第32話 〇〇さんに出会いました!

「改めまして、姉のフローレンスです。」


「あ、俺アラン・バッシュフォードです!アランって呼んで下さい!!」


にこにこにこにこにこ。


あれから姉の誘いで庭にあるガーデンチェアに腰掛けながら三人で楽しくお茶会をする羽目になってしまっていた。

用意周到な姉は、あの大風車にもう一つ手紙を隠していたらしい。

しかも自分には絶対見えず、アランには安易に見つかるような場所にだ!

やられた!と頭を抱えるマクレーンを他所に、初対面の二人はすぐ打ち解けたようで仲良く自己紹介なんぞをしていた。


悪夢だ……。


マクレーンは即刻この場を立ち去りたい衝動に駆られていた。

薦められたハーブティーの入ったティーカップを持つ手が震えてしまう。

天然を地で行くこの姉が、余計なことを言わないかと内心冷や冷やしていた。


「まあ、それではマクレーンとは東の森で出会ったのですね。」


「はい~♪行き倒れていたところをこの”素晴らしい弟さん”に助けていただいて♪」


「まあ!それはそれは、大変な目にお遭いになっていたのですねぇ。」


マクレーンが溜息を吐いていると、二人の会話が聞こえてきた。

自分とアランとの出会った話か、とマクレーンが安堵していると。


「ええそうなんですよ、実は仕事を失ってしまって……。」


「まあ、それは……。」


アランの言葉に過剰に心配そうにするフローレンスに、アランは何故かきりっとした顔になり、彼女の手を取って顔を近づけていた。


「ところで、フローレンスさんは、ここにお一人で?」


真剣な顔で聞いてくるアランの顔が、何故か怖い……。


「ええ、ずっと……。」


「それはいけない!こんな森の中で美しい女性が一人で暮らしているなんて!!」


フローレンスの言葉に、アランはがたんと勢い良く立ち上がると、フローレンスの手を取り真剣な顔で熱弁し始めた。

何やら話の矛先が怪しくなってきたぞ、とマクレーンは内心焦る。

どういうわけか、アランはフローレンスを口説こうとしているらしい。

このままいけば、「あ、俺ここに住むことにしたから♪」と言いかねない雰囲気だ。


それも良いかもしれない♪


ふと邪な考えが脳裏を過ぎった。

しかしその思考を一瞬にして掻き消すと、マクレーンは頭をぶんぶんと横に振った。


いやいやいや、アランさんと離れられるのは良いけど、相手があの人じゃ駄目だ!!


万が一、この二人が一緒に住むことになって、もし僕の事や家族の事を姉さんがぺらぺら喋っちゃったりしたら……。


そこまで考えて、マクレーンはとんでもない!と頭を振った。


アランさんを置いていくならできればここではなくて、もっと森の奥深くの崖にでも……。


と物騒な事をちらりと考えてしまった。

それは冗談として……いつまでもここに居ては、自分の身が危険に晒されてしまいそうだ!とマクレーンは二人の会話に無理やり割って入っていった。


「あ、そ、そうだ!姉さん母さんから渡すように預かっていたものがあったんでした!」


かなり大きな声で言ったためか、それまで姉の顔を見ながらうっとりしていたアランがびっくりしたような顔でこちらを見てきた。

そんなアランには目もくれずマクレーンは肩から下げていたショルダーバッグをテーブルに置くと中から籠に入ったパイとワインを出してきた。

どうやって入っていたんだ?というアランの突っ込みはこの際聞かなかった事にする。


「まあ、お母様のパイとワイン♪」


バッグから出てきたものを見た途端フローレンスは嬉しそうな笑顔になった。


「そうでしたわ、これの事をつい忘れていましたわ。」


恥ずかしそうに笑いながら籠を受け取ると「せっかくですから一緒に食べましょう」と言って家の中へ入っていってしまった。


「ね、姉さん僕は帰りますよ!」


マクレーンは慌ててそう言いながら立ち上がったが、それよりもフローレンスの方が早かった。

どうやったのか、家に入って数秒も経たないうちに、トレーに切り分けたパイと新しく入れた紅茶を乗せて出てきてしまったのだ。


「さあ、楽しいお茶会の始まりですわね♪」


にこにこと笑う姉を見て、これは長期戦になるなと覚悟を決めるマクレーンであった。

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