第33話 ダンスはしませんがお茶会はします
うふふふふふ。
あははははは。
地獄のお茶会は終わりそうに無かった……。
あれからどれ位経ったのだろう。
姉――フローレンス――のお茶会は一向に終わる気配を見せない。
向かいの席に座る藍色の髪の青年の瞳には既に生気がない。
あああああもうっ!こうなるってわかっていたから帰りたかったのに!!
マクレーンは青褪めた顔をしながら本日15杯目の紅茶を口へと無理やり運びながら胸中で叫んだ。
わが姉フローレンスは”無類のお茶会好き”であった。
どこぞの御伽噺に出てくる帽子屋の如くそれはもう何時間もかけて行うほどである。
これに捕まったら最後、彼女が飽きるまで開放されないのだ。
お茶会が進む間、フローレンスがアランに余計なことを言わないように話が逸れるようにしていたのだが。
僕もそろそろ限界だな……。
アランよりはまだ耐性のあるマクレーンはどうやってこの場から逃げ出そうかと先程から模索していたのだが……。
ふと、足元が妙にぬくぬくしていることに気づいた。
何だろうと思い見下ろしたマクレーンの目がみるみるうちに見開かれていき――。
「わあっ!?」
思わず叫んでしまっていた。
マクレーンが見下ろした先には――。
うさぎ?
何故疑問系になってしまったかというと。
マクレーンの足元にはいつの間に現れたのか何種類もの動物達がやってきていたのだった。
足元だけでも兎やら狐やら狸やらがもそもそとひしめき合っている。
「い、いつのまに……。」
マクレーンは引き攣りながら言うと目の前の青年の方を見てみた。
すると案の定周りの異変に気づいたアランが固まっていた。
それはもう見事な程に。
良く見るとアランの背後には鹿や熊までもがいるではないか。
普段は弱肉強食の理に従い喰うか喰われるかの間柄の獣達。
しかしフローレンスのいるこの屋敷では違うようだ。
みな自然の摂理など忘れてしまったかのように大人しく争う気配は無かった。
相変わらず凄いな……。
マクレーンは感嘆の溜息を吐きながら姉を見た。
マクレーンの視線に気づいたフローレンスはにこりと天使のような微笑を向けてきた。
「相変わらず凄いですね。」
「ええ、ここでこの子達の世話をしていたら仲良くなってしまいましたの。」
マクレーンの言葉にフローレンスはふふと照れ臭そうに笑いながら答えてきた。
その言葉にマクレーンは「そうですか」と苦笑する。
お互い笑いあう中、フローレンスが声のボリュームを押さえて聞いてきた。
「ところで、お連れの方はこれからどうしますの?」
「え?」
姉の言葉にマクレーンの笑顔が引き攣った。
「その……できれば一緒には……。」
アランに聞こえないように極力小さな声で言うマクレーンにフローレンスはにっこりと微笑んだ。
「ではわたくしが引き止めて差し上げますわよ。」
姉の言葉にマクレーンの顔色が変わった。
「い、いえ……そこまでして貰わなくていいです!」
「あら、どうして?」
マクレーンの言葉に姉は不思議そうに首を傾げてきた。
「アランさんは何も知りませんし知らせる気もありません、頃合を見て別れるつもりですから姉さんの手を煩わせるほどではないです。」
姉の天然振りを考えると恐ろしくて預けられないとは素直に言えず、マクレーンは至極最もな説明をして姉の申し入れを断った。
マクレーンの言葉に姉は「そう、あなたがそう言うなら仕方ないわね」と寂しそうに言うとしゅんと項垂れてしまった。
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