MISSION 1. ランカーはお得
少年がハマり続けたゲームに『
記念すべき第一作目はPCソフトで発売され、基本無料のオンラインフライトシューティングゲームで、当初からリアルさを追求された仕様としてコアな人間達から圧倒的な人気を誇っていた。
現実世界と変わらない戦闘機に乗れ、弾薬等も現実に即した数しか搭載されず、かなりシビアな設計だった。
これを開発した会社のモットーは、
『現代の航空戦にドッグファイトは起こりえない。パイロット達が己の技量のみで渡り合った空中戦は古き良き熱い時代であり、今はシステム対システムの戦い、優れた対空監視レーダーで相手を見付け、長距離ミサイルを放って離脱。撃たれたほうも自国の管制より警戒を受け転回し、ミサイルの燃料が尽きるまで引き離すという、夢も希望もあったものではない戦い。そんなつまらない空中戦を我が社は提供しません。仮想世界で行うドッグファイトを貴方に提供します』
ということらしい。
その仕様により大衆的には成れず、他のMMORPGに押されながらも、一部の熱狂的な支持によって続編が次々と発売され、その度に少年も買い続けた。
ちなみにこの会社、母体はロシアにあるモデリング&シミュレーション《M&S》を手がけるスタニスワラ社であるらしいが、ゲーム業界では聞いたことのない企業で、いわゆる新参者扱いである。
フライトシューティングゲームなのにムービーや演出に定評がある『FAO』がマイナーイメージを払拭できないのは、主にそれが理由だろうか。
大体、ライトユーザーがM&Sの意味を知っているとも思えないので、やはり仕方のないことなのだろう。
ちなみにM&Sとは、現実の戦争を効率よく低コストで訓練させるシミュレーションゲームみたいな代物で、軍独自で訓練ツールをつくるより民間に任せたほうが安い、という需要から成る軍産企業なのだ。
つまり、軍隊向けに開発したフライトシミュレーターであるが、それを民間用の商業アイテムとして売っているのだ。
さすが、おそロシア、である。
何か色々な技術や機密の漏洩とか心配な部分もあるが、まあ技術は技術者が居ればどこでも作れるだろうし、シミュレーションの内容も軍事機密が含まれるわけでもないから、その辺は割と大雑把なのだろう。
問題は、その最新作となった五作目の『FAO』が、革命的なプラットフォームにてプレイが出来るという名目で発売されたことだった。
専用の|ヘッドマウントディスプレイHMDを頭に被り、プレイヤーを仮想世界に導いて、そこでプレイするというバーチャルリアリティタイプに進化したことだ。
従来のPCモニターだけでは視界の確保に欠け、重力加速度の臨場感も無く、フットペダルやラダーペダルはもちろんのこと、スロットルレバーすらない中で、別売りのジョイスティックのみでの
それが|ヘッドマウントディスプレイHMDを装着した途端、首を振るだけで上下左右、後方に至るまでコックピット越しに視界が確保されるのだ。
操縦系統も機体によって寸分の違いなく再現され、今まで実現出来なかった
ただ、激しい
仮想世界といえど脳波コントロールによる安全管理面が厳しく制限されているようで、身体に悪影響を及ぼすことは出来ないということらしい。
しかし、それを差し引いても仮想世界の作り込みが素晴らしく、PvEのキャンペーンモードからプレイヤー同士が空中戦を繰り広げるPvPモード、課金による兵器や兵装の追加によるスコアモードまであり、やり込み要素が半端ではなかった。
おかげでどっぷりと仮想世界に浸かり、気付けばPvP世界ランキング一位となった。
愛機のシンボルカラーであるピュアホワイトと共に『白い悪魔』と揶揄されるようになって、伝説的なプレイヤーに祭り上げられるほどになっていた。
いやほんとこれ多分、想像以上にすごいことなので、褒めてほしいくらいなのだけど、親しい友人が皆無な状況で誰からも褒められない。
……まあ、そんな悲しい現実は横に置くとして。
当然、いいこともある。
夏休み直前のある日のこと、一通の招待状が届いた。
あの『FAO』を産み出した会社の協賛する海外の航空ショー兼ゲームショーの招待券である。
何が嬉しいかって、上位ランキング者は渡航費無料!
すべて会社が負担してくれるという破格の条件なのだ。
無料で海外旅行に行けるし、しかもそれが戦闘機マニアなら一度は見てみたい、実際の戦闘機の
同封されていた手紙には、当日のイベントとして現地で用意されたVRマシンによるイベントバトル開催の旨も記されていた。
参加者全員には新塗装のレジストコードが配布され、イベントバトルの勝利者には航空ショー限定のレア機体もプレゼントされる。
行かないわけにはいかなかった。
『FAO』ランキング一位として、また一人のファンとしてぜひにでも参加したい。
仮想世界の住人がリアルに集うわけだが、正直な話、顔を見られるのは恥ずかしい思いもあったし、ランキング一位がまだ高校生に成り立てと知られれば、からかわれそうな気がしてならない。
だがしかし、招待状を受け取った時点で心は決まっていた。
幸い夏休み期間中は家族恒例の帰郷旅行が決まっていたので、ちゃんと宿題をやるという条件で家に残るという権利を獲得していた。
――――お膳立ては完了している。
パスポートも用意し、必要な旅行用品を揃えれば、後は夏休みを迎えて、航空ショーが開催される大西洋のとある島まで渡航するのみだった。
まったく、今年の夏休みは最高だぜ。
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