MISSION 16. 人はそれを変態と呼ぶ
「おかしいな。わたしもFAO製品版はおろかβテスト、というより開発段階のほとんどに関わっていたのだが、そのような飛行オブジェの存在は不可解だ。少なくともわたしは遭遇したことはない」
『同感ね。少なくとも
白金が頷けば翠色もツインテールを揺らす。
「いやいや、そんなこといってもいたもんは仕方がないし、俺はそいつとの追いかけっこに夢中になったから上手くなったんだと思う。っていうか他のプレイヤーの目撃情報もあったのにリディ」
途端にリディア大佐の鋭い視線が貫通した。
「……リンなら多分、簡単に出現条件を満たせたはずだけど」
「
『おかしいわね、一定数のプレイヤーが存在を確認しているのに
「まあ、とにかくきみはその『遊び』で偏差射撃の技術を磨いたのだな?」
あっさりとドラゴンの存在を棚に上げたリディア大佐は、語気を強めて再度確認するかのよう聞いてきた。
「そうなる、かな」
ちょっと威圧されながらも俺はゆっくりと頷いた。
リディア大佐はそれこそ、大きく長いため息を吐き出して力なく呟く。
「きみは、そうなると、天才的な射撃センスの保持者だな。本職の軍人、戦闘機パイロット達の指導教官になれるぞ……」
「褒めすぎじゃね?」
間髪入れずに俺は言い返す。
流石にそれはない。
ジェット戦闘機のパイロットなんてエリート中のエリートだ。
陰キャ引き籠もりの俺の遙か上、カーストナンバーワンの神に匹敵する。
なんたって俺は学校サボりがちのゲーマーだからな、えっへん。
『あのね、一口に偏差射撃って言っても
一気に捲し立ててくるSBD《人工知能》が恐い。
「恐いとはきもいって意味でだが」
『あんたいまなんてった?』
「ごめん心の声が口に出た悪気はないでもオタクのようにわたし頭いいでしょ的な言葉を羅列されるとなんかきもくて」
『あ、なるほど。あたし喧嘩売られたのね? 今度、三〇〇〇〇フィート超えたら酸素止めるから』
「おいそれはまずいだろ。すぐ失神する。下手したら死ぬ。ゲームだけど」
リリィと下らない言い合いをしている間、大佐は考え込むように呟いた。
「きみの常識外で正確無比な偏差射撃で敵機を一発で仕留めているのはウェーブ1で承知していた。だがウェーブ6都市上空戦での戦果は未だに謎だ。わたしも参加していたが大多数の敵機との戦いにエイリアンの母船に近付くことすら出来なかった。他のプレイヤーだってそうだ。なのに、きみは、単機で突入して撃墜スコアを異常に稼いでいる。わたしははっきり視認したんだぞ? 100機余りに追われていたきみが都市の高層ビル群に急降下で逃げ込み数分と立たずに崩れ落ちるビル郡からたった1機、きみだけが抜け出してそのまま母船の中へと突っ込むところを」
「あ~、あれね~。まあ、あれを話したところで誰も信じないと思うけど……」
俺は言葉を濁そうとするもリディア大佐の真剣な眼差しがそうはさせてくれない。
別に自分の技量をひけらかすつもりはまったくない。
こういうのは自慢したところでうざがれることを知っていた。
ただ、リディア大佐の雰囲気は、純粋に知りたがっているだけと感じる。
そこにからかうとか馬鹿にするような気持ちはない。
「あんたよくこれだけのUFOに追われて撃墜されなかったわね」
ログでも漁っていたのだろうリリィも疑問符を口にした。
「え? いや、それおまえ自分で言ってたじゃん」
「何の事よ?」
「偏差射撃はAIでも難しいんだろ? 何十何百に追われようがレーザービームは真っ直ぐにしかこない。射線が重なった時だけ気をつければ当たらないし、そんなのもう弾が見えてると変わらない。真後ろを取れるの1機だけ、他は金魚の糞。真後ろ取れてないやつのたまたま照準に俺の機体が入ったところで未来予測が出来ない限り当てられないだろ」
はい論破と言わんばかりに鼻を鳴らしたが、人工頭脳は珍しく噛み付いてこなかった。
「確かに……。あんたよくその発想に至ったわね」
「えー、いやこんなの、第二次世界大戦時のエースパイロット達の手記に載ってるぞ。ハイテクばかりに頼ってちゃ駄目だぞ? ベトナム戦争んときのミサイル万能論の二の舞だからなそれ」
「なんかムカツクわね。それで? その回避技術でどうやって群がるUFOを撃墜したの? 機体の後ろに機銃でも付けたってわけ?」
多少、棘のある口調の人工頭脳だがここはおあいこにしよう。
「ドラゴンと遊びで思い付いたんだけどさ、『FAO』の作り込みって開発者の執念を感じるほど細かいじゃん? 各戦闘機の装甲厚から燃料の配置、各部位の損傷率からの飛行能力低下の再現も半端ないじゃん? 俺がロシア製の戦闘機に拘るのもさ、アメリカ製だとガトリングだから射撃ボタンからの実射撃のレスポンスの悪さが嫌でロシア製にしているくらいじゃん?」
「あんた前置き長いわね」
「重要なことなので長々の説明なんですー」
いちいち突っ込んでくるぶいちゅーばーもどきに舌を見せる俺。
「……きみの機体、わたしの機体もそうだが、
リディア大佐が何かに感づくが言い淀んでいる。
その気持ちは分かる。
だから言ったろ?
誰も信じないことだって。
「体当たりだ」
もちろん、この俺の一言に二人は沈黙を貫く。
「な、な、な……。非常識! あんたそれ非常識よ!? え、なに? 馬鹿なの? それ頭おかしいわよ、ほんと医者いって頭蓋骨開いて脳診てもらったほうがいいわよ!」
おーおー、さすがゲーム内設定のパイロット補助システムプログラム、ユーザーインターフェースだ。
非現実的なことに関しての拒否反応が凄い。
「まあ、まともにやったらただの自爆行為だけどな」
「まともな体当たりなんてないわよ!」
「……なんでそこだけは的確に突っ込めるんだよ」
至極まっとうな反論に脱帽だ。
「タイミングがあるんだよ。捻り込んだ時に相手も付いてくるだろ? オーバーシュート気味にして自機と敵機を一瞬にして近付き、主翼の先でこつんと叩く。すると相手はあっというまに失速してきりもみに入って墜落する。ましてや亜音速で高層ビル群との舞踏会だ。面白いように決まって墜としまくったな」
多分、俺のその挙動をNPC機ともいえるUFOに何らかの『混乱』を与えたのだろう。
あるいは『攻撃』と勘違いし、回避運動をしたのかもしれない。
大半は体当たりではなく挙動を乱して自らビル郡に突っ込んでいたけどね。
「最初は当たり判定で即自爆かなって思ってたんだけど、頑丈で剛性に優れた箇所ならばとやってみたら成功したんだ。いやもーあん時は機関砲の弾も僅かでクリアできないんじゃないかと思ってたけど運良く母船の入り口も開いて中に進入出来て良かったよ。後は中の弱点らしきエンジン部分? を撃ち抜いてはい終了」
あっけらかんに笑う俺を尻目に、リディア大佐の疲れた表情が人工頭脳と向き合い、それはそれは深い溜息を付いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます