MISSION 20. 性能だけは……


 おれは渋々ながらこの破廉恥なスキンスーツに腕を通すが、どうにもこれは恥ずかしい見た目になるに違いない。


 新世紀なにがし君のあいつはよく平気でこんなの着たな。


 こんな姿を同級生に見られたら、ただいま思春期ボルテージマックスのおれには死にたくてたまらないぞ。


 運悪く女子にでも見られてら自殺する自信はある。


「大体、これで航空生理に対応できんの? 絶対G軽減ないだろし低酸素は……、酸素マスクで充分だし、利点なくない?」

『これの正式名称はニューラテクトパイロットスーツNTPS。れっきとした軍用に開発されたものよ』

「ん? なんて?」


 舌を噛みそうな大層な名称を付けているようだがマンガアニメ感を拭えない。


 VRMMOをやっているおれが言えたモノじゃないけど。


『NTPSは特殊繊維による三層構造で設計されているわ。一層目は耐水耐弾性仕様、二層目で保温保冷性を備えて極環境での生存率向上、本命の三層目は888個の極細マイクロチップと多重毛細光センサーを織り込んだシステマチック繊維よ』

「なるほど、さっぱりわからん」


 特殊で凄いのは伝わってくるが、具体的な効果はぼんやりとしか伝わらない。


 とりあえず暖かい仕様なら高々度でも安心かな?


『リディア大佐の説明でなかったかしら? HMDローシュからSモジュールを通して無人機を操縦しているくだり』

「あ~、なんか脳波コントロールしているSFな世界の話か?」

『SFってほどでもないわ。108のモニター計測で操縦に関わる事象関連電位パターンを蓄積させただけだから、その行動をフィードバックさせるだけで操縦させることくらいは可能よ。ただ、あんたのような戦闘機動マニューバは難しいけど』


 リリィの説明を聞きながらスキンスーツを着込んだが、ロッカールームの備え付けの姿見をちらりと見てため息を吐き出したおれ。

 

 うん、これは上にフライトジャケットを羽織ろう。


 やっぱりこれ、だいぶ恥ずかしいぞ。


『あたしの人工頭脳基礎はリディア大佐の膨大な実証実験による事象関連電位データから造り上げられているわ。だからあらゆる脳波パターンで身体の特定部位を動かすことぐらい簡単なの。意識喪失したパイロットの脳に特定の電気刺激を与えて手足を動かすことなんて造作もないのよ』

「ないのよ。じゃねえよそれ! やべえ機能じゃんそれ!?」

『その機能があったから低酸素症で失神したあんたを救えたのよ?』

「まさか、プレイヤーを操る機能……、え、おれが失神した時におれの腕を操って操縦したとか、じゃないよね?」

 

 おれは怖々と身を縮ませる。

 もはやプレイヤーいらねえじゃん。


 とうとう世界は人工頭脳、すなわちAIに席巻されていしまう時がきたようだ。

 この先、人類はたたAIに怯えて暮らすことしかできない。


 だが、安心しろ。

 このおれがAIどもの好きにはさせない。

 そう。

 ここらからおれを筆頭に人類の反撃が始まるんだ!!


 まあ、すべて仮想世界というゲームの話だけどな!


『あたしに疑似脳波強制システムは作動できないわ。権限を持つリディア大佐から許可が下りない限り使用不可能よ。ただ、あの時はバイタル反応異常によるパイロット意識喪失反応が検知されたから使用許可が下りたの。それで急降下する機体の操縦桿を水平に戻してリディア大佐の脳波パターンによる神経伝達回路を模倣しHMDから電気信号を送ってあんたの左手を操作して酸素マスクまでつけてあげたのよ』

「……ゲーム内設定とはいえややこしいシステムだなそれ。まあ公式設定資料で世界観とか技術説明で知るような情報か」


 でも――――


 プレイヤーがゲームに操られるってやばいように見えて、実は色々なゲームで実装されている機能だ。


 例としてはオートバトル機能がそうだろう。


 周回ソシャゲにもあるように、プレイヤーに単調な作業を苦痛と感じさせないようにゲーム操作性をシンプルにする。


 あらゆる娯楽コンテンツが揃っている現代では、ただユーザーに苦痛を与えるゲームは流行らない。


 簡単お手軽機能を実装し、なおかつほどほどの難易度でイベントを発生させ、そこで更に楽にさせるために課金要素を入れる。


 どこかの君主がやりそうな、国民は生かさず殺さずで搾り取るという絶妙な塩梅を繰り返す。


 その中でも【FAO】は完全なるプレイヤースキル性で、操作は複雑、高難易度ミッションばかり、オートバトル実装不可能ゲーだ。

 そんなものを実装した暁には即撃墜退場待ったなしな機能だろうよ。


『ちなみにパイロットが復帰しやすい仮想キャラクター付与も設定されてるわ』

「…………だからあの時にこうなったのか」


 あのツンデレ的な罵声があったからこそ意識を取り戻せたかもしれない。

 なんとも優秀なパイロット補助システムだ。


『話を戻すけど、このNTPSの神髄はパイロット反応速度の更なる向上を目指している点にあるわ』

「ほうー、それは興味深い」


 おれはロッカールームから出て早足で外に駐機されている愛機へと向かう。


 もちろんしっかりフライトジャケットを着てね。


 海外サイズはでかいけど今はこの大きさが有り難い。

 こんな恥辱にまみれた格好マジ勘弁だったから。


 しかし、大佐もよく恥ずかしくないものだと一瞬思ったが、あれはきっと育ちの環境が特殊すぎて常人の価値基準では計り知れないものとして割り切ってやらねば。


 だってぶっちゃけ正視できないけど、本人が気にしてない素振りなので堂々と見てやらないとね。

 

 そこにやましい気持ちなんて一切ないからね!

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