OFF MISSION 2. クソ仕様だろ
冷蔵庫を開けれていつも常備している麦茶をコップに注ぎ、一息に飲み干した。
目を覚ませば相変わらずの凶悪な朝日で部屋は蒸されていた。
エアコンの故障がそれに拍車をかけているようで、これでよく熱中症で死なないなと自分の頑丈さに驚く。
でも、まあ喉がからからに渇いてはいるので、一応は人間として当然の生理機能は備わっているようだ。
人気のない家のリビングで椅子に座り、エアコンを付けようとリモコンを操作してもうんともすんともいわない。
――――ここのエアコンも壊れているとか終わってんなおれの家。
自室やリビングがいつの間にか灼熱の活火山に変貌しており、どんな拷問だよと信じてもいない神様に悪態を付きたい気分だ。
ただ、暑さによる体調の変化はないようだ。
マジで喉が渇いているだけなのだ。
むしろゲームの中のほうが酷い状態だった。
昨日のドッグファイトで吐きはしなかったものの、身体のほうはGの影響をもろに受けていたようで物凄い疲労を感じさせられた。
疲れの概念を忠実に再現されすぎて、帰還した時はコックピットから自力で出れないほど疲労困憊していたのだ。
整備班に担ぎ出され、体力回復用の特殊な医療カプセルなるもの入れられ、そこでログアウトしたのを覚えている。
まったくもって信じられないクソ仕様である。
現実に戻ってくれば疲れが嘘のようになくなるというのに、この航空生理学をリアルに追及した開発をドM集団と認定してあげたい。
いや、してやる。
てめえらドM過ぎんだよ、だからモテねえんだよカス!
と、すべてブーメランで返ってきて自身もダメージを負うおれのスペシャルウエポンがリビングで炸裂した。
……冗談はさておき、マジでプレイヤーにとっては不要な再現性をパッチで削除してほしいぜ。
修正はよ。
それでもおれは生粋のオンラインゲーマーだ。
この程度のデバフでプレイを投げ出したりしない。
どこぞのweb作家のようにエタらせて止めはしないのだ!
決意新たに、おれは夏休みの期間をすべて【FAO】に注ぎ込むつもりである。
そもそも学校も行ってないので、夏休みが終わろうとも永遠に続けるけどね。
虚しくないよ?
いまは学校より大切な、仲間との熱い想いで敵と戦っているんだからね。
えーと、ほら、なんか空戦に特化したガンギマリのリディア大佐さん。
見た目は美少女、中身は……たぶん、女の子だ。
だって【FAO】のアバターはリアル容姿設定されるから。
それなのに女子との会話が小学校低学年以来なおれが、あんなに長時間トークできるとは思わなかった。
なんかこうリディア大佐さんは話しやすい。
別に男勝りとかじゃなく、たぶん女子女子してないからだろうか。
分かるかなこの感覚?
とてつもない美少女なんだけど、接しやすいというか親しみがもてるというか、とにかく会話に気を使わなくて良いのがいい。
リディア大佐さんのリアル事情がどこまで本当かわからないが、軍事に詳しいところとかで気が合うのかもしれない。
反対にユリアナ基地で会った、金髪ポニーテールのミルドレッドさんのほうがまさに女子って感じだった。
しかもこちらは正真正銘の軍人というのだからびっくりだ。
ただ、あの短い会話の中でも話しやすいかといえば、そうでもなかった。
終始緊張しっぱなしだっとのは覚えている。
ミルドレッドさんも、もちろん美少女の部類にランクインしているので、おれのカーストランクからすれば本来は雲の上の存在だ。
だから緊張するのも当たり前なのだが、じゃあリディア大佐さんとの差はなんだと言われても返答に困る。
もしかしたら以前、ゲーム内で仲間として共に戦った、戦友バイアスというものがあるのかもしれない。
これでも【FAO】歴は長いのでネットのフレンドはいる。
もちろんリアルでの付き合いもオフ会もないし、誘われたこともない。
ただ、もしかしたらそのフレンドたちだったら、今作のリアルアバターで流暢な会話が可能な気がする。
例え相手が女の子だったとしてもだ。
だる絡みしてくる人工頭脳のリリィの補助もきっとある。
なんたってパイロット補助プログラムだからね。
成長要素があればきっと会話の合いの手だって入れてくれるはず。
っていうかおれランキング一位よ?
これから先、色んな人間が間違いなく絡んでくるはずだ。
今作の異常な自由でリアルな仮想世界は、ドッグファイト以外の交流を重点しているかのように感じる。
たぶん、この先のミッションで仲間との共闘が必然となる布石かなにかに違いない。
とすると、他にもいっぱい女子プレイヤーとフレンドになれる……
いや、ないな。
【FAO】のプレイヤーのほとんどが男だ。
逆にリディア大佐さんやミルドレッドさんが珍しいほう。
フレンドっていったって、どうせヤローばかりなんだぜ。
ちょっと期待したおれがバカだった。
ふっ、みじけえ夢だったぜ。
「さてと」
おれは水分補給を終えてリビングを出る。
ランキング一位を保持するという真面目な目標の為、休息もそこそこに再びログインしようと自室へと戻った。
HMDを被り、準備完了とばかり電源を入れる。
『Mission start?』
『Tallyho!』
威勢良く言い放ったおれだが、そんな言葉でログインできるはずもなく、ログに表れた開始ボタンをそっと押したのであった。
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