第2話 夢の機械

 昼過ぎ、ご飯を食べ終わった頃。

玄関から賑やかな声が上がる。


「おはよー、麗奈!遊びに来たよー!」


 玄関から顔を覗かせるのは、老化抑制手術を受けたかのような若い身体と少女のような顔つきの、

足首まである長い艶やかな白い髪の女の子。

 有り体に言ってしまえば、小学校高学年と低学年の間のような、非常に可愛らしい女の子である。

 髪は金髪、目は碧眼、肌は褐色でみればみるほど成長すれば美人に成るだろうなという感じだ。

まぁ、そんな時は来ないかもしれないが。


「おはようって、もう昼過ぎだよ?」

「あはは~、満ちきれなくって夜寝られなかったからさっき起きたばっかりなんだよね」

「それで寝坊したら意味ないでしょ」

「大丈夫、爺やに起きててもらったから!」

「塁ちゃん、中山さんに起きててもらったの?ダメじゃない、また仕事作って」


 中山さんとは、夏目の家に仕えている、夏目家の筆頭執事のお爺さんだ。


 いつも顔に包帯を巻いていて優しそうな眼差しの深いシワのある、異国の血が流れていて、どことなくアラビアンな顔つきの、怒こると怖い人である。


「えー」

「えー、じゃないよ、まったく」

「でも頼んだら凄く嬉しそうな顔するし、楽しそうに仕事してるから良いんじゃない?」

「確かにそれはそうだけど、それはいつまでも子供としか思われてないってことだよ?

中山さんも塁ちゃんがしっかりしないから、甘やかしちゃうんじゃないの?」


 当人が勝手にやっていることだと開き直る塁に、麗奈は塁の自立を促すべく、塁が中山さんに子供扱いされるのはまるで子供のように迷世話掛けるからだと指摘する。


 それに対して塁は頬を膨らませながら不満顔だ。


「むーっ、なんでさ!私ももう16だよ?いい加減大人だよ、お·と·な!」

「大人は新しいゲームが楽しみで寝れなかったりむーってむくれたりしないよ。それに、なにか用事があったんじゃないの?」


 麗奈は実際の塁の行動を指摘し、ここに来た用件さえ忘まだ聞いていない事を塁に伝える。


「はっ、そうだ!麗奈!部屋空いてる?

メールに書いてたと思うんだけど、筐体が結構大きくて重いから丈夫な広い部屋がほしいんだけど!」

「メールにそんなこと書いてなかったけど?」


 用件を告げた塁に、そんなことは聞いていないがメールの何処に書いていたのか尋ねる麗奈。


 塁は瞬きの間考えを巡らせると、はっとする。


「へ?あっ、書き忘れてた!かも?」

「何で自信なさげなのかな?」

「いや、だって…………」

「はぁ、まぁそんなことだろうと思って、準備してあるから良いけどね…………」


 ふざけた雰囲気もなく問い掛ける麗奈にしどろもどろになっていた塁は喜色を露にする。


「おぉ、さすが麗奈!先生にお母さんって呼ばれて ただけの事はあるぅ!」

「はいはい、そうねぇ~、子供によく間違われる誰かさんのお陰でね~」

「それは、麗奈が色々おっきいし、私の事を子供み たいに扱うからでしょ!だいたい、あの時も麗奈が私の事を子供料金で電車に乗れないか試そうとしたからで………」

「そうだったかな~?」

「そうよ!いつもそんなことばっかり!」


 塁は意地悪に麗奈の学生時代を話す。

麗奈は軽くあしらうように反撃し、持ち出されてきた自身の興味本位の行動を覚えていないかのようにとぼけると、塁はここぞとばかりに責め立てる。


 分の悪いと考えた麗奈は強引に話題を終え

塁は勝ったとばかりに優越に溢れた表情だ。


「はいはい、その話しは今度でねー。

ここだよー、元々は大きいサーバーが置いてあったんだけど、使わないから売っちゃったからスペースはあるし、有線用の工事もすんでるからねー」


 ここは元々とある事情でサーバーを設置していた大部屋で、縦25m、横50m、高さ12mの巨大な地下室だ。


 しかも部屋のあちこちにエネルギーテレポーターと接続したコンセントがあり、何時でもいくらでも電気使い放題になっている。


「うん、広さも回線も十分そうだね」


 そういって塁はパッケージされたモデルデータをデバイスを通して3Dプリント装置に共有し、3Dプリント開始する。使い終わったパッケージデータは、自動で削除される。


「おお、結構大きいね?」

「そんなことないわよ、補助演算機能に第三、第四の脳としての演装置二台、格納された神経接続プローブに、神経性稼働外郭とその中身、神経性シルク、専用変換器、万が一のためデータベースも入ってるんだから、小さめよ」


 その場に現れたのは縦12m、横7m.高さ3.5m程のメタリックで武骨で、大きな、とても洗礼されているとは言い難い箱だった


「中は部屋みたくなってて、装甲とカーボンの外殻で囲まれたなかに生命維持に必要な設備もオプションで入ってるから、流動食と点滴の用意がいらない優れものよ?すごいでしょ?」


 その言葉に呆けていた麗奈が反射的に言い返す。


「何で?」


 それが麗奈の発声できた唯一の言葉だった。

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