第14話 拾い物温泉に入る

かっぽ~ん。


「ふう・・・・。」


湯煙のぼる露天風呂。

アランは長い手足を伸ばすと、ゆっくりと湯につかった。


「あ~極楽♪極楽♪」


旅の疲れを癒すかのように、首をコキコキと鳴らしながら、ご機嫌な様子で鼻歌を歌いだす。

少し調子外れな歌が、広大な露天風呂に響いた。

しばらくそうしていると、鼻歌に混じってちゃぷちゃぷと湯の中を移動する音が聞こえてきた。

アランは少しだけ鼻歌の音量を下げると、耳をそばだてる。

どうやら、こちらに近づいて来ているようだ。

マクレーンが気が変わって入ってきたのかな?と期待に胸を弾ませ待っていると・・・・。


「あっ!」


驚くような声が聞こえてきた。

その声のトーンにアランは少しだけ落胆する。

マクレーンの声ではなかったからだ。

だが聞き覚えのある声にアランが顔を上げると、つい最近見たことのある色と目が合った。


金と碧。


その見覚えのある色彩に、アランは目の前に現れた人物をまじまじと見上げた。


「あ、あの……先程は……。」


アランの前に現れた人物は、そう言うと深々と頭を下げた。


「ああ、さっきの。」


アランも軽く手を上げながらそう答えたが、それよりなにより目の前に現れた金髪碧眼の人物の姿に興味を持っていかれた。


癖のある豪華な金髪。

少し潤んだ宝石のような碧眼。

肌は陶器のように滑らかで白く。

ほっそりとした華奢な肢体。


どこからどう見ても御伽噺に出てくるような、お姫様のような姿なのだが。

ある一部を除いては違っていた。

ホテル備え付けの高級タオルに身を包んだその胸元が――。


ぺったんこだったのだ!


胸が無いと言うレベルではなく本当にまっ平ら。

自分の胸と同じようなその平坦さに、アランはひと目で目の前の人物が同類である事に気づいた。


「あんたもしかして・・・・男か?」


驚いた表情で呟くアランに、金髪碧眼の人物も驚いたように頷く。


「あ、はい・・・僕は男です・・・けど。」


そう言って恥ずかしそうに俯く人物の下半身を見れば、その中央に不自然なふくらみがある事に気づく。

アランの腰に巻いたタオル同様の形を見つけて、何故か納得してしまった。


「なあ、そんなに上まですっぽり隠してたんじゃ見間違われるぞ。」


俺のようにしてみろよ、と言うアランに金髪の少年は顔を赤くした。


「す、すみません・・・・温泉は初めてだったもので、ちょっと恥ずかしくて。」


そう言って慌ててタオルを巻きなおす少年の姿を見ながら、アランは「あ!やっぱり付いてた」と面白そうに少年を眺めていた。

改めて腰にタオルを巻き直した金髪の少年は、先程よりも随分か男っぽく見えるようになった。

少しはマシになった少年に、一緒に入ろうぜとアランが手招きする。


「ど、どうも・・・僕ニコル・・・ニコル・フェルディナンドといいます。」


「俺はアランだ、アラン・バッシュフォードよろしくな。」


アランの隣に移動しながら自己紹介してきた少年に、アランは得意の笑顔で返す。

その表情にニコルと名乗った少年は、ほっとした様子で笑顔になった。


「そ、そういえばお連れの方は?」


う~んと腕を伸ばして疲れをほぐしていると、ニコルが聞いてきた。


「ん?マクレーンの事か?あいつなら、もう寝ちゃったよ。」


一緒に来ればよかったのにな~と、頭にタオルを乗っけながらアランが残念そうに答えた。

その言葉を聞いてニコルも残念そうにする。

その態度にアランは「何か用でもあったのか?」と聞き返した。


「あ、いえ・・・先程ぶつかった時に、きちんとご挨拶をしていなかったものですから。」


「なるほど・・・・まあ、あの時は、それどころじゃなかったからな~。」


脱兎の如く部屋へと戻ってしまったマクレーンを思い出し、ぷっと吹き出しながらニコルに気にするなと慰めた。


「マクレーンさんと言うんですか?あの方・・・怒っていませんでしたか?」


恐る恐る聞いてくるニコルにアランは「多分平気だ」と曖昧な返事をかえした。


「そうですか・・・。」


「そんなに気になるんなら、明日出発前に会うか?」


しゅんと項垂れるニコルに、アランはそう提案してくれた。

アランの言葉に、ニコルは嬉しそうに顔を上げる。


「あ、はいぜひそうさせてください!」


「そうか、明日は早く出発するって言ってたからな、早く起きて待っててくれ。」


アランの言葉にニコルは頷くと「じゃあ僕もう出ます!ではまた明日」と言って、ざぶんと勢い良く立ち上がると、あっという間に露天風呂から出て行ってしまった。

ひとり広大な湯船に取り残されるアラン。

なんとなく淋しくなったその空間に居た堪れなくなり。


「俺も早く寝よおっと。」


そう言って重い腰を上げるのであった。

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