第31話 ある日森の中……
数刻後――。
マクレーンは指定された場所へとやってきていた。
薄暗い森の中。
その奥の奥に進んだところに広場があった。
人工的に開けたその場所には、綺麗な花が植えられ小さな庭園のようになっている。
薔薇の蔦で作られたアーチの門をくぐると、可愛らしい一軒家がそこにあった。
薄いピンクを基調とした壁に、チョコレート色の屋根。
御伽噺に出てきそうなレンガ造りのその家には、やはり屋根の上に風車が設けられていた。
しかも目の冷めるようなショッキングピンク……。
相変わらずな少女趣味(?)満載の建物を見上げたまま、マクレーンは何故か青褪めた顔をしていた。
「お久しぶりです。」
広い庭の大きなチェリーブロッサムの下――真っ白いガーデンテーブルが置いてあるその椅子に一人の少女が座っていた。
マクレーンはその少女に向かって声をかけた。
少女は持っていたティーカップをテーブルへと置くと、マクレーンを見上げながら蕩ける様な笑顔で微笑んできた。
「御機嫌よう、思ったよりも早くて驚きましたわ。」
少女はそう言うと、優雅な動作で立ち上がる。
長い栗色の髪の毛を一本の三つ編みで束ね、若草色のロングワンピースと白いエプロンを身に纏い大きな麦藁帽子を被った少女がこちらへと近づいてきた。
どこからどう見ても田舎町娘姿のその少女は、マクレーンの目の前までやってくるとまた微笑んできた。
男なら骨抜きにされてしまいそうな、その天使のような微笑にマクレーンは、ぴくりとも表情を変える事無く口を開いた。
「で、なんでこんな所まで僕を呼んだんですか?」
――姉さん。
森の空にマクレーンの言葉が響いていく。
パタパタと飛び立つ小鳥の囀りに、柔らかな風が二人の間を通り過ぎていく。
にこにこと笑顔を崩さない目の前の少女は、可笑しそうに目を細めると、こう言ってきた。
「あら、だってこうでもしないと、あの方を連れて来てはくれないでしょう?」
まるで謎かけの様な物言いに、マクレーンは大きな溜息を零した。
「はぁぁぁぁ、やっぱり……だからあんな、あの人の気を引くような手紙を寄越してきたんですか!!」
撒くのに苦労しましたよ!と不満を言う少年に少女はくすりと笑った。
「ふふふ、ごめんなさいね……でも。」
姉と呼ばれた少女は、そこでわざとらしく言葉を切る。
「上手く撒けなかったみたいですわよ。」
そう言って門の方を見た。
マクレーンも釣られて見ると、みるみるうちに顔が青ざめていった。
「なっ!どうしてここに!?」
マクレーンの叫び声が森に木霊する。
マクレーンと少女の視線の先――。
屋敷とを隔てる薔薇の門の向こうには、撒いたとばかり思っていたアランが、ぽかんとした表情で突っ立っていたのだった。
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