MISSION 18. おれTueee?


 リディア大佐の言う通り、ユリアナ基地への空襲がぴたりと止んでしまった。

 スクランブル配置に就いたスペシャルフォースのランカー達は、束の間の平穏に人心地つける貴重な時間であろう。

 今頃、ブース内で他のプレイヤーと情報交換などの交流に勤しんでいるに違いない。


 ――――まあ、おれはぼっちを極めたロックな人間だけどな。


 しかし、それにしてもだ。


「おれの夏休みを返せ……」


 白く塗装された我が愛機の、パイロットに優しいリクライニングシートになっている座席に身を任せて思いっきり欠伸をかみ殺してやる。


「背もたれの角度がGで自動調節されるっていってもね、その恩恵にまったくあずかってないのよksg」


 今日も青空が眩しい。

 赤道近くの南海にあるユリアナ基地はリゾート日和だ。


 ゲーム内の開戦以来、ユリアナ基地はそれこそ激しい攻撃に晒されたが、それが嘘だったかのように敵が現れない。


 しょぼい腕のスペシャルフォース機や、ほぼNPC扱いにしているユリアナ航空部隊にとってはいいかもしれない。

 

 が! 


「ま・じ・で…………、なんなん? 運営? 詫び石はよ。敵が来ないんだったらこっちの番だろ、攻撃ミッションまだかよ」


 もちろんこのゲームにガチャのような石はない。

 プレイヤースキルが物を言う実力至上主義のゲームだ。

 アイテム課金による武装追加や遊び要素のカラーリングくらいだksg


 いや、こんな課金要素はどうでもいい。

 ドッグファイトはどうしたこら!


 なんでメンテ待ちみたいに何もできないんだこら!


 早く敵と戦いてーんだよ!!

 

「生粋のゲーマーからスコアを取る機会を減らすとは運営は何を考えているんだ!」

 

 この束の間の平穏ではスコアがまったく伸びない!!


 ミッションが全っ然発生しない!!!

 

「っつか何で他の地域ではミッション連発してんだよ」


 おれは手にしている専用タブレットをガン見する。

 ランキングを眺めれば北部戦域のプレイヤーが徐々にスコアを上げていた。


 まだ差が付いているとはいえ、万が一抜かれたりでもしたら悔しい。

 悔しすぎて枕を濡らす羽目になる。


『何言ってんのよ。こういう時を使ってあたしのアプデが出来るんだから、ちょっとは感謝しなさいよね』


 鮮やかなツインテールを揺らした人工頭脳SBDのリリィが、なぜか白衣と黒縁の眼鏡をかけてカルテを持ちながら喋りかけてくる。


 完全に医者に扮した芸の細かい仕様を見せ付けてくるのだが……


「おまえ、どうなっての?」

『? あんたの頭がどうなってるのよ? 質問の意味的に』


 愛機はこの平穏の間隙を縫って迅速に改良を受けていた。


 主にコクピット周りが中心で、まずキャノピーが分割式の金属フレームへと変わり、視界が映像に切り替わるびっくり仕様と変更されていた。


 視界が肉眼から映像となるのだが、これがどういう影響を与えるか分からない。

 だってそもそもゲームだから視覚はすべて映像だし。


 でも、この外の風景が座席を残して360度すべてがオープンに見られるのは唖然とした。


 これで飛べば座席以外がすべて【空】だ。

 ゲームとはいえ航空生理学をダイレクトに伝える仕様上、多分、めちゃくちゃ恐いかもしれない。

 リアル高所恐怖症な人には絶対できないだろう。

 

 落ちる感覚が視覚と触覚と痛覚で伝わるんだもん絶対こわいじゃん?


「いや、だから、わざわざキャノピーに自分投影させんなよ」

『あんたHMDもグラスもないんだもん。あたし映らないじゃん』

「じゃん、じゃねーよ。うざいから外したのにこうくるとは小癪な機械め」


 まあ、つまりこの人工頭脳SBDはキャノピーに自分の全身をわざわざ投影させておれに話しかけているVtuberだ。


 しかもこっちから見ると座席の周りをふわふわと浮かんでいる。

 風景とちぐはぐすぎて最早何も突っ込めない。


「いやもうアバターで登場しちゃえばいいじゃんメンドくせ」

『ゲーム内設定を崩せないわよ。あくまであたしはパイロット補助システムの人工頭脳なんだから擬人化なんて作画崩壊もいいとこよ』

「チョイスする言葉が違うんだよな~」


 変なところで律儀な人工頭脳SBDなんだよな。


「大体、アプデの内容を当事者のおれが知らないんだけど?」

『機体の細かい仕様向上をあんたに伝えたって仕方ないでしょ』

「なんでだよ。パイロットだったら知ったほうがいいだろ」


 おれは思わずむっとする。

 こいつ最近、おれを馬鹿にしてないか?


『あんたの操縦技術に対応する為の仕様変更なの。現行機だと力不足なのよ』

「…………え?」

『リディア大佐と協議した結果よ。あんたの腕は至高の領域にあるの。でも機体とあんた自身の身体がついていけない。だから、それに合わせてまず機体の調整を図ってるの』


 これは……、あれか?


 おれめっちゃ賞賛されてたってこと?


 見てくれだけは可愛い人工頭脳SBDと、文句なく美しい西洋人形ビスクドールのリディア大佐に??


『…………急に気持ち悪い顔してどうしたの? バイタルも若干、乱れてるわね』

「いや、別に…………、その……、なんでもねえよ!」

『? 変な人ね、あんたって』


 おれの顔を見た人工頭脳SBDのリリィは怪訝な表情になっている。


 なんかツンデレみたいな反応になって自分でも気持ち悪いと思うが、


 まあ、あれだ。


 誰だって不意打ちに弱いってことなんだよ。

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