもなんなく対処していた。
やっぱり現代の航空戦はシステムネットワークの戦いだよね。
と、当時のぼっちソロプレイヤーのおれにはできなかったなと感傷に浸る。
「まさかプレイヤー側にも実装されるだなんて、さてはアクティブ人口減って焦っているな運営め」
『でもこれ現在普及しつつある量子ステルスとは違っているのよね』
「それって北米の会社のやつだっけ?」
『そうよ。もしかしたら向こうで遭遇するかもね。本物のステルス機と』
「さらりと恐いこと言わないでくれる?」
合州国本土だし一応、戦時下だし間違いなくステルス
リアル世界の模擬戦においては圧倒的な勝率を誇る驚異のキルレート100対1。
無敵じゃん。
ゲームでも何度か相まみえたけどNPCとしてだから難易度調整されていて強いとも思わなかったが、これは最新作だ。
ランカーでも搭乗していたらかなり苦戦しそうである。
『あんたもそのステルス機と同じようになるんだから、相手からしたらもっと恐いんじゃないの? 知らんけど』
「搭乗する時に機体周囲をざっくり見たけど、なんか変わっている様子はなかったぞ。ちょっと後部についていたアレは気になったけど」
もしかしたら機体後方下部に付いてたアレは最初から装備されていたのかもしれないが、端っからそれはないだろうと否定していたから目に入ってても気付かなかったのだろう。
とはいえ、おそらく何かしらのミッションでアレを使う時がくる可能性はある。
『外装は変わっていないでしょうね。だってこれ塗料だもん』
「なんですと??」
『これ、透明ナノ結晶が含まれた耐熱塗料なんだけど、ナノ物質の結晶が光の反射を制御しているのよ。様々な波長に合わせてナノ結晶格子が即調整して光反射を変化させるから、どんな環境下でも周囲の
「なるほど、さっぱりわからん」
どうやらリリィくんはおれに分かるように原理を説明してくれているようだが、一介の高校生はナノ物質なんてもんは授業で詳しく習わない。
多分。
学校行ってないから知らんけど。
『例えるならカメレオンよ』
「……なに? カメレオンってあのカメレオン?」
『爬虫綱有鱗目のカメレオンね。スタニスワラ博士って良く言うと自由な発想者だけど悪く言うとケチケチのドケチ、というか省エネ思考の人でね、光学迷彩を開発するのもわざわざ光の波長を湾曲などカメラレンズ大量につけるなどの資源の浪費に言語道断ときて、天然に存在している先輩を見習えってことで、カメレオンの擬態を真似たのよ』
「…………うん、まあ。その発想は確かになかった」
けど、
よりによってカメレオンの擬態技術がおれの愛機に付与されているとかって。
「最新鋭の斜め上を行ってんなこれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます